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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2004年9月号 東亜
経済過熱は数字操作で隠せず
慶應義塾大学教授
小島朋之
 
 八月二十二日は、小平の生誕百周年である。『小平年譜(一九七五―一九九七)』上下巻などの記念出版、「世紀の偉人、小平」展覧会などさまざまな記念事業が行われる。生誕地の四川省広安市の記念館での銅像の除幕式には胡錦濤総書記も出席し、八月二十二日には北京で記念大会が開かれた。胡総書記、中央軍事委員会の江沢民主席をはじめとして、政治局常務委員が全員参加し、さらには引退後ほとんど姿を公式の席上にあらわさない朱鎔基・前総理も他の長老たちとともに出席した。
 胡錦濤総書記は記念大会で演説し、毛沢東思想につづく小平理論の偉大さとともに、彼を継承する第三世代の江沢民による「“三個代表”重要思想」にも敬意を表しつつ、自らの「科学的発展観」も強調した。しかし、「科学的発展観」が自前の思想あるいは理論として公式に認知されるまでには、なお紆余曲折がありそうだ。認知される前に、政権の足場を固めなければならず、そのためにはまずは過熱気味の経済の抑制と安定的な成長軌道の回復が喫緊の課題となっている。
 「マクロコントロールの強化は顕著な効果をあげた」というが、それを実証するために昨年上半期の経済統計を修正してしまっている。数字の操作で成果をみせても、効果は一時的で、過熱は収まらずにハードランディングの危険さえ深まりかねない。
 本稿では、小平生誕百周年前後の政局と過熱経済への対応について検討しておこう。
江沢民は共産党人の主要代表
 八月二十二日は小平の生誕百周年であり、北京で記念大会が開かれた1。会議には胡錦濤総書記をはじめとして、政治局常務委員会の委員九名が全員出席した。胡総書記は「重要演説」の中で、「全党、全軍、全国各民族人民が公認した崇高な威信をもつ卓越した指導者で、偉大なマルクス主義者、偉大なプロレタリア革命家、政治家、軍事家、外交家で、試練に耐えた共産主義戦士であり、中国社会主義改革・開放と現代化建設の総設計師で、小平理論の創立者」と最大の賛辞を送った。
 江沢民についても配慮を忘れない。小平の継承者と位置付け、「第三世代の指導集団」の「核心」であり、「当代中国共産党人」の「主要な代表」であることを明言するのである。
 「彼(小平)がわれわれの党を率いて切り開いてきた中国的特色をもった社会主義事業は、江沢民同志を核心とする第三世代の指導集団の指導の下で、新たに巨大な成果をあげ」、「江沢民同志を主要な代表とする当代の中国共産党人は、小平理論の偉大な旗幟を高くかかげ」、「着実に“三個代表”重要思想を形成した」というのである。
 その「“三個代表”重要思想」についても、「党が長期にわたって堅持しなければならない指導思想」である小平理論に並べて、「根本的指針」と規定するのである。
 「“三個代表”重要思想はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想、小平理論を受け継ぎながら時代とともに進む科学的体系であり、マルクス主義が中国において発展した最新の成果であり、新世紀の新段階の全党、全国人民が小康社会の全面建設という広大な目標を実現する根本的指針である」。
 しかし、胡錦濤総書記自身の存在もアピールすることを忘れない。「小平理論と“三個代表”重要思想はわれわれが勝利のうちに前進することを導く偉大な旗幟」とはいうが、「実際から出発し」て「マルクス主義を不断に豊富にし、発展させる」ことをめざし、胡総書記が繰り返し強調してきた「科学的発展観」や「人間本位(以人為本)」の樹立と定着化も忘れず強調するのである。
