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2000/12/26 毎日新聞朝刊
[社説]対中ODA 定見持った援助見直しを
 
 今後の中国に対する経済協力のあり方を検討していた外務省経済協力局長の私的懇談会が、報告書をまとめた。報告書は、大型インフラ整備から、市場経済化支援や環境関連、貧困対策に重点を移すとともに、従来の支援額にとらわれるべきではないと、援助の減額も視野に入れることを提言している。
 中国向けの政府開発援助(ODA)が始まって20年余り、中国のニーズは変化している。日本の財政状況も悪化している。報告書では否定しているものの、対中ODAには、中国が1972年9月の日中共同声明で、戦争賠償を放棄したことの見返りという性格がある。同時に、トウ小平副首相(当時)の改革・開放路線支援という日本の意思表示でもあった。しかし、こうした時代状況は大きく変化している。20年前の援助の枠組みを是正していくのは、当然のことだ。
 そこで、政府が取り組まなければならないのは、中国向けも含めて、日本の経済外交におけるODAの意味合いを明確にするとともに、戦略的位置付けもしていくことである。なぜ、日本が援助していくのか、わかりやすく示していくことだ。
 79年度に始まった対中ODAの累積供与額は99年度までで2兆6800億円。国際協力銀行(旧日本輸出入銀行)のプロジェクト向け融資(アンタイドローン)も3兆4200億円に達する。インドネシアと並び最大のODA供与国のひとつだ。
 対中ODAの特徴は数年分の金額をまとめて、歴代首相が表明してきたことだ。第1次円借款は6年間で3300億円だったが、第5次は5年で9700億円にまで膨らんでいる。旧輸銀ローンとあいまって、日本の公的資金が中国の経済発展に寄与してきたことは疑いない。
 中国は1人当たり国内総生産(GDP)ではまだ、約750ドルと途上国段階だが、沿海部は中進国段階に達している。世界銀行が試算した購買力平価に基づいたGDPは、すでに日本を追い抜いている。輸出競争力も格段に上がり、米国にとって最大の貿易赤字国になっている。当面、7、8%の成長も持続しそうだ。資金調達力も高まりつつある。
 政府が2001年度以降、対中ODA供与を毎年度決定していく単年度供与方式に転換するのも、特別扱いの時期は終わったとの認識からだ。
 日本は1992年、ODA大綱を制定し、援助に当たって、軍事用途や大量破壊兵器の開発の可能性を厳しくチェックすることを義務付けている。ところが、中国には援助で浮いた予算を軍備増強に振り向けているのではないか、といった疑惑も向けられてきた。ODAで普通の国と扱う以上、この点でも国民の十分な納得を得られるようにしていかなければならない。
 軍事面での国際貢献が限られている日本にとって、経済援助は今後とも重要である。隣国である中国が安定的に経済発展し、民主化していくことは、日本のみならずアジア全体の平和にも資する。その意味で、対中援助は戦略的なのである。この点を十分、認識しておかなければならない。
 財政面からもODAの見直しは不可避であるが、定見のない削減では日本の援助は国際的な支持を失う。明確な方針を提示することが日本の国際的責務だ。
 
 
 
 
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