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1999/03/11 読売新聞朝刊
[社説]悪戦苦闘が続く朱鎔基内閣
 
 中国の朱鎔基内閣が発足から、まもなく一年を迎える。急成長をもたらした改革・開放路線が大きな壁にぶつかり、アジア金融危機の衝撃も重なって、朱首相は苦戦を強いられてきた。「二十一世紀の大国」を目指す中国にとって、今後一段と厳しい挑戦が続くことになろう。
 朱首相は昨年三月の就任時、8%の経済成長率と3%以内の物価上昇率を目標に掲げ、アジアの安定にかかわるとして人民元を切り下げないとも公約した。さらに、二十年来の改革・開放路線が積み残してきた国有企業改革、政府機構改革、金融体制改革の実現を三年間で図ると表明した。
 現在、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会)の冒頭、朱首相が明らかにした政府活動報告では、成長率は「7.8%の伸びで、目標よりやや低くなってはいるものの」「当初定めた改革と発展の諸目標は基本的に達成された」と自己採点している。アジア全体を覆う金融危機の中で一定水準の経済成長と人民元レート維持を確保した点は評価できよう。
 経済成長を引っ張ってきた輸出の停滞を内需拡大でカバーするため、一千億元の特別国債を発行し、積極財政に転じた。政府の四十にのぼる省庁を二十九に削減した。不正の温床にもなってきた軍や武装警察のビジネス禁止や密輸の摘発にも努めた。朱首相らしい手際の良さである。
 しかし、活動報告で「成果を認めると同時に、われわれは前進途上になお少なからぬ困難と問題が存在している」と述べているように、問題が山積している。
 長年の重複投資で、大半の業種が生産設備過剰となっている一方、市場の需要は振るわず「一部企業の経営難は一層深刻化している」という。大なたを振るえば大量の失業者が出る国有企業改革も、成長の鈍化で再就職先を保証できないため、テンポを落としている。金融改革も二兆元前後ともいわれる不良債権の処理が先決だ。
 内需拡大のための積極的な財政政策は、国際的な警戒ラインを下回っているというものの、財政赤字を一段と膨らませた。一年間の成果は、積極的な改革の成果というより、防戦の結果だったといえよう。
 中国にとって救いの一つは、朱首相がこうした問題点を十分認識し、管理の強化や法律、規則の制定などを強調し、具体的な改革のプランやプロセスを示して、その実行に努めている点だ。
 全人代への憲法改正の提案で、法治主義や民間企業の保護を打ち出したのも、その一環だ。契約面で国内外の企業の無差別を明記し、契約法規を国際基準に一本化する契約法制定を提案した点も注目される。
 内需の拡大といっても投資効果を上げるには外国資本の導入がカギを握る。だが、最近の広東省のノンバンクの破綻(はたん)処理では国際的な信用を落とした。
 中国の苦境は対岸の火事ではない。アジアの経済再生と連動する部分も多く、日本との経済協力の余地は広い。それには、改革の一層の推進と国防予算などの情報の透明化が、中国側に求められる。
 
 
 
 
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