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7 最終報告としての提言
 日本の文化的伝統、日本的価値観、なかんづく死生観や自然観、習俗を見つめ直し、国民が郷土を愛し、誇りと親しみを持って地域づくりに取り組む気運を盛り上げることは緊急の課題として考えられる。
 研究会での各委員の発言・調査研究を踏まえ、伝統文化を保存・継承していく観点から地域づくりに取り組んでいく方策について、提言をまとめると、以下のとおりである。
 
○ 後継者・伝承者の育成
 地域で脈々と継承されてきた地域伝統芸能は、現在、後継者・伝承者の不足の問題を抱えている。
 後継者及び伝承者の育成のためには、小中学校等での学校教育の中で総合学習の時間ばかりでなく各教科に取り入れて自然に身につくよう関連させて教育をする工夫をそれぞれの地域で行う努力や、子ども会等を活用した地域での取組みを検討することも考えられる。
 それと同時に、地域伝統芸能の本質を崩さないことを前提としながらも、地域伝統芸能の保存・継承における「楽しさ」、「おもしろさ」を重視したり、現代的な新しい感覚の導入も必要である。
 地域伝統芸能だけにとどまらず、地域に脈々と受け継がれている文化、信仰を含む地域独自の取組みなど多角的に取り組んでいき、住民が郷土に誇りと愛着を持って積極的に地域づくりに取り組む気運を盛り上げる必要がある。
 
○ 地域社会の形成
 地域伝統文化は、地域住民等の楽しみのほか、郷土意識、コミュニティ意識の向上につながっていく側面への期待も高まっている。一部地方公共団体では、地域の特性により育くまれた「地域文化力」など、「文化」をキーワードに地域再生に取り組んでいる団体もある。
 市町村合併、過疎化等の多くの問題を抱える地方にとって、地域の伝統文化を自然に維持できるような地域社会の形成と住民意識の向上が必要である。
 また、従来、コミュニティの支柱であった学枝等が統廃合により廃校となっている状況もある。このような状況の中、廃校となった学校を都市計画に位置づけ、地域伝統文化の施設等として活用するなどして、地域伝統文化がコミュニティの支柱として継続していく試みも重要である。
 今後、地域自治区等の新しい制度も活用されていく中で、郷土意識、コミュニティ意識の向上につながる地域伝統文化を地域づくりの核にしていくことも考えられる。
 
○ 地域伝統芸能等の文化財政基盤等の強化
 地域に根ざした地域伝統文化は、ほとんどが地域の保存会等で担われている。多くが、財政的に苦しい状態が続いている現状がある。地域伝統芸能として保存・継承されていく中では、財政的な基盤整備も必要である。
 しかしながら、行政サイドも厳しい財政難の状況にあり、新たな財政支援は難しい状況にある。
 このような状況のもとでは、行政、民間等で現在行われている様々な財政支援を有効に活用する必要がある。
 保存会等の地域伝統文化の担い手にとって必要な支援がわかりやすく、また、有効に活用されるよう国、都道府県、市町村の施策の共有化等により使いやすさを考える必要がある。
 また、民間企業等で行われている財政支援についても、積極的な活用がなされるよう行政サイドからの働きかけが必要である。
 
○ 情報発信力の強化・情報の共有化(問題の共有化)
 地方には、数多くの素晴らしい地域伝統芸能が存在している。現在、「地域伝統芸能保存事業」等を活用して、全国イベント、都道府県イベントでの披露、映像記録保存事業による映像記録等が行われている。さらに、その素晴らしい地域伝統芸能が、地域づくりに取り組む気運を盛り上げ、各地域の伝統芸術・文化を地域間交流・国際交流・教育活動・地域ブランド化・コミュニティの活性化等の多様な活動に利活用されるように「地域資産のデジタルコンテンツ発信事業」等の様々な手段を有効に活用し、情報発信力を強化することも重要である。
 また、地域伝統芸能が抱える多くの問題は、それぞれ同じような問題を抱えている団体が多くある。それを乗り越え発展を遂げている団体等も数多くみられ、こういった問題解決の手法等を共有化できるような地域の枠を超えた地域伝統芸能のネットワークの拡充等の取組が必要である。
 さらに、地域伝統芸能を核にした情報発信力の強化や情報の共有化により、地域の枠を超え、県、さらに国を超えた連携による取組みも今後は重要となってくると考えられる。
 
 今後、さらに、報告書で紹介した事例や提言を参考とし、「地域伝統文化を活用した地域再生のあり方」について、国や各地方公共団体で検討が加えられ、各々の実態にあった手法がとられ、地域の活性化が図られることを期待する。


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