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 また、当研究会では地域伝統芸術等保存事業や、地方公共団体の取組状況、文化による地域再生に関する事例等について、委員による意見交換を行った。主な意見の概要は以下のとおりである。
 
(地域伝統芸術等保存事業について)
○地域でがんばっている伝統芸能団体に、全国的なイベントヘの出演をお願いすることは、埋もれていた地域伝統芸能等を再現していくことにもつながり、これも一つの地域活性化であろう。地域伝統芸能まつりはそういった役割を大きく果たしている。東京のNHKホールで上演でき、多くの人々の注目を浴びることは、地方で地道にやっている団体の方々には、大変に励みになる。
 
○地域伝統芸能で一番大切なのは演じている人の気持ち・魂である。そういうものをいかに駆り立てていくかということが必要である。
 
○全国イベントは、都道府県レベルのイベントに出演したものの中から非常に優秀なものを選ぶこととすれば、地方とのつながりももっと出てくるかもしれない。
 
○企画力に優れているタイプに違う地域伝統芸能を、全国イベントになんらかの形で反映させるような企画をたてると、宣伝する上でも非常に効果があるのではないかという気がする。
 例えば、観光面の集客力に優れた芸能と地域の住民に密着し、それに支えられている芸能とか。
 
○市町村内には記録すべき民俗行事がまだたくさんあり、それを逐次映像記録していきたいという希望を持っている市町村も多い。
 
○映像記録保存事業のビデオライブラリーもさらに続けていけば、民俗芸能行事の貴重なデータベースができるのではないか。
 
○地域伝統芸能を保存する際、従来はビデオテープによる保存が多いが、これからはDVD化をしていくことも考えてはどうか。DVD化すれば、子供たちに見せる短いものや教育部分、また、伝承のための詳細な資料もすべて一枚に収まり、必要に応じて使い分けが可能になる。また、外部への発信ということを考えるとインターネットを活用することも検討してもよいのではないか。
 
○「地域資産のデジタルコンテンツ発信事業」が創設されたことは大変喜ばしいことである。今後、外部発信とともに教育、観光等へ有効に活用していただきたい。
 
○「地域資産のデジタルコンテンツ発信事業」には、英文等による説明もつけたらよい。海外からのアクセスもふえるであろうから。
 
(文化を基調とした地域おこし等について)
○市町村合併は、ある程度の団体の規模で文化行政も含めたしっかりした行政をやっていくというためには基本的に必要である。ただ、市町村の規模が大きくなると、周辺部に位置するところの地域文化を大事にしていくことができるかどうかという心配がないわけではない。だからこそ地域が一体となって地域伝統芸能等の保存・継承等に取り組んでいく必要がある。
 
○地域づくりについては、成功例を他の地域が共有できるようアピールしていってほしいと思うと同時に、失敗している例がいろいろとあると思うが、他の地域での成功例と失敗例の両方をきちんと見ていき、その次へつなげていってほしい。
 また、地域伝統芸能の保存・継承も含めた情報を、地域間でネットワーク化していってもおもしろいと思う。
 
○地方公共団体は、自分の地域の伝統文化を基礎にしたまちづくりをしてほしい思う。
 
○学校の授業で伝統文化全般について教えた上で、例えば歌舞伎などの個別の伝統芸能についての講義を行うと、理解の度合いが全然違うと思う。伝統文化全体に対する学校での教育はやはり足りないのではないか。
 
○教育の方法論としては、例えば世界史にしても日本史にしても、我々の実感から非常に遠いところから教え始めることが多い。本当は、もうすこし身近なところから教え始めていって、それが全体にどういうふうに伝わっているかという教え方をしたほうが、本当の意味の歴史としても身につくというところはあるんじゃないかなと。学校教育の在り方が、もうちょっと地域に密着した形であるべきではないかと思う。
 
○文化をテーマにしたサミットは割と多い。例えば猿田彦神社の猿田彦サミットみたいなものをやろうとして、猿田彦ゆかりの神社の宮司さんに来てもらったりとか、例えば熊野だったら、八咫烏サミットが開催されたことがある。熊野神宮で、八咫烏を奉っているいろいろな神社とか、地域の人たちに来てもらって交流を行っている。こういったものはいろいろあって、かなりいい交流を行っている。今後も地域活性化への力になるかなという気はしている。
 
