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1995/05/25 読売新聞朝刊
[社説]中国は援助圧縮を軽くみるな
 
 日本政府は、中国の核実験強行に対する抗議の意思表示として中国に対する無償資金協力を圧縮することになった。
 この決定は、「今後とも政府開発援助(ODA)大綱を踏まえつつ、中国に対する経済協力を進めていく所存だが、それは経済協力についての総合的判断の一環として今回の経緯を踏まえたものとなろう」という形で二十二日、中国側に伝達された。
 いささか歯切れが悪いことは否めない。圧縮幅はいずれ決定されるが、それも、経済的な影響はごく限られたものになろう。だが、抗議の意思を具体的な形に表したところに意味がある。
 ODA大綱の原則の一つは、大量破壊兵器の開発・製造の動向に注意を払うことであり、相手が中国であれ、おろそかにはできない。
 中国は日本政府のこのメッセージを的確に受け止めてもらいたい。
 中国の核実験は、核拡散防止条約(NPT)の無期限延長を決めたNPT再検討・延長会議が十三日閉幕した直後の十五日に行われた。会議では核保有国の核実験自制をうたった文書も採択されており、実験は国際協調の精神に背くものだった。
 訪中した村山首相が北京で李鵬・中国首相に対し、核実験を停止している他の核保有国同様の「配慮」を求めたのは三日のことだった。李鵬首相は直接、答えなかったが、そのころ、実験準備は着々、進んでいたに違いない。
 日中首脳会談のこのありようを極めて遺憾とする。日中関係についての中国側の誠意を疑われても仕方あるまい。
 二十二日の日本政府の中国に対する申し入れは、村山首相の要請にもかかわらず、核実験を実施したことは「わが国政府・国民に大きな衝撃を与えた」としている。
 今回の実験強行で、日本国民の多くが中国の歩みつつある道に危惧(きぐ)の念を抱き、日本における中国のイメージが損なわれたことを中国はどう考えているのだろうか。
 日本で「嫌中国」や「厭(えん)中国」感情が広がるのを恐れる。言うまでもなく、そのようなことは日中両国の利益でない。
 ある外国通信社は今回の日本政府の決定を、「中国との関係を損なうことなく、日本の国内世論をなだめようとした象徴的な措置」と評する記事を流した。
 確かに、日本政府は今回の決定に至るまで揺れを見せた。中国との関係を大事にしたいとの配慮があっただろう。同時に、政府として当然のことながら、世論の動向を考えざるを得なかったと言ってよい。
 天安門事件後、わが国は中国に対する第三次円借款を凍結したが、西側では最初に対中国経済協力の凍結解除に動き、中国の孤立化回避に努力した。
 日中関係を重視してきた日本政府があえてとらざるを得なかった今回の措置を、中国は軽くみてはなるまい。
 アジアの安定にとって、日米、米中関係と並んで、日中関係の安定的かつ建設的発展が不可欠だ。中国が大局をにらんで、核実験を自制するよう重ねて促したい。
 
 
 
 
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