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4. 地方財政制度
(1)地方財政制度
(1)一国多制度、(2)90年代以降、財政面での分権化が進展、(3)EUからの強い影響力という特徴が見られる。
(1)一国多制度
・15の普通州に適用される制度と、5つの特別州に適用される制度の二制度が存在。特別州は、それぞれの区域で徴収される国税(除VAT)の配分を受ける。対象となる国税、配分比率は、各特別州で異なるが、例えばシチリア州ではVAT以外の全ての国税について100%の配分を受けている。
(2)90年代以降の分権化
・地方財政は、かつては国からの交付金・特定補助金に依存していたが、90年代以降、地方自治体への税源・税収移譲を大規模に行うことにより財政面での分権化が進展した。
・この背景には、EU通貨統合に参加するために地方財政に規律をもたらす必要があったこと、国から地方自治体、特に自治州・州への権限移譲が実施され、その財源を移譲する必要があったことがある。
・分権化に伴い、財政調整制度の改革が行われ、税源・税収移譲に伴う格差是正のための水平的調整の要素の導入、制度の透明性の向上等の改革を実施された。
(3)EUからの強い影響
・EU安定成長協定が国・地方財政に強い財政規律をもたらしている。
・イタリアは、EU構造基金からの受取額2位(00年〜06年の合計)。
 
(2)税源・税収の移譲
・90年代に入って州への税源・税収移譲がはじまった。州の主要な事務である医療の財源を、国の交付金から州の自主財源にするため、90年代後半にこの動きが加速した。主なものは、97年の個人所得税(IRPEF)への付加税の創設、98年の州生産活動税(IRAP)の創設、その他として自動車登録税の移譲、ガソリン税からの税収配分など。
・IRAP、IRPEFへの付加税、自動車登録税には、制限税率の範囲内で税率変更権限あり。IRPEFへの付加税については、一部の州で制限税率の上限まで増税する動きがある。
・現政権には、IRAPは生産活動ではなく労働コストに課税しており、将来的に廃止すべきとの考えがある。03年の税制改正で課税ベースから20%の労働コストが控除されることになった。また、03年税制改正でIRPEF減税が打ち出されたことから、州によるIRPEF付加税の税率引き上げが、03年から凍結された。
・憲法改正法3号によって改正された憲法第119条では、地方自治体の財政的自立(財政連邦主義)、財政調整のための均衡化基金の設置を規定しており、州への権限移譲の動向等を踏まえ、これを具体化することが課題である。この問題を検討するための委員会が、経済財政省内に設置されており、当初2004年9月末までに結論を出す予定であったが、9月のヒアリング時には年内を目途に、と延期され、現時点では2005年1月末に素案(委員会内の作業部会案)提出となっているとのことである。
・同委員会の委員長によれば、IRAPの減収分は、IRPEFの付加税の増収措置を講じることにより相殺する。現在、VAT税収の38.55%が一定の公式で各州に配分されているが、これを実際の各州でのVATの納税額の80%を配分する方法へと変更することを検討している。これにより、教育、医療、地域警察の州への権限移譲のための財源が税収でまかなえる。
 
(3)財政調整制度
 自治州・州と地方自治体とで別の財政調整の体系となっている。
・国から州への各種交付金により、財政需要と財政収入の差が補填されていたが、これまでの税源移譲や01年に付加価値税収の38.55%を充てて財政調整のための基金が創設されたことにより、普通州に対する国からの交付金(経常的支出に係るもの)はほとんど全て廃止された。
・この財政調整基金は、これまでの交付金の交付実績と一定の公式に基づく配分とに大別される。初年度の01年は00年の実績のみに基づき配分され、その後徐々に公式による配分のウェイトを高め、2014年には完全に公式のみによる配分へ移行される。
・配分比率の公式は、人口シェアを基本に、税収(除くVAT)格差の90%、医療ニーズの格差、非医療ニーズの格差の70%を足したものである(格差とは、それぞれ全国平均からの乖離であり、その合計は当然ゼロ)。ロンバルディア州のような税源が豊かな州にとっては、人口シェアに見合った税収を受け取れないという意味で、拠出となる。
・この財政調整スキームについて、ロンバルディア州など一部の富裕州からは、国が配分に介入することについて激しい批判がある。
・公共事業については、国から州(主として南部の州)へ包括的な交付金が配分され、州が配分を決定。公共事業の実施には、この他に、一定の計画に基づくプロジェクトに対する補助金がある。
・憲法第119条に規定される均衡化基金については、経済財政省内に設置された委員会における税源配分の結論を踏まえ、同委員会で検討されることになっている(現時点ではまだ結論を見ていない)。
 
(4)今後の課題
・イタリアの地方財政改革は、まさにターニングポイントにある。01年改正憲法第119条は、財政連邦主義を体現した条文であるが、これを完全に実施すれば州間の格差はさらに大きなものとなる。
・財政調整をどの程度行うかによるが、今後制度設計される財政調整のための均衡化基金へ過大な負担がかかる可能性がある。減税路線を打ち出す現政権が、その財源を手当てできるのかは疑問。また、現行の財政調整制度では、最終的に(2014年から)州間の税収格差の90%が調整されることになるが、残る10%の格差でも実際に受け入れられることになるのか、疑問視される。
・財政連邦主義の徹底については、連立与党でキャスティングボードを握る北部同盟が主に推進してきたが、与党の中にも、連邦主義の行き過ぎに歯止めをかけることが必要とする声がある。
・富裕州も、国と配分をシェアする税について、配分比率を富裕州と貧困州とで変えること自体には反対しておらず、批判の矛先は国の関与と改革スピードの遅さである。改革についていけない南部諸州との間で、財政連邦主義の導入のスピードに差をつけることを主張。
・イタリアの地方分権改革は現在、矛盾をはらみながらも推進されている。
 
5. 大都市制度
(1)大都市制度
・基本的に全てのコムーネは法的には同じ権限・事務の配分。01年改正憲法で、大都市圏が地方自治体として位置づけられ、現在、内務省において制度の具体化に向けた検討が行われている。
・9つの大都市と呼びうるコムーネがあり、これらの周辺コムーネを併せて大都市圏とすることになっている。
・大都市圏の行政機能は、県が担当していた機能、周辺コムーネの機能の一部を取り込む。財源も同様。ただし、大都市ごとに異なる特性があるので統一した基準の作成が困難。
(2)首都
・01年改正憲法では、ローマが首都と位置づけられたが、その具体化には未着手である。
 
(参考)広域自治体の比較
日本(都道府県) イタリア(州)
平均人口 271万人 287万人
平均面積 0.8万km2 1.5万km2
人口格差 20倍 76倍
経済力格差 2.6倍 2.2倍
人口格差、経済力格差は、最大/最少。経済力は、一人当たりGDP。
データはいずれも2001年。


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