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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001 No.1 RIM
中国三大改革は成功するか
顧問 渡辺利夫
 
 中国の経済大国化を予想する議論が再び賑わいをみせている。広東省や江蘇省、上海などの沿海諸地域で、生成しつつある巨大な産業集積を目の当たりにすると、これを中国経済大国化へのまごうことなき動態として実感するのも、無理はないのかも知れない。しかし私は、中国大国化論は時期尚早だと思う。長期的には大国化の可能性があるにせよ、その可能性を論じるには、目下の容易には超え難い、いくつかの改革課題をクリアーしてからでなければならない。以下、現在の中国の改革課題のポイントについて考えるところを記してみよう。
 中国の経済体制改革の成果には、みるべきものがある。農業改革の実績はいうに及ばない。都市の市場経済化の速度もめざましく、この過程で郷鎮企業、個人・私営企業、外資系企業など非国有企業の活力が大いに発揚された。そして改革の焦点は、ついに中国社会主義の「本丸」国有企業に及んできた。しかし、ここにいたって改革は、デッドロックに乗り上げたかの感がある。この問題が現在の中国経済を考える場合の焦点である。
 中国の体制改革の方式は「双軌制」、すなわち計画経済軌道と市場経済軌道の併存として特徴づけられる。計画経済を温存しながら市場経済の支配する領域を次第に広げ、後者に包囲された前者の市場経済化を促すという漸進主義的な方式が「双軌制」である。ビッグバン方式の急進主義的改革と対照される。
 体制改革の起点1979年に工業総生産額の8割を占めていた国有企業のシェアは、近年3割を切るまでに縮小し、市場経済軌道を走る郷鎮企業、外資系企業、個人・私営企業など非国有企業群のシェアが拡大した。「双軌制」の成功である。しかし「双軌制」の成功とは裏を返していえば、国有企業が非国有企業との競合に破れ、その経営状態が深刻化したという事実に他ならない。
 中国の国有企業の生産シェアは工業総生産額の3割を切るまでに縮小したとはいえ、国定資産総額においてはなお5割以上(53.4%)を占め、しかも基幹産業においてこの比率は一段と高い。また国有企業就業者は都市被雇用者の4割以上(40.8%)、加えて優秀な就業者の多くは国有企業に集中している。何より、国有企業改革なくして行財政改革も金融改革も進捗しないという「改革のリンケージ」がある。国有企業改革に成功しなければ中国経済の真の大国化はありえない。
 中国政府は1984年以来、国有企業改革のための政策的カードを切りつづけた。工場長責任制、利潤請負制、利改税(利潤上納制から法人税納付制への変更)、撥改貸(財政資金供与から銀行融資への変更)、政企分離、経営請負制などである。現在の国有企業改革のポイントは、中国で「両権分離」と称されるところの所有と経営の分離にあり、この分離による国有企業のコーポレートガバナンスの強化にある。
 「両権分離」の第一歩が、1992年7月に国務院によって出された「国有工業企業経営メカニズム転換条例」である。特筆すべきは、この条例により経営権が国家から国有企業に委譲されたことである。かつて国営企業と呼ばれてきたこれら企業群が、国有企業と称されることになったのはそのためである。国家と企業との関係が、所有と経営の権限の分離へと前進したのである。
 1993年11月の第14期3中総の「50条決議」では、企業はその経営権はもちろんのこと、国家・法人・個人の投資によって形づくられた法人財産権をもつ存在として定義された。所有と経営の分離からさらに進んで、所有者が多様な出資者へと転換され、国有企業の株式会社化への道が公然と開かれたことになる。しかし、国有企業への株式制の導入は容易ではない。
 1997年9月の第15回共産党大会における江沢民報告は、社会主義の下でも株式制の導入が可能であることを主張した画期的なものであった。とはいえ同報告では次のように主張することを忘れてはいない。「鍵は持ち株権が誰の手にあるかである。国と集団の持ち株であれば、顕著な公有制をもち、公有資本の支配範囲の拡大および公有制の主体的役割の増強に役立つ」。社会主義の原則はいうまでもなく公有制主体である。それゆえ株式会社化がこの原則を傷つけてはならないが、株主の中心が国家と法人であれば公有制主体は守られるというのである。
