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3.2.1.2 各指令の概要
(1)水枠組指令(2000/60/EC: Water Framework Directive)
 水枠組指令(WFD: Water Framework Directive :2000/60/EC)は、水質管理のための新たなモデルを導入することで、EUの水規制を改定するものである。同指令は2000年9月にEUによって正式に採択され、2000年12月22日に発効した。
 環境上の観点から、WFDの究極の目的は全ての水域(内陸、沿岸、地下水)における環境の更なる悪化を防ぎ、「良好な状態」を達成することである。そして、WFDの管理アプローチ(河川流域での総合的な水管理)によって、EU内での水政策の全体的な管理が確実に行われることである(第1条)。
 「枠組」であることから、同指令では、共通的なアプローチや共通目標、原則、定義及び基本的な措置を定めることにより、地域レベルで効率的で有効な水環境保護を促進できる適切な状況を確立することに焦点が当てられている。しかし、「良好な状態」を達成するのに必要とされるメカニズム及び固有の措置は、地域レベルで行われ、権限のある(国、地域、地方、あるいは河川流域)当局の責任で行われる。
 WFDの実施によって、さらに合理的な水環境の保護や水の使用、水処理コストの削減、地表水のアメニティー価値の増加、及び調整のとれた水管理が実現しなければならない。最終的な利益は、水利用の持続可能性が確保されることである。
 過去25年にわたって策定されてきたEUの様々な水規制には関連性がなく、互いに整合性に欠け、持続可能ではなく、ある汚染物質による汚染の抑制またはある水域での汚染の抑制を意図して制定されていることから、同枠組指令が必要とされていた。
 なお、WFDは、基本法的な指令であるために、次の具体的な規制の仕組みは個別のEU指令及び加盟国の国内法に大幅に委ねられている。
(1)排出基準と環境基準の両アプローチの採用
(2)加盟国は同指令発行後12年以内に同アプローチにより汚染源の規制を制定
(3)指令発効後15年以内に環境目標を達成
(4)化学的環境質基準は、水、堆積物、またはバイオータ(生物相)で設定
 水枠組指令では、「汚染物質」とは汚染を発生させやすいあらゆる物質であり、以下の附属書VIIIでリストされている。これらの汚染物質のグループに対しては、共通的な環境基準及び排出制限値が、EU規制において最低限の要件として規定されることになっている。そして、EUレベルで、このような基準の採択のための規定が定められることになっている。
 
附属書VIII 主たる汚染物質の表示リスト
(1)オルガノハロゲンの化合物及び物質で、水環境においてそのような化合物を形成するであろうもの
(2)有機燐化合物
(3)有機錫化合物
(4)発ガン性または突然変異誘発性を有すること、あるいは、水環境において、または水環境を経由してステロイド合成、甲状腺、生殖、または他の内分泌関連機能に影響を与えるであろう性質を有することが証明された物質及び調合物、または分解されたもの
(5)分解されにくい炭化水素と、分解されにくく体内蓄積性のある有機毒性物質
(6)シアン化合物
(7)金属及びその化合物
(8)ヒ素及びその化合物
(9)殺生物剤及び植物保護製品
(10)懸濁液中の/浮遊の物質
(11)富栄養化を促進する物質(特に、硝酸塩及び燐酸塩)
(12)酸素バランスに好ましくない影響をもたらす(またBOD、COD等のようなパラメータを用いて測定されうる)物質
 
共通的な環境基準及び排出制限値基準の採択のための規定:
関連指令の廃止など
第22条 廃止及び過渡的規定
1. 以下は、この指令が発効した日から7年後に廃止されるものとする。
(1)加盟国における飲料水くみ出しのための地表水について求められる質に関する1975年6月16日の指令75/440/EEC
(2)共同体における淡水地表水の質に関する情報交換のための共通手続を確立する1977年12月12日の理事会指令77/795/EEC
(3)加盟国における飲料水くみ出しのための地表水についてのサンプリング及び分析の測定及び頻度についての方法に関する1979年10月9日の理事会指令79/869/EEC
2. 以下は、この指令が発効した日から13年後に廃止されるものとする。
(1)魚類を保護するために保全または改善を必要とする淡水の質に関する1978年7月18日の理事会指令78/659/EEC
