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6 研究会委員からの提言・意見
 当研究会には、様々な専門分野をもつ研究会委員が在籍をした。
 そこで、委員の専門分野からの文化による地域再生に関する提言を以下で掲載する。
 
「下京区を歩く」
山折 哲雄
 私は今、京都の下京区に住んでいる。それで、祇園祭ともなれば、私の町内からも芦刈山という山車が出る。いわゆる鉾町の一つである。
 下京区といえば、松尾芭蕉の有名な句がある。
下京や雪つむ上の夜の雨
 このあいだ、四年ぶりといわれる大雪が京都の街にも降った。そのときも、この芭蕉の句を思い出していた。
 そんなこんなで、休日ともなると、私はよく散歩に出る。小路から路地へ、細い道を辿って歩いていく。そんなときはいつも作務衣に下駄ばきという出で立ちである。あるとき、わが家から歩いて五分ぐらいの路の脇に、「道元禅師御示寂聖地」という石碑がポツンと立っていることに気がついて驚かされた。それだけではない、それからしばらくして、その辺あちこちを歩き回っているうちに、ある小路で「親鸞聖人御入滅の地」という石碑にぶつかった。
 さすが京都、というほかならない。親鸞と道元はほとんど同時代を生きていたのであるから、二人はあるいはどこかの街道で行き違っていたかもしれない。そんなことを考えながら歩いていると、京都の町を歩くことは歴史を歩き、文化の源をたずねて歩くことに通ずると思うようになった。
 もう一つ気づいたことがある。下京区周辺の小路や路地を辿って歩いていくと、ほとんど五十メートルおきぐらいに、小さな小さな祠がつくられているのである。観音や地蔵のようなホトケたち、稲荷や八幡のようなカミたちがひっそり祀られている。それがどの祠もきれいに掃き清められ、花や香がそえられていた。町の人々が朝夕に、おそらく交代で祀り、守りつづけているにちがいない。
 その小さな祠をみるたびに、私は京都の町の人々の心の豊かさを感じないではいられないのである。京都という地域がもつ真の実力のようなものを感じないではいられないのである。
 
「文化を基調とした地域再生について」
猪又 宏治
1、文化の継承
◎伊勢神宮の遷宮を一例に、祭りとヒトと人との連携
 伊勢神宮は20年に一度の遷宮のために、社殿をはじめ神宝など様々なものが新しく造られる。その行事は、日本古来の素晴らしい祭りと技術の伝承で、約1200年以上にわたり連綿と技術の継承が行なわれたことになる。
 しかし遷宮も順調なときばかりではなかったようで、その再興には時の権力者の協力があったのは事実。ここで重要なのは、その技術の伝承についてで、遷宮のたびに新調される装束・神宝は約800種類、約2500点にもおよぶ。伝承は庶民の職人の手から手に行われ、言うなれば庶民レベルの技術の活性化が行われている。そして遷宮の儀式になれば多くの庶民が祭りに参加し、地域の意識が一つになり、そしてまた継承されることになる。同じように、長野の御柱の祭りも7年に一度とり行なわれ、祭りと地域住民のコミュニケイションが図られている。また、これらの祭りを見に各地方から人が集り、さらに祭りを盛り上げている。
 継承されている伝統の根強さが伺われ、古来の祭り・技術を次の世代に伝えている。
 この祭りのシステムを参考に地域再生の鍵を考えてはどうか、古来から続くすばらしいシステムと思われる。
 
2、イベントについて
 イベントは一過性的な催しで、その時の盛り上がりはあるが、続けていくということについて考えさせられる。現代のイベントはボランティアだけでできるものではなく、つねに経済的負担がのしかかってくる。
(1)人の問題/主催者・協力者・スタッフ
(2)開催費用の問題
(3)ソフトの問題
 しかし、いい面もある。すばらしいイベントは参加した人たちの心に感動を残すことだ。感動は人の心に残り、その感動を他のものへ伝えていくことだ。伝えていくことが大事である。
 
3、よさこいソーランのこと
 よさこいソーランはかなり日本を席巻しておリ、地域の祭りを継承する方たちは、脅威を覚え、地元本来の祭りがよさこいソーランにとってかわられるのではないかと心配している向きがある。しかしながら学校などの体育祭などでは子供たちが楽しそうに踊る様子も見られたりすること。また、各地で行われるよさこいソーラン的なものは実際若者達の心をつかんでいることは見て取れる。地域の祭りは、それを脅威ととらず、まず受入れ、踊ることに歓びを感じる若者へ、受け入れることで、欠点ではなく長所をもらうことだと思う。それは、祭りの楽しさをよさこいソーランが若者に教えたことだ。その上で、地域に伝わる祭りの魅力を知ってもらうよう、アピールしていくことだと思う。興味があることがわかったのだから、地元の文化をアピールするある意味いい機会ととらえることだと思う。
 
4、感想・結語
 現在の日本は足もとに素晴らしい文化をもちながらそれを見ようとしない、海外文化偏重の考えが相変わらず根強い。日本古来の芸能であっても海外の凱旋公演となると注目を浴びる。美術にしてもしかりである。常設展で素晴らしい美術があってもなかなか観客は集らない。その傾向は根強い。ならばどうしていくか。日本の足元の芸能はあまりに身辺から遠のいているので、どう近づけるかが問題。そのためにはまず個人が、市町村が、地方自治体が、国が認識して、身近に近づけることと思われる。
 文化を基調に地域の再生を行うことは、日本の文化の足下を見つめなおし、人と人とのつながりを、文化という心でつないでいくこと。その文化の力の源は何かといえば、国民ひとりひとりの遺伝子の中に眠る日本文化の心で、その心をどう目覚めさせるかということであると思う。そのために、わたしたちは文化を守っていかなければならず、様々な形で、公開と伝承を続けていかなければならない。


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