 「われわれは科学的発展観の樹立と定着化を堅持し、不断に経済、政治、文化の全面発展の新しい局面を切り開かなければならない。人間本位で、全面的で協調的で、持続可能な発展観を確固として樹立し、真剣に定着化していき、重要な戦略的なチャンスを十分に利用し、この党による執政興国の最重要任務の発展をしっかりつかみ、均衡がとれた都市と農村の発展、均衡がとれた地域の発展、均衡がとれた経済社会発展、均衡がとれた人間と自然の睦まじい発展、均衡がとれた国内発展と対外開放を進め、社会物質文明、政治文明と精神文明の協調的発展を促進し、人間の全面的発展を促進しなければならない」。
 記念大会には、喬石、宋平、劉華清、薄一波など長老指導者に加えて、十六全大会で引退した政治局常務委員であった李鵬、李瑞環、尉健行や李嵐清に加えて、朱鎔基も出席していた。引退後、ほとんど公式の席にあらわれない朱鎔基・前総理の出席は、その潔い出処進退ゆえに、中央軍事委員会主席として第一線に一人居座る江沢民の姿を際立たせる2
 「重要演説」では、「党の執政能力建設」を「重点」として「堅持しなければならない」ことも提起する。
 「われわれは党の執政能力建設を重点として堅持し、不断に党建設の新しい偉大な工程を推進しなければならない。中国の事業をしっかりやるカギはわれわれの党にある。改革の精神で党の建設が直面する理論と現実の重大な問題を研究して、解決しなければならない。党の指導水準と執政水準の向上、腐敗を拒絶し、変質を防ぎ、危険な作風を防御する能力の向上というこの二つの歴史的課題をさらに解決しなければならない。党が終始一貫して先進性と純潔性を保持し、創造力、凝集力、戦闘力を不断に引き上げ、中国的特色をもった社会主義建設の頑強な指導核心にならなければならない」。
 この「執政能力建設」は、九月に招集される党第十六期四中全会(中央委員会全体会議)の主要議題である。七月二十三日に開かれた政治局会議は九月に四中全会を招集し、政治局が中央委員会に対して工作を報告し、「党の執政能力建設の強化問題を研究し」、さらに当面の経済情勢と経済工作を討議・研究することを決定した3。ただし、反腐敗など幹部の作風強化や制度整備などが焦点の一つになるとしても、政治体制改革にどのように関連するのかなど、具体的な内容は明確ではない。
 

1 胡錦濤「在小平同志誕辰一〇〇周年紀念大会上的講話」『人民日報』二〇〇四年八月二十三日。
2 「高挙小平理論和“三個代表”重要思想偉大旗幟」『人民日報』二〇〇四年八月二十三日。
3 「中共中央政治局召開会議」『人民日報』二〇〇四年七月二十四日。
マクロコントロールは効果的
 江沢民は中央軍事委員会主席の地位を足場に、なお第一線に居座る構えを崩していない。序列第一位の主席として、軍事委副主席の胡錦濤をしたがえて、軍事部門の会議に姿をみせる。姿をみせるだけでなく、江沢民が提起した「“三個代表”重要思想」を、彼自らが「マルクス主義の基本的観点を堅持しつつ」、「新たな実際に結合して豊富にし、発展させた」と評価し、「中国的特色をもった社会主義建設の実践的経験の総括であり、全党の知恵の結晶である」と自画自賛するのである1
 こうした江沢民に対して、胡錦濤政権が自立していくには「科学的発展観」の提唱、腐敗や失政の責任を厳しく問う「執政能力建設」の強化、「以人為本」を強調する「親民」路線の強調だけでは不十分である。それらが実現するにはまだ時間がかかるからだ。実現までは、江沢民時代と同じく、国民の支持を確保し、江沢民を含めた政権内部からの批判を抑え込むにもやはり経済実績を積まなければならない。
 当面の経済情勢において、最大の問題は過熱の抑制である。経済成長率は昨年が九・六%で今年の第一・四半期が九・八%に上昇し、固定資産投資増加率も昨年の三一%から今年第一・四半期には四三%に急上昇していた。このままいけば、経済が「泡沫(バブル)」に陥りかねないとの危機感を抱いて、政権は「マクロコントロールの強化」に乗り出した。公定歩合と預金準備率の引き上げなど間接的な金融政策に加えて、銀行の乱脈融資の監視、不動産開発の規制、新規事業の停止、責任者の処分など強制力をともなった行政手段が多用された。
