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1996/01/31 産経新聞朝刊
【主張】中国の台湾威嚇は愚の骨頂
 
 三月二十三日の台湾初の総統直接選挙を意識した意図的と思える対台ミサイル攻撃計画、金門・馬祖攻撃案などの軍事威嚇情報が中台関係を不安定にしている。これは中国にとっても下策といわざるを得ない。
 民主化の最終段階に位置する台湾の総統直接選挙に神経質になって、居丈高に干渉すればするほど、逆に中国内部の民主化の遅れや人権無視の実態が世界中に知れ渡る関係になっていることを認識して、中国指導部はこの種の対台威嚇を即刻中止させ、自らの内部改革を優先させるべきである。
 これまで中国は「人民日報」や「新華社」を使って台湾の李登輝総統を台湾独立志向の「売国奴」などと悪罵を浴びせ、異常な人身攻撃を加えてきた。李登輝訪米以降、数次にわたるミサイル発射訓練や上陸演習、それに今回の一連の軍事威嚇情報も「反李登輝路線」の延長線上にあるとみて間違いない。しかし、この軍事威嚇は決して成功はしないだろう。
 もちろん一時的には台湾の人心撹乱や株価低落などに小効果は出る。しかし、こうした動きはすぐ元の鞘に収まるだけであって、台湾の民主化の流れと、その象徴的な記念碑となる総統直接選挙の結果を決定的に左右することはできない。なぜなら過去十年の台湾の政治改革はそれほど脆弱なものではないからである。
 まず、中国大陸では今日に至るまで実現していない複数価値観つまり野党の存在を認め、戒厳令と世界の奇景とまでいわれた終身議員を廃止し、議会と地方首長を有権者の意思だけで選出する欧米型の選挙制度に改めた。アジアでは希有の政治犯のいない社会に仕上げてもいる。今回の総統直接選挙も憲法改正の手続きを踏んで実施されるもので、中国と異なり言論の自由も保障されているからこそ一部から「台湾独立」の主張も出てくるのである。
 これらのほとんどが李登輝改革の成果である。軍事威嚇で李登輝総統の動きを封じ込めようとするのは反民主主義行為なのである。中国が台湾を領土の一部であると主張するなら、「中国の一部」にもこれほど民主化された社会が実現したことにむしろ誇りを抱くべきであろう。
 ちょうど一年前、江沢民中国国家主席は八項目提案を行い、「中国人は中国人と戦わない」などと述べて、台湾指導者の訪中を呼びかけた。あの提案はどうなったのだろうか。中国に必要なのは内部の軍事的挑発主義を抑えるきちんとした指導力である。
 
 
 
 
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