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スウェーデンにおける調査の概要
1 調査対応者
林 健久(東京大学経済学部名誉教授)
宮地俊明(総務省自治財政局地方債課理事官)
 
2 実施時期
平成17年1月
 
3 調査実施国
スウェーデン
 
4 調査事項及び調査先
(調査事項)
・政府間財政関係(地方税財政制度の企画立案・運営に係る中央政府と地方政府との関係及び協議体制)
・地方税制及び財政調整制度のあり方
 
(調査先)
1月17日(月)・・・スウェーデン財務省
1月18日(火)・・・ウプサラ・コミューン
1月19日(水)・・・スウェーデン自治体連合(The Swedish Association of Local Authorities and Regions)
1月20日(木)・・・ストックホルム・コミューン
1月21日(金)・・・ティエルプ・コミューン
 
スウェーデンにおける政府間財政関係及び地方税財政制度について
 去る1月15日から1月23日にかけて、「地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方に関する研究会」(委員長:林健久東京大学名誉教授)における議論に資するため、スウェーデンにおいて現地調査を行う機会を得た。
 スウェーデン財務省、スウェーデン自治体連合をはじめ、ストックホルム、ウプサラ、ティエルプの各コミューンをそれぞれ訪問し、地方税財政制度の企画立案・運営に際しての国・地方間の関係、地方税制及び財政調整制度のあり方について幅広くヒアリングを行うとともに、関連資料の収集を行った。
 以下、今回のヒアリング結果の概要をご紹介することとしたい。
 
[スウェーデンの地方自治体]
基礎的自治体・・・コミューン(kommun)
 教育、社会福祉、都市計画、住宅、公衆衛生など多岐にわたる業務を担当。現在290団体あり。
広域的自治体・・・ランスティング(landsting)
 医療サービスの提供が主な業務。現在20団体あり。
※基本的に両地方自治体の業務に重複はなく、上下関係なし。
 
[中央政府と地方政府との関係]
(1)中央政府における地方財政担当部局について
<制度の企画立案>
・財務省が平衡交付金制度をはじめとする地方財政制度を所管。
また、財務省には、財務大臣のほか、自治体担当大臣が置かれている。
・財務省における地方自治担当部署は、自治法担当と地方財政担当の2つのdivisionからなっており、地方財政担当divisionは9名体制。
・かつては内務省が担当していたが(1996〜98年)、内務省解体に伴い、財務省が地方の利益を守る役割を引き継ぐ。権限委譲等に伴い増加した業務に見合った財源(補助金)が各省から出されているか、監視する機能も有す。
<制度の運用等>
・国税庁が地方税の徴収、地方自治体への支払いを担当。また、平衡交付金の交付等も担当。
・中央統計局が平衡交付金の所得・費用の両要素に係る情報の収集等を担当し、国税庁と協力して平衡交付金制度の運用に当たる。
 
(2)自治体連合について
<設立の経緯>
・都市を構成員とする団体とそれ以外のコミューンを構成員とする団体の2つが合併し、1968年にコミューン連合設立。
・1920年にランスティング連合設立。
・2005年にコミューン連合とランスティング連合が合併し、自治体連合(The Swedish Association of Local Authorities and Regions)に。ただし、現時点では事務局の統合のみで、政治的組織も含めて合併が完了するのは2007年。
全てのコミューン及びランスティングが自治体連合に加盟。
 
<連合の役割>
・地方自治体を代表し、地方自治体の利益を守るために活動。
・主な、役割としては、(1)地方自治体の各種活動に対し専門的な助言・支援を行うこと、(2)自治体職員の団体に対して、雇用者側の代表として交渉等を行うことが挙げられる。
 
(3)国と地方の協議体制について
・自治法等の法制化に当たって、財務省と自治体連合とで、必要に応じ協議。政治レベル(自治体担当大臣と自治体連合の代表者)での折衝もよく行われる。かつては、中央政府とランスティング・コミューンとの間の協議のための公式的な会合が存在したが、現在は、非公式に必要に応じ開催。(財務省)
・通常、国・地方間の交渉は、自治体連合が実施。ただし、個々の地方自治体が直接国と交渉することを妨げるものではない。(自治体連合)
 
[地方税制]
(1)地方税増税に対する中央政府の関与について
・1970年代に実施された「自発的増税停止勧告」は、中央政府とランスティング・コミューンとの間の合意に基づくもの。地方は増税しないよう努力し、国は補助金増額等による財政支援に努めることを約束したもので、税制改革に伴って地方による増税を中央政府が嫌ったことが背景。
・1991〜93年までの間、法律により、地方所得税の税率を1990年の税率以下に制限。最高3年間までの税率制限は、地方自治体の課税権を保障する憲法の規定に反しないとの見解を踏まえたもので、中央政府が個人消費の冷却をおそれたことが背景。
・1994年は、中央政府が補助金を増額して地方所得税の増税を抑制(増税したのは1コミューンのみ)。
・1995、96年は、多くの地方自治体において地方所得税の増税が実施される。
・1997〜99年までの間、地方所得税増税による増収分の1/2に相当する額の補助金減額措置を実施。これも憲法に抵触しないとの判断を踏まえたもの。
・現状においては、地方税の税率(増税)に対する明示的な中央政府の関与はないが、他の地方自治体との競争もあるので、実際にはなかなか税率を上げることはできず、言われるほど自由ではないと認識。(ティエルプ)
 
(2)地方税制の動向について
・1985年に、地方税の7%程度を占めていた法人税を地方から国へ移譲(見返りに補助金増額)。背景は、大企業が大都市部に集中し税源が著しく偏在していること、景気による税収変動が激しいこと。これによリ、地方所得税単一税制となる。
・1991年に、地方所得税のうち、不動産(帰属家賃)に係る部分等を廃止し、国へ移譲(見返りに補助金増額)。地方所得税は勤労所得のみ(年金含む。)が課税標準となる。
 
(3)地方所税単一税制のメリット・デメリットについて
・景気変動の影響を受けやすいのがデメリットであるが、年金も課税標準となっており、言われるほど影響は受けない。むしろ、財政調整制度(所得平衡交付金)の簡素化にもつながり、予算の予測がしやすいという利点あり。(財務省)
・勤労所得は最大の課税標準であり、また、相対的に地域間格差が小さく、経済のトレンドにも即していることなどから、現行の地方税制に不満はない。(自治体連合)
・政治的にも事務的にも税の多様化の議論は出ていない。インフラ整備を進め企業活動を活発化させることにより、企業による雇用を増やし、そこから地方所得税を徴収するという発想であり、法人課税の議論もない。(ストックホルム)
・現行の地方税制に特に異論はない。(ウプサラ)
・固定資産税は地域によって土地の評価にバラツキが生じ、不公平な制度になりやすいと認識。また、大企業の多くがストックホルムに集中している現状において、法人課税は問題。(ティエルプ)
 
(4)国税庁による地方所得税の課税・徴税について
・課税・徴税業務を地方自治体が自ら行うことについて、議論は全くない。国が一括して行った方が効率的であり、また、情報公開も徹底しているので、国に任せても確実に課税・徴税が行われるという安心感がある。(ストックホルム)


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