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1992/09/29 読売新聞朝刊
[社説]国交正常化20周年 新秩序へ日中が協力する時
 
 二十年前のきょう二十九日、わが国は中国との国交を正常化した。
 中ソ対立下、米中和解を受けての正常化だったが、この二十年、曲折や摩擦はあれ、全体として良好に推移した日中関係はアジアの安定要因となってきた。
 日本の対中経済協力は円借款だけでも一兆円を超え、中国の発展と対外開放を側面から加速させる役割を果たしてきた。昨年、日中貿易は初めて二百億ドルの大台を突破、正常化の年の二十倍、人的交流は五十五倍となった。きれいごとの「日中友好」だけではすまない時代に入った。
 国際環境も一変した。冷戦が終わり世界が新秩序を求めて流動するなか、日中関係は再構築の時を迎えたと言える。
 正常化にあたり中国には反ソ統一戦線への思惑があったが、ソ連も消滅した。中国は米国の対ソ・カードでなくなった。
 いま、求められているのは、旧時代のパワーゲーム的発想から脱して、平和・共栄の世界秩序形成へ協力する日中関係だ。
 アジア安保、朝鮮半島問題、軍縮、核拡散防止、武器輸出規制、国連強化、環境・麻薬問題など日中が国際社会と協調して取り組むべき課題は多い。
 カンボジアの国連平和維持活動(PKO)で中国軍と日本の自衛隊が共に汗する姿はそのモデルとなりうるが、日本の侵略の歴史もあり、中国側の理解が十分でないのは残念だ。日本は過去の行為を忘れてはならない。だが、過去が平和な世界をめざす行動の足かせになったり、対等な日中関係をゆがめるようであってはなるまい。
 国交正常化時の日中共同声明は反覇権をうたった。当時の中国側の思惑はどうあれ、今日、日中は文字通りの反覇権で協力しなければならない。
 日本が覇権を求めることはあり得ない。国益の構造が覇権主義と真っ向から対立するからでもある。中国にとっても覇権主義は国益でないはずだ。
 一方で、中国が海空軍力の増強と南シナ海やトンキン湾での行動、武器輸出で、国際社会に脅威感を与えているのも事実だろう。自重を求めたい。
 伝家の宝刀の意味があるとしても、中国は台湾について武力解放の可能性を排除していない。天安門事件以後、人権問題、貿易摩擦などでぎくしゃくする米中関係は、米国の台湾へのF16戦闘機輸出決定でさらにこじれたかに見える。
 だが、米中ともに関係の悪化を望んでいるわけではないだろう。米国が覇権主義だとも考えない。双方の改善努力に期待する。世界に寄与する日中関係の構築には、米中関係の安定化が不可欠だ。
 天安門事件は日本にとっても容認できないものだったが、その後、日本が欧米諸国に中国の孤立化回避を説いてきたのは、隣の大国の安定と民主化への軟着陸を望むとともに、中国が国際社会で責任ある役割を果たすことを期待してのことだ。
 日中、米中に必要なのは、体制の違いはあれ、日米同様、互いに冷静かつ率直にものを言い合う密度の濃い政策対話だ。
 
 
 
 
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