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1996/05/05 産経新聞朝刊
【主張】中国海洋調査に沈黙は禁物
 
 日本政府はことに中国に対して「言うべきことは言う」という外交の大原則を行使しようとしない。そこから生じる結果を心配し過ぎているようだ。国益を主張し合えば、緊迫した状況が生まれるかもしれないが、お互いの本音を明確に認識することができる。その好例が先月訪中した自民党訪中団である。会談中に最高指導者の江沢民・国家主席が興奮したほどで、中国側も「今度の訪中団は本当に言いたいことを言いましたね」と意外感にとらわれたようだ。政治体制の違いがあるからこそ、日中双方はお互いに誤解を招かないために、率直に意見交換をすることが望まれるのである。
 ところで、東シナ海に日本が設定している日中「中間線」の日本側海域における中・仏合同海洋調査船の無許可活動に対して、海上保安庁が中止を要求した。仏調査船は直ちに撤退したが、要求を無視して航行していた中国船もようやく応じた。日本が同海域における外国の資源探査について国際慣習上「許可は必要」との立場をとっている以上、今後も日本政府は中国に国際慣習の順守を求めるべきであろう。
 中国側は「中間線に同意したことはなく、同海域は公海」と主張して「中間線」の日本側からの撤退を頑として拒否してきた。中国は昨年から今年二月にかけても、今回と同じように海上保安庁の警告を無視して海洋調査を行った。このとき、外務省は「わが国の主権が侵害されることのないように申し入れた」が、その一方で「公海上の調査にはわが国の管轄権が及ばないことはある」と国会で説明している。
 今回、中国調査船が「公海上」を理由に即時撤退しなかったのは、この外務省見解を盾に取っていた可能性がある。だが、「公海上」であれば何をしても良いという理屈は通らない。自国の主権や安全が脅かされていると認識したならば、その行為に対して断固たる抗議や対抗措置を取るべきであろう。最近、中国が台湾に仕掛けた武力威嚇に対して、李登輝総統が屈することなく対抗した姿勢が想起される。
 二カ月前に同様の海洋調査を堂々と展開されたばかりだ。日本政府の中国に対する弱腰が再度の進出を呼び込んだと指摘されてもやむを得ないだろう。外交に遠慮は禁物である。海洋調査などによって既成事実が積み重ねられ、日本の主権が侵害されていくのではないか、と心配する声は決して小さくない。中国外交には、相手の抵抗がなければ国益拡大をどこまでも追求する傾向があることを忘れてはならない。
 
 
 
 
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