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2003/06/01 読売新聞朝刊
[社説]日中首脳会談 胡体制の“変化”はほんものか
 
 対外関係を変えていこうとする中国新指導部の変化の兆し、と言えるかもしれない。
 小泉首相と中国の胡錦濤国家主席の初の首脳会談は、なごやかな雰囲気の下で進んだ。とげとげしさばかりが目立った、昨年秋のメキシコにおける小泉首相と江沢民前主席との会談とは、様変わりである。
 江前主席は会談で、三度にわたり小泉首相の靖国神社参拝に言及した。「行かれない方がいい」とも、強調した。
 国家の指導者が、戦没者に対してどういった形で追悼の意を表すかは、純粋に国内問題である。他国にとやかく言われる筋合いのものではない。
 胡主席は今回、靖国問題に触れることはなかった。小泉首相との間では、「未来志向の日中関係」と「首脳の相互訪問実現」を確認した。
 中国の言論界や学者の間には、「謝罪問題は解決済み」「日本の軍国主義復活は虚構」といった、従来の公式論とは異なる言動も目につくようになった。
 胡主席には、こうした潮流も踏まえ、「江時代」とは違う新たな対日外交を展開したい、との考えがあるのかもしれない。それがほんものであれば、変化につながるものと評価していいだろう。
 ただこれだけで、「胡新体制の下で、中国は変わった」と断定していいものではあるまい。現に、胡主席は「ぜひ歴史と台湾の問題を適切に処理してほしい」とも、小泉首相に述べている。
 中国にすれば、首脳会談にあたり、新型肺炎(SARS)で、日本の支援を受けているという事情もあっただろう。中国の対日姿勢については、もう少し時間をかけて、見極めるべきである。
 首脳会談では、核開発計画や拉致など北朝鮮問題について、包括的、平和的な解決を目指すことで一致した。
 話し合い解決が望ましいのは言うまでもない。だが、米朝枠組み合意を破り、核開発を進めていたのが北朝鮮だ。そうした“ならず者国家”には、「対話」を進めるためにも、「圧力」をかけていくことが大事である。
 北朝鮮と友好関係にある中国にも、その点への理解を求めていかなければならない。日米首脳会談の合意も踏まえ、中国に注文をつけていくのが、首相をはじめとする日本の役割である。
 日中平和友好条約の締結から、今年で四半世紀がたつ。「友好」だけで済む関係ではなくなっている。
 国益を踏まえ、言うべきことを言い、その中から新たな関係を築いていくことである。対中外交も「普通の国」同士の関係にしていかなければならない。
 
 
 
 
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