 その結果、国家統計局の発表によれば、今年の第二・四半期の成長率は九・六%にとどまった。市場の予測では一〇・五%から一〇・一一%であったことからみれば、「政府による緊縮投資措置はすでに功を奏している」ということになる2。温家宝総理は七月十四日に主宰した国務院常務会議で、「マクロコントロールの強化はすでに顕著な効果をあげた」と宣言し、「経済は安定的で比較的快速に発展する良好な趨勢を保持できる」と述べる。胡錦濤総書記も、「一連のマクロコントロールの政策措置を実施し、わが国経済が全体として良好な発展趨勢の保持を推進し、まさにマクロコントロールが予期した方向に発展している」と強調するのである。いずれも、過熱気味の経済の軟着陸に自信を表明したのである3
 

1 「江沢民胡錦濤等軍委領導会見全軍深入学習」『人民日報』二〇〇四年七月二十七日。
2 「統計局:経済無現『大起大落』」『文匯報(海外航空版)』二〇〇四年七月十九日および『人民網日本語版』二〇〇四年八月十一日。
3 「総結上半年経済工作」『人民日報』二〇〇四年七月十五日および「就当前経済形勢和経済工作聴取意見」『人民日報』二〇〇四年七月二十四日。
安易な統計数学の修正が横行
 しかし、「すでに顕著に効果をあげた」といえるのかどうかについては、根本的なところで疑念を払拭することができないのである。新規開発事業を年初から四千百五十件も停止する強制的措置をとるなど、結局は相も変わらぬ「行政手段」が多用され、それは結局のところ対症療法であり、「大起大落」を繰り返してきた中国経済の構造はなお変わらないままである1
 そしてなによりも問題なのは、「顕著な効果をあげた」というために基本的な判断基準となる数字の操作をしていることだ。第二・四半期の成長率を一〇%以下に下げるために、昨年の第二・四半期についてすでに発表済みの六・七%を七・九%に上方修正したのである2
 この修正は、国家統計局スポークスマンが七月十六日に上半期の経済情勢を発表した記者会見の最後に公表された。昨年第二・四半期のGDP数値を算出した際に、社会サービス業速報調査を基準にしたが、新型肺炎(SARS)の影響を受けて昨年第二・四半期のサービス業営業収益は一四・八%下落した。これを基準に算出した昨年第二・四半期のGDP成長率は六・七%となった。しかし当時の速報調査はSARS流行の特殊な時期に行われたので、数値が明らかに低かった。最新の統計資料にもとづいて昨年第二・四半期のサービス業成長率を四・一%から六%に修正した結果、GDP成長率が六・七%から七・九%に修正されたというのである。昨年上半期の成長率についても、その結果として八・二%を八・八%に上方修正される。修正することで、今年上半期を九・七%に抑えるのである。
 さらには、八月に入ると、今年上半期のGDPも修正される。GDPは五兆八千七百八十八億元となり、速報値に比べて十五億元の上方修正となった。成長率は九・七%のままであるが、正確には九・六六%から九・六九%に上方修正された。修正の公表理由として説明されるのが、GDP計算とデータ公表の制度改革である。この改革によって、各四半期ごとのGDP算定を、速報値、修正値と確定値の三段階に分けて発表することになったと説明される。これまで修正値と確定値は発表されてこなかったが、今後は公表されるという3
 こうした数字操作について、「統計の公正さに影響を及ぼすことにならないのか」との指摘に対して、国家統計局のチーフエコノミストは修正の経緯を説明したうえで、「GDPの集計方法はあまり科学的ではなかった」と責任を認めて陳謝した4
 統計の不正確さについては、統計局自身も認めている。二〇〇二年に全国で立件された統計上の違法案件は一万八千三百件であった。二〇〇三年十二月の「統計法」公布二十周年を記念する座談会で、李徳水局長は「とくに警告すべきは、いまでも統計面で虚偽の現象がなお発生し、一部の地方ではかなり深刻であることだ。少数の地方、単位と企業の指導者の頭の中では随意に統計数字を改竄できると考えていることだ」と指摘していた5
 座談会に出席した全国人民代表大会(全人代)常務委員会の何魯麗・副委員長は、「各級指導幹部は、統計上の虚偽・不正が引き起こす深刻な危険性について認識を高め、統計作成における自己の責任を明確にしなければならない」と指摘し、「統計作成機関・人員に対し、データの捏造や修正を指示することは誰にも許されない。違反した場合は法的責任を追及される」と強調していたのである6
