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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/10/20 産経新聞朝刊
【主張】中国党大会以後の真の課題、独裁安楽死の道はあるか
◇「白猫黒猫」哲学の適用
 十一億の民を支配する中国共産党は、第十四回大会で「中国の特色をもつ社会主義の建設という小平同志の理論」という新たな鎧(よろい)で武装することを確認した。戦いの目標は「社会主義市場経済体制の確立」である。
 「中国独自の社会主義」といい、「社会主義市場経済」といい、これら面妖な発明品を中央委活動報告を行った江沢民総書記自身がどこまで理解できているか疑わしい。発明者である小平氏すら、否、彼こそは信じていないはずだ。それらは氏一流の融通無碍の産物であり、「白猫だろうが黒猫だろうが、ネズミを取るのが良い猫だ」哲学を経済運営に適用しただけだ。共産党員である氏が無理を承知で、資本主義的手法の導入を社会主義用語で粉飾しただけと考えればよい。外部世界がこれを真面目に議論すれば、彼は無駄な努力を嘲笑することだろう。
 氏が旗振りを努める経済の「改革・開放」は間違いなく中国を活性化させた。沿海地域や中国南部は繁栄を謳歌している。金儲けに沸いていると言ってもよい。「改革・開放」は本来商才に長けたこの民族の積極性と創意工夫を鼓舞した。一九七八年に国策の基本を「革命」から「建設」に切り替えて十四年、紆余(うよ)曲折はあっても、中国人民を政治・イデオロギー一辺倒の世界から解放した氏の功績は巨大と形容して言い過ぎではない。
 問題は、これからである。
 経済の「改革・開放」の継続、「社会主義市場経済」の建設の果てに、どのような社会を描くかだ。
◇政治の「開放」は置き去り
 活動報告は、共産党一党独裁のおぞましい側面を和らげてはない。「社会主義の道、人民民主主義独裁、中国共産党の指導、マルクス・レーニン主義・毛沢東思想の堅持」の四つの基本原則を「立国の本」と改めて位置付ける。一九八九年の民主化要求運動を「反革命暴乱」と規定し、流血の弾圧を「人民の根本的利益を守った」と相も変わらず自慢する。人権問題も「一国の主権の範囲」で干渉を許さないと言う。対外開放はあっても、対内開放はない。「改革・開放」はあくまで経済面に限定し、それが政治・思想面に及ばないよう強圧的支配を続ける路線である。
 経済の開放は、やがて否応無しに政治面での開放を促す−これが西側諸国にある好意的予測である。この期待は天安門事件で無残に打ち砕かれたのだが、軍と公安による締め付けが強固な中国の現状では、再度、自律的な変質に望みを託すしかない。あと願わくは、将来民主化運動が再燃した時、平然と戦車と銃で民衆に対応した「革命第一世代」のような“精神力”が党中央から消え失せていればと思う。
◇「超法規」体制の脆さ
 十四回大会とそれに続く第一回中央委員会総会で、多数の長老の引退、地方若手幹部の抜てきが行われ、党の最高指導部は一新された。保守派長老の組織的基盤であった中央顧問委員会も解体された。すでに八十八歳、この大会が最後となるかもしれない小平氏が後事を頼んだ布陣である。
 だが、新指導部誕生の過程にこそ、独裁体制の脆さが表れている。氏は一切官職にない。にもかかわらず、「改革・開放」の再加速を訴えた今年初頭の小平旋風に始まって大会人事に至るまで、現在の局面は、保守派の根強さに焦る氏がクーデターまがいの逆襲で切り開いた。超法規的ドンの個人の力に拠った。これは中国が今も「法治」から程遠い「人治」の段階にある、言葉を換えれば、封建的遺制に浸ったままである現実を象徴した。のみならず、「小平以後」に直面した際の新指導部の安定性に疑念を抱かせるに十分だ。
 いや、冷徹な現実主義者でもある小平氏は、共産党と社会主義の敗北の避け難さを読み取っているのかもしれない。生涯を賭けた戦いを、中国の真の近代化に収斂させる秘めたる意志があるならば、「改革・開放」の大号令、革命元老の排除、指導部の若返りも、すべて中国社会主義安楽死への手配りと読み取ることも可能だ。
 中国共産党大会は変転極まりない軌跡を刻んできた。権力を奪取して以後、大会は七回を数えたが、劉少奇、林彪、華国鋒、胡耀邦、趙紫陽と活動報告を行った指導者のほとんどは後に批判されたり失脚したりする運命をたどった。ただ、これら激変は共産党独裁の枠内に止まった。五年後の十五回大会はどうなるか。二十一世紀になお中国共産党大会は開催されるのか。それとも中国大陸は引き続き共産党独裁支配の下にあるのか。小平氏と今大会の歴史的な評価は、それによって決まる。
 
 
 
 
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