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2004/03/14 読売新聞朝刊
[社説]中国全人代 「弱者」の不満に応えられるのか
 
 中国の憲法に、私営企業の発展奨励や私有財産の保護が明記されることになった。全国人民代表大会(全人代)が、閉幕日の十四日に正式決定する。
 四半世紀前に始まった中国における市場経済化の流れは、大きな節目を迎えた、といえるだろう。
 改正憲法はさらに、私営企業経営者を資本家や搾取者ではなく、「社会主義事業の建設者」として評価し、共産党への入党を認める「三つの代表思想」を、国家の指導思想として位置づけている。
 毛沢東時代の中国では、私的な経済活動による金もうけが否定された。一九七〇年代末以来の改革・開放政策は価値観を逆転させ、金もうけを積極的に肯定することで経済を発展させてきた。
 昨年も9.1%の高度成長を達成した中国経済は、いまや私営企業の成長に大きく依存している。私有財産権の尊重が憲法で明確にうたわれていないため、多額の資本が海外に流出しているという現実も指摘されている。
 一党独裁下での経済発展をめざす共産党政権にとって、新たな階層に成長した私営企業経営者を取り込むためにも、今回の憲法改正が必要だった。
 ただ、「共産党は幹部と金持ちの党に成り下がった」との批判も聞かれる。共産党と社会主義という看板は以前と同じでも、その実体が変質してしまったことは否定できないだろう。
 しかも、市場経済化が進む中で、共産党幹部の腐敗と所得・地域格差が深刻化しており、低収入の農民やリストラされた労働者らは不満を募らせている。
 温家宝首相は全人代での政府活動報告で、これら諸問題の解決に尽力すると公約し、腐敗の撲滅に向けては、人民や世論による政府に対する監督を唱えた。
 改正憲法に、人権の保障や社会保障制度の確立が盛り込まれたのも、「弱者」の不満解消を狙ったものだろう。
 胡錦濤・温家宝政権は一年前の発足以来、「人民のための政治」をスローガンに掲げており、温家宝報告や憲法改正はそれを反映したものといえよう。
 「人民のための政治」が空念仏に終わらないためには、「人民による政治」の実現に向けた政治改革が不可欠だ。しかし、それは一党独裁体制とは根本的な矛盾をはらんでいる。
 温家宝首相は同じ報告で、多国間外交を積極的に推進し、「建設的な役割」を果たすと述べている。
 中国の存在感は経済力の増大で確実に高まっている。首相報告に違わず(たがわず)、地域の平和と安定に貢献する「責任大国」としての役割を果たしてほしいものだ。
 
 
 
 
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