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1990/09/26 読売新聞朝刊
[社説]再び動き出す日中経済協力
 
 冷えきっていた日中経済協力が再び本格化する兆しを見せている。
 財界グループの日中経済協会に続き、竹下元首相が訪中し、中国への第三次円借款(一九九〇―九五年度、八千百億円)の凍結解除を正式に伝えた。
 政府ベースの動きは民間の対中協力を促す呼び水にもなる。昨年六月の天安門事件以来、冷却状態が続いていた両国が正常な関係を取り戻し、それが中国の発展と改革に役立つことを期待する。
 中国の国内経済は最悪期を脱したようだ。中国は北京でのアジア大会を契機に、天安門事件が与えた対外的な暗いイメージを消し去り、経済の安定回復にも弾みをつけようとしている。
 二〇%を超えたインフレは下火になり、超低空飛行にまで落ち込んだ経済成長率も持ち直す気配だ。これを受け重要プロジェクトへの新規融資の再開、金融緩和にも踏み切っている。
 このような時期に、中国にとって最大の援助国である日本の経済協力が本格化すれば、相乗効果を生む。
 中国側から「援助は必要だが、自力による発展が基本。中国の経済規模は大きく、円借款はそのごく一部」という声も聞かれるが、援助歓迎には違いない。
 エネルギーひとつとっても、中国は電力不足がひどく、昨年は「四開三休」(工場の四日操業、三日休業)という言葉がはやったほどである。
 日本の援助は水力発電、多目的ダム、肥料工場、上下水道、通信など、社会的な生産基盤(インフラストラクチャー)の整備を対象にしており、経済活動の土台づくりに欠かせないものばかりだ。
 援助の直接的な効果以上に期待されるのは、政府の姿勢をうかがっていた民間企業の対中進出の出方である。
 日系企業が工場建設、合弁などの直接投資を大型化しようとしていた矢先に、保守派と改革派の対立が激化し、改革・開放路線が後退した。このため対中戦略を大幅に修正した日系企業が多かったが、最近、電機、自動車、鉄鋼業界などで対中投資が再び活発になろうとしている。
 中国は社会主義的な統制経済の欠点に気づき、七〇年代末から市場経済化の道を歩んできた。国内の経済改革に加え、外資を導入する開放政策も進めてきた。
 中国側は改革・開放路線に変わりがないことを強調し、今回の訪中団が視察した上海の浦東開発区を改革・開放路線の新しい主役にしたいようだ。
 日系企業などの外資が進出するのはおもに経済特区や開放都市だ。中国側はこれらの地域を「経済改革のモデル地区、人材養成の基地、海外とつながる拠点」と位置づけているが、経済の開放と政治の民主化は別の次元の問題ではない。
 七月の先進国首脳会議(サミット)の宣言が「一層の政治、経済改革を」と呼び掛けたように、中国は政治の民主化にも取り組んでほしい。政治の民主化を伴わない経済改革には限界がある。
 
 
 
 
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