○「おもしろい」、「楽しい」というのは、村おこしのキーワードになると思う。最近の若者を見ても、一緒になって動かそうとしたら、楽しいものでなければ来ない。ただ歩くだけでなく、太鼓を持って行ったり、笛を持って行ったりして、そういうものを打ち鳴らしながら歩いて行くとか。そういう様々な催しに対する楽しさの感覚みたいなものを、どこかできちんとつくり上げないと、なかなか入ってこないし、続かない。そこは、村おこしにしても何にしても、続けていくためのキーポイントだと思う。
 
○ 地域おこしも企画・運営力が非常に問われてくると思う。成功している地域は、企画力やアイデアをイベントなどにうまく組み立てていくノウハウがあるからだと思う。これは伝統芸能ばかりでなく、地域活性化にも関わってくる。例えば鳥取砂丘でも砂丘保安官というボランティアガイドをつくって、観光客等への案内、解説を行っているなど、いろいろプログラムや仕掛けをつくるプロデューサー的な人がいる。小鹿野町なども、歌舞伎はやらないが、歌舞伎の衣装とお化粧だけをして、一緒に写真を撮ってくれるような若い人がいたりとか、そのようなことを思いつく人がいる。
 
○ホールで地域伝統芸能が行われることは、とても良いことだと思う。最初はホールでいろいろな祭りを一堂に集めて実施することにより、興味を持ってもらうことができ、普及にもつながる。その後地元に帰って、上演すると地元でも盛り上がるし、外部の人にも見に来てもらえる。例えば秩父の神社の境内でやった歌舞伎の上演があったが、ホールから発展してまた地元に戻っていくような形がよいのではないかと思う。
 
○地域伝統芸能の保存・継承のためには、情報を発信していく力も必要になる。そういった観点からは、地域の人たちの身近な生活、たとえば普段は何をしているかなどの庶民の生活と祭の位置づけみたいなものを、もう少しきちっととらえるべきかもしれない。
 
○最近、「YOSAKOIソーラン祭り」など昔からの伝統芸能に現在の新しい感覚を取り入れたものが全国的にはやっており、各地で大きなイベントとして定着しているが、なぜ成功したかを検証する必要がある。
 
○新しい感覚を取り入れたりすることは、一方で本来地域伝統のもつ良さを打ち消す可能性を含んでいる。その点あたり十分に慎重に見極めなければならない。
 
○新しい形のイベントによって、本来の伝統文化が非常に圧倒されてだめになってきたということも最近よく耳にする。イベントという形が本当に保存事業としてふさわしいかどうかということをしっかり考えなければならない。
 
○地域に根ざした民俗、祭り、そういう生きたものを生きたままに保存という言い方はおかしいかもしれないが、それを大切に把握したいという側面と、それから、それをもっと現代の文化芸術という形で発展させたい、まさに保存と発展という矛盾するものをどう調和・発展させるのがいいのかというところ、結局はそこにいきつくのではないか。
 
○現在、かつて予想していなかった問題が数多くあり、伝統との調和というのは大変難しいところである。
 
○県をまたがって市町村合併をやった自治体において伝統芸能をどういうふうに扱うのかというのは、これからのテストケースとしておもしろい。
 
○伝統文化を活用した地域おこしについては市町村が中心となっていく必要があると思う。市町村レベルヘの取り組みでの支援を検討する必要がある。
 
○ただ、伝統芸能に対する意識が高まったということだけではなく、要するに地域の再生につながっていかないと意味がない。地域再生は観光客が増えるということだけではないはずなので、観光客が増えるのは一時的なことだから、むしろ住民の人たちの意識が高まるというか、例えば自分たちの郷土の文化についての誇りを感じるようになるとかそういうことも大事だと思う。
 
○地域再生を伝統的な言葉に言いかえると郷土意識となるのかと思う。
 
○地域再生でいうと、もし小学校を使わなくなった場合、要するに補助金を返さずに用途転用ができるということが今の地域再生計画の中にはある。そういう形、例えばいろいろな拠点として使うとかを考えるのも必要。
 
○学校等の廃校後の活用を真剣に考える必要がある。学校等を廃校にするときには、必ず文教的機能を持続するとか、地域における地域文化の活性化の拠点という形で廃校を位置づける必要がある。
 
○土地の人が自分たちで考えて、こういう部分を足したらどうだろうと考えているものはうまく成功している。


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