 実際のところ、公表されている最新のデータによれば、中国の上場企業においては国家関連株(政府ならびに国有企業保有株)が60%以上であり、個人ならびに非国有企業の保有する非国家関連株は、35%を占めるに過ぎない。しかも、株式市場における自由な売買を許されるのは非国家関連株のみであり、国家関連株の市場における流動性はない。国有企業におけるガバナンスも、これでは容易に変化しない。
 現在の中国では国家財政も国有企業も「火の車」であるが、家計貯蓄のみはきわだって高い。豊かな貯蓄をもつ個人投資家を株主にしなければ、株式市場は形成されない。この方途が断たれてしまうならば、株式制の導入が本格化することはない。株式制は国有企業の資金調達の補完的手段以上のものとはなるまい。株式制の導入が国有企業の自律的なコーポレートガバナンスを促すインパクトとなることも期待できない。
 国有企業改革とならぶ切迫した課題が、財政・金融改革である。しかし、財政・金融改革がハードコア国有企業の改革と不可分に結びついているところに、課題解決の難しさがある。
 中国の財政収入は中央財政にせよ地方財政にせよ、いまなお国有企業の法人税に依存している。国有企業が経営不振に陥っている現状において、財政収入は滞り、財政支出はこれに見合って収縮せざるをえない。中国の財政支出の対GDP比が急減しているのはそのためである。かつて財政支出において最大であった国有企業補助額は、現在数%にまで縮小している。
 国有企業である以上、その存続に最終的な責任を負うのは国家である。赤字企業の破綻が失業者を増大させ、これが社会不安、政治不安につながることを指導部は惧れる。国家による欠損補助は、いずれにせよ回避できない。
 そうであれば、国有企業への財政補助は、結局のところ金融機関融資へと変わらざるをえない。「財政の金融化」である。これには財政主導の資源配分から金融仲介を通じての資源配分へ、というポジティブな一面がある。しかし、財政不足を銀行融資が「肩代わり」するというネガティブな他面が、ここでの問題である。国有企業の破綻を回避したい中央政府や地方政府の意向が、銀行融資への隠然たる圧力としてのしかかっているのである。
 銀行の不良債権累積は不可避である。中国の金融資産の8割以上を握る4大商業銀行(中国農民銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国銀行)が抱える不良債権の規模は正確には捕捉できないが、融資総額の30%を超えるというのが大方の推測である。
 1999年に入り、財政部の全額出資により4大商業銀行を対象に資産管理公司が設立された。資産管理公司が、国有企業不良債権を商業銀行から簿価で買い取り、買い取った不良債権を株式化し、資産管理公司が株主となって国有企業を再建する。そして再建後、資産管理公司が国有企業を売却して、自己資金の回収を図るというメカニズムが想定されている。しかし国有企業の不良債権額に比して、このメカニズムによる資産管理公司の買い取り額はいかにも小さい。厳しい財政逼迫状況にあって、不良債権処理のためにこれ以上の公的資金の利用は困難である。
 金融の重要な役割は、最も効率的な資金需要者に対する貯蓄の配分機能である。市場競争の敗者に資金を傾斜的に配分することは、金融機関に不良債権を累積させるのみならず、一国経済のポテンシャルを殺いでしまう。投資額の7割を占めながら、生産額においては3割を切るまでに後退をつづける国有企業に対して傾斜融資を継続すれば、経済全体の生産性低下は避けられない。
 問題の起点は国有企業改革の遅れである。国有企業改革が進展しないがゆえに、国有企業の納税に依拠する財政が萎縮し、またそれがゆえに、銀行は国有企業融資をふやさざるをえず、そうして不良債権の累増を招いたのである。この「袋小路」から脱出して初めて、中国の経済大国化が議論の対象となろうが、脱出は容易なことでもあるまい。
 
 私はさくら総合研究所環太平洋研究センター理事長としての1年を終え、統合により装いを新たにした調査部 環太平洋研究センターの顧問となりました。日本のビジネス界に優れた情報を提供するための調査・研究を軌道にのせるべく尽力したいと考えておりますので、一層のご支援を賜りたくよろしくお願い申し上げます。
渡辺利夫(わたなべ としお)
1939年生まれ。
慶応義塾大学大学院修了。
筑波大学教授、東京工業大学教授を歴任。現在、拓殖大学学長。
 
 
 
 
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