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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/02/21 毎日新聞朝刊
[社説]トウ小平氏死去 問われる中国の世界観−−国際協調の維持が不可欠だ
 
 1970年代末以来、中国の最高実力者として君臨したトウ小平氏が19日夜、死去した。「改革・開放の総設計師」とたたえられ、市場経済の導入で、文化大革命で疲弊した中国を近代化の路線に乗せた。12億の中国を貧困から脱却させる道を開き、「来世紀の超大国」とまで称される発展に導いた功績は大きい。
 トウ氏の死去で今後の中国は、江沢民国家主席(党総書記)を中核とする第3世代の指導者たちがかじ取りをすることになる。江氏らはトウ小平路線の継承を宣言しており、当面は内政・外交政策とも大きな変化は起こらないだろう。だが、経済成長で大国としての重みを増す中国が今後、どんな国家に発展していくのか。不透明な点も多い。それは第3世代の指導者たちの世界観が必ずしも明確ではないからだ。
◇トウ氏の限定戦争論
 トウ氏は毛沢東時代の象徴だった人民公社を解体、経済特別区を創設して外資を積極的に導入した。同時に兵力の100万人削減を実施し、軍事負担を軽減して経済発展に専念する体制を作った。トウ氏がこうした改革に踏み切れたのは、毛沢東時代からの世界観の転換による要素も少なくない。
 毛沢東時代の中国は朝鮮戦争、中ソ対立など米ソ両超大国との緊張が続く中で「自力更生」を迫られた。両核大国にはさまれた中で、乏しい資源を集中的に投入して自力での核兵器開発を成功させたが、準戦時体制のように組織化された国民の生活は犠牲にされた。その背景には「世界戦争は不可避」という毛沢東主席の世界観の影響が少なからずあった。
 トウ氏は「当面、全面戦争は起こらず、起こるとしても限定的な戦争にとどまる」という認識から、国家の資源配分を軍事から経済へと移していった。権力掌握直後には中越戦争(79年)を起こしたものの、自国の経済発展には周辺諸国との良好な関係が不可欠だという観点から各国との関係改善を進めた。
 こうしたトウ氏の認識は欧米などの“普通の国”の考え方に近いものだ。78年には日中平和友好条約を締結し、79年には米中の国交正常化を実現。89年にはかつてイデオロギーで対立したソ連(当時)とも完全正常化を果たした。中国が周辺諸国との協調を重視したことは80年代のアジア地域の安定、経済発展にも有利に働いた。
 ただ、トウ氏の対外関係改善の視点は、あくまで自国の発展、安定に有利かどうかということに置かれていた。89年6月の天安門事件で民主化運動の武力鎮圧を指示したことは、たとえ、国際関係が悪化しても、「共産党独裁」を維持するというトウ氏の強い意志の表れだった。また、トウ氏は経済発展の成功が強い中国を作る唯一の道だとの信念を持っていた。
 しかし、トウ氏の改革・開放路線は中国経済を世界経済と直接、結びつけた。天安門事件以降、中国経済は西側諸国の経済制裁の影響を受け、停滞。経済の実権も市場経済化に慎重な保守派に握られた。トウ氏は92年の中国南方視察で、改革の加速を唱え、保守派から主導権を取り返したが、この間の経緯はトウ氏の改革・開放路線が国際社会との関係を抜きにしては容易には進まない段階にまで達したことを示したともいえる。
 ではトウ氏の路