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2000/05/26 毎日新聞朝刊
[社説]WTO中国加盟 新ラウンドの開始を急げ
 
 米下院が24日、中国に恒久的な最恵国待遇(MFN)を供与する法案を可決した。上院も近く可決の見通しで、年内にも中国の世界貿易機関(WTO)加盟が実現する。これに続いて、台湾の加盟も確実だ。WTOは名実ともに、世界を網羅することになり、世界貿易の拡大に貢献することは間違いない。
 新しい時代に入るWTOは改革しなければならない課題も多い。これまで、自由貿易体制作りを主導してきた先進国も、途上国の経済発展に一段と配慮した行動を取らざるを得ない。とくに、日本は、途上国に利益の大きい農業分野などの、さらなる自由化に取り組んでいかなければならない。
 まず、WTOは、中国の加盟を手がかりに、農業分野やサービス分野が中心となる新たな多角的貿易交渉(新ラウンド)の早期開始に向け、合意形成を図るべきだ。
 WTOは前身の関税貿易一般協定(GATT)時代から、関税一括引き下げ交渉でも、先進国の論理が優先してきた。WTOの第3代事務局長にはスパチャイ元タイ副首相が就任することになっているが、先進国主導の運営であることは変わりない。しかし、貿易額では世界10位前後、貿易黒字も1999年には300億ドル近くに達した貿易大国・中国が加盟すれば、状況は大きく変わるだろう。中国は加盟国の8割を占める途上国のリーダーとしての役割を果たすことが予想される。
 昨年12月のWTO閣僚理事会では、米国が途上国の競争力の強さは、劣悪な条件の下、低賃金の労働を使っているためと主張し、途上国と鋭く対立した。このため、新ラウンド開始を宣言することができなかった。米国は中国にMFNを恒久的に供与するものの、労働条件などには引き続き目を光らすだろう。この点で米国と、中国をはじめとした途上国の対立は、新ラウンドにも持ち越される。
 また、アジア通貨・金融危機に示されるように、先進国が主張する市場の論理のみに基づいた自由化は、途上国経済を大混乱に陥れることもある。この解決は、今後、日米欧の先進国が、新ラウンドも含めて、WTOや2国間交渉の場で、市場主義の欠陥を補完する施策をどれだけ打ち出していくことができるのかに、かかっている。
 いま、世界では地域経済統合や自由貿易協定・地域が、数多く結ばれている。いずれも外に開かれていることを強調している。ただ、WTOが自由貿易を完ぺきに保証するものであれば、自由貿易協定などは不要なはずだ。今後、WTOは新ラウンドなどを通じて、貿易、投資の障壁除去を進めるだろう。その時、地域経済統合などから刺激を受けることも少なくない。
 中国のWTO加盟を日本、さらには、アジアからみれば、どうなるだろうか。中国は2000年代の遠くない時期には、世界最大の経済力を持つと予測されている。その国と同じ地域内で世界標準基準に立った、貿易、投資関係が確立されることを意味し、地域経済の発展に資する。
 こうした関係を拡大、強化していくためにも、日本はアジア諸国から求められている、農業分野の自由化に積極的に取り組むとともに、輸入拡大を阻んでいる障壁の除去に取り組むべきだ。これが、WTO主義の日本がなすべき貢献である。
 
 
 
 
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