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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/06/11 読売新聞朝刊
[社説]トウ小平氏の深手を負った「勝利」
 
 死亡説さえあったトウ小平氏は健在だった。二十四日ぶりに中国の国営テレビが放映したトウ氏は強硬派指導者、長老のほとんどを伴って戒厳部隊幹部を接見し、「反革命暴乱」を「平定」した軍をたたえた。
 あの日曜日の惨劇を強行した強硬派指導部が事態を掌握し、党内権力を確立したことを誇示するものだろう。
 民主化運動に理解をみせてトウ氏や強硬派と対立したという趙紫陽・党総書記や胡啓立・政治局常務委員の姿はなく、その失脚を裏書きした。二人を除く指導部、長老や軍部が少なくとも当面、強硬派路線で、結束を確保したとみてよいだろう。
 上海など地方の情勢はなお、不透明だが、首都北京は戒厳令下とはいえ、日常の生活と秩序を回復しつつあるようだ。
 とにもかくにも、内戦状態は回避され、権力闘争にそれなりの決着がついた形だ。最終的には、最高指導者とされてきたトウ氏のバランサーとしての手腕がものをいったのかもしれない。
 だが、トウ氏が真の勝利者であるのか、きわめて疑問だ。
 指導部の結束を誇示できるまでにかかった時間は、党や軍部の動揺と分裂状態を示し、トウ氏の指導力の衰えを物語る。
 テレビに映し出されたトウ氏を含む十人の指導者のうち六人は八十歳以上だ。トウ以後の不安定を予測する見方は、必ずしもまとはずれではない。現に、民主化運動への対応をめぐり激化した権力闘争はトウ以後をにらんでのものでもあった。
 何よりも、武力鎮圧で、人心は党や政府、軍強硬派から離れたと言ってよい。トウ氏には当面の秩序が必要だっただろうが、この事実は今後、大きな意味を持たざるを得ない。武力鎮圧に公式にコミットしたトウ氏自身、歴史の審判を受けよう。
 トウ氏は中国近代化の設計者だった。上からの指導で、政治改革を図ろうとした。人治の国を法治国家にしようともした。
 だが、情報化世界のなかで、ソ連、東欧をはじめとする世界的な民主化の流れは、トウ氏の計算を上回る形で、そのうねりを中国にもたらした。中国社会主義の危機と受け止めざるを得なかったトウ氏の体質は、その矛盾を武力で解決するしかなかったのだろうか。悲劇である。
 八六年以来の過程で、トウ氏はその後継者に育てた二人の改革派指導者を失った。当面、保守派が優位を占めるなかで、トウ氏の改革・開放路線は後退を余儀なくされよう。悲劇的なのは、民主化運動がその意図とは逆の結果をみたことだが、折にふれ、そのうねりは押し寄せるだろう。
 一連の事態は、トウ氏の改革・開放に好意的だった世界の中国を見る目を一変させた。中国の対外関係に冷水をあびせた。今後の経済建設にも影響しよう。
 事実上、指導部を再出発させた中国の前途は多難だ。トウ氏の中国は深手を負っていると言うしかない。一連の事態の「勝利者」はいない。中国との友好を重視する諸国を困惑させた意味を含め、被害者ばかりだ。残念である。
 
 
 
 
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