(2)貝類のための水について求められる質に関する1979年10月30日の理事会指令79/923/EEC
(3)特定の有害物質により生じる汚染からの地下水の保全に関する1979年12月17日の理事会指令80/68/EEC
(4)指令76/464/EEC、ただし、第6条はこの指令の発効後廃止されるものとする。
3. 以下の過渡的規定は、指令76/464/EECに適用されるものとする。
(1)この指令の第16条の下で採択される優先物質リストは、1982年6月22日の理事会に対する委員会コミュニケーションの優先物質リストに代わるものとする。
(2)指令76/464/EECの第7条の目的から、加盟国は、この指令に規定される、汚染問題及びそれを引き起こす物質の特定、質基準の確立、措置の採択についての原則を適用することができる。
4. 第4条の環境目標及び、附属書IXにおいて、また第16条7項に従って、また優先物質リストにない物質については、附属書Vに従い加盟国によって、また共同体レベルの基準が設定されていない優先物質に関しては第16条8項の下で規定される環境質基準とは、指令96161/ECの第2条7項及び第10条の目的に対する環境質基準とみなされるものとする。
排出制限値
附属書IX 排出制限値及び環境質基準
 指令76/464/EECの下で設定される「制限値」及び「質目標」は、この指令の目的から、各々排出制限値及び環境質基準と考えられるものとし、それらは、以下の指令において設定される。
(1)銀排出指令(82/176/EEC)
(2)カドミウム排出指令(83/513/EEC)
(3)水銀指令(84/156/EEC)
(4)ヘキサクロロシクロヘキサン排出指令(84/491/EEC)
(5)有害物質排出指令(86/280/EEC)
(2)海水浴場水指令(Bathing Water Directive: 76/160/EEC)
 海水浴場水指令では、公衆衛生と環境の保全目的で、EUにおける淡水や海水の水浴場における水質を確保することが規定されている。そのために、細菌に関する水質基準や化学的、物理的な水質基準が規定されており、加盟国は、水質をモニタリングし、設定された期限内に基準を遵守できるよう措置を講じることになっている。
(3)新飲料水指令(New Drinking Water Directive: 98/83/EC)
 同指令は、1980年の旧飲料水指令(80/778/EEC)に置き換わるものである。旧指令では、EU全体にわたる飲料水品質を消費者に確保していたが、科学的/技術的な根拠(当初の提案は1975年)及び管理アプローチが古くなってしまった。
 従って、新指令では、パラメータ値のレビュー、及び最新の科学的知識(WHOガイドライン、毒物学・生態毒物学に関する科学委員会)に従って規制値を強化した。
 新指令では、例外はあるが、人間が消費しようとする全ての水及び食品の製造や販売に使用される水が対象となっており、同指令の目的(第1条 目的)は、以下の通りである。
(1)本指令は、人間の消費のために意図された水質に関するものである。
(2)本指令の目的は、健康に適切でかつ清浄であることを確保することで、人間による消費を意図された水の汚染の悪影響から人間の健康を保護することである。
 また、新指令の特徴である透明性の強化では、以下の点があげられる。
(1)水の使用地点が、水質の遵守個所である(第6条)
(2)ISO/CENの基準の参照
(3)水質に関する報告義務
(4)消費者に対する飲料水品質や措置の公開義務
(5)健康と環境にとって不可欠なパラメータの効率的な制定(旧指令では、66のパラメータが、48(15の新しいパラメータを含む)まで削減)
(4)飲料水用途の公共用水域に係わる指令(Directive on Surface for Drinking Water Abstraction: 75/440/EEC)
 飲料水のくみ上げのための表層水の汚染を削減及び防止することが、同指令の目的である。強制されない指針値と、制限値が定められており、加盟国は飲料水がくみ上げられる表層水の水質をモニターし、また、最低限の水質基準を遵守するために措置を講じることになっている。
(5)魚のための水指令(Freshwater Fish Directive: 78/659/EEC)
 同指令は、1970年代及び80年代に採択された最初のEU水関連規制の一つであり、淡水魚のために真水の水質を保護し、改善することを目的としている。指定された水域の水質に対して、緊急を要する値(強制値)をI値、重視するよう努める値(ガイドライン)をG値と定めている。