 数字を操作しても政府の経済政策の正しさをアピールしたいということであれば、事実に立脚した「科学的発展観」を強調する胡錦濤・温家宝政権の信頼は損なわれかねない。
 過去の数字を修正しても、七月の固定資産投資増加率はなお昨年よりも高い三一・五%に高止まりである。それゆえに、温家宝総理も「マクロコントロールがあげた成果は初歩的で、段階的で、経済運営中の突出した矛盾と問題はまだ根本的には解決されておらず、すでにあげた成果の基礎も確固としているわけではない。われわれは新しい情勢の下でマクロコントロールの難しさと複雑さを十分に認識し、工作を緩めてはならず、中途半端に終わってはならない」と警告するのであろう7
 

1 「清理整頓開発区」『人民日報』二〇〇四年八月二十二日。
2 「去年二季度和上半年GDP数据修訂」『人民日報』二〇〇四年七月二十日。
3 「上半年GDP初歩核実数五万八千七百八十八億元」『人民日報』二〇〇四年八月二十三日。
4 『日本経済新聞』二〇〇四年七月二十七日。
5 「李徳水在紀念『統計法』頒布二十周年座談会上的講話」『中国統計信息網』二〇〇三年十二月八日。
6 『人民網日本語版』二〇〇三年十二月九日。
7 『人民日報』二〇〇四年七月二十四日前掲記事。
●7月の動向日誌
7月1日
*香港の中国復帰から七年。民主化要求の大規模デモに五十三万人が参加。*ASEAN+3外相会議、ジャカルタで開催。東アジア共同体構想を中心に議論。日本、「東アジア・コニュニティ」、「機能的協力」、「東アジア・サミット」について「論点ペーパー」を提出。理念や性格付けを整理し、議論の土台とする。
2日
*ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議、ジャカルタで開催。ARFの機能強化に向け、国防担当者によるARF安全保障政策会議(ASPC)を年内開催で合意。
7日
*日本政府、東シナ海の排他的経済水域(EEZ)の日中境界付近の日本側海域で海底資源調査を開始。王穀外交部副部長、阿南大使を呼び、抗議。
8日
*ライス米大統領補佐官訪中。胡錦濤主席、江沢民中央軍事委員会出席、李肇星外交部長らと会談。米海軍力のアジア展開強化をめぐる中国側の懸念解消が目的か?9日帰国。
10日
*シンガポールのリー・シェンロン副首相、訪台。12日、陳水扁総統と会談。13日、章啓月・中国外交部報道官が会見し、これを批判。
16日
*今年第二・四半期(4〜6月)のGDP成長率、前年同期比で九・六%。消費者物価は三・六%上昇。
21日
*台湾空軍、高速道路でミラージュ戦闘機二機を離着陸させる軍事演習を実施。
23日
*中国共産党が政治局会議を開催。9月に中央委員会第四回総会開催を決定。
25日
*中欧共同宇宙プロジェクト「地球空間双星探測計画」(双星計画)による二基目の観測衛星「探測二号」(極軌道衛星)、打ち上げ成功。宇宙空間の六カ所から立体的な地球観測を実施。
26〜27日
*戴秉国外交部副部長、中印国境問題第三回特別代表会談に出席。
28日
*杭州市で「第四回海峡両岸関係フォーラム」開幕。
30日
*胡錦濤国家主席、ブッシュ米大統領と電話会談。米中関係、台湾問題で意見交換。胡錦濤主席、アメリカによる台湾への武器売却に反対を表明。
小島朋之(こじま ともゆき)
1943年生まれ。
慶応義塾大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院修了。
京都産業大学教授を経て現在、慶應義塾大学教授。同大学総合政策学部長。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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更新日: 2017年5月20日

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