 加盟国は、指定された水域の水質をモニターし、最低限の基準値を遵守するための措置を講じることになっている(同指令は、水枠組指令の採択後は、その中に統合化される)。
(6)貝類のための水指令(Shellfish Water Directive: 79/923/EEC)
 同指令は、貝類が生息する水域の水質の保護及び改善を目的としている。指定された水域に対する基準値(指針値と強制値)が規定されており、保全や改善が必要と思われる地域を指定することになっている。
 加盟国は、水域の水質をモニターし、最低限の基準値を遵守するための措置を講じることになっている(同指令は、水枠組指令の採択後は、その中に統合化される)。
(7)都市廃水処理指令(Urban Waste Water Treatment Directive: 91/271/EEC)(1991年6月19日発効)
 同指令では、以下について規定している。
(1)人口及び経済活動の密集地(2000 p.e.(population equivalent)以上、1p.e.は1日の酸素量0gとした5日間生物化学的酸素要求量(BOD5)に相当する負荷)からの都市廃水(生活廃水、または産業廃水・雨水と生活廃水との混合物)の回収、処理、排出
(2)産業部門からの生分解廃水の処理と排出
 また、EU 全体における都市廃水処理に関する措置を調和させることも目的であり、加盟国は、指定された基準や期限に従って、廃水が排出される前に確実に回収・処理されるようにしなければならない。
 処理に関しては、二次処理(例えば、生物学的処理)が一般的であるが、さらに処理が必要とされる過敏な(sensitive)エリアでは、栄養分が除去される。
 指令の実施期限は、人口密集地の規模や受水域の特性によって異なっている。
 なお、関連指令98/15/ECは、加盟国による解釈の相違に終止符を打つために、都市廃水処理設備からの排出に関する規則を明確化している。特に、次の内容について明確化している。
(1)10,000から100,000p.e.のエリア及び100,000p.e.以上のエリアに対しては、総窒素濃度の日平均を使用するオプションが適用される。
(2)生物学的反応装置の排出温度に関する条件、及び地域の気候条件を考慮した操業時間の制限だけに対して、日平均を使用する「代替の」方法が適用される。
(3)「代替の」方法を使用する場合には、環境保護において年間の平均的な方法と同一のレベルを確保しなければならない。
(8)硝酸塩指令(Nitrates Directive: 91/676/EEC)
 硝酸塩による水質汚染は、集約農法の導入、化学肥料の使用の増加及び小規模なエリアでの動物の飼育密度の増加によって悪化した。硝酸塩による水質汚染は、すべての加盟国において問題を引き起こしている。硝酸塩の汚染源は、拡散している(様々な排出があり、また特定することが困難である)。
 1980年代は、除草剤及び肥料などよる集約的な作物生産の拡大及び既に飽和状態である集約的な畜産業(鶏、ブタ)の拡大により、状況は悪化した(水中の硝酸塩濃度は、年平均1mg/l増加していた)。
 従って1988年に開催されたフランクフルト閣僚会議では、水質保護に関する規制が調査され、参加者は、規制の改善の必要性を主張し、都市廃水処理指令及び硝酸塩指令を採択した。
 また、同指令は、以下の目的を達成するために策定された。
(1)農業に起因する硝酸塩によって引き起こされる水質汚染を削減すること
(2)この種の更なる汚染を防止すること
 この目的を果たすために、加盟国は、このような汚染によって影響され、また影響されるであろう水域を特定し、さらにそれらの水域及び水域への排出が生じる全ての既知のエリアを「脆弱なゾーン(vulnerable zone)」として指定する。これらのゾーンに対しては、汚染を削減するためにアクション・プログラムを策定し、実施する。
(9)地下水指令(Ground Water Directive : 80/68/EEC)
 同指令は、地下水への有害物質の排出に関する加盟国の法律を調和させ、またこのような水質の系統的なモニタリングを確立することにより、汚染に取組み、地下水の汚染を防止することを目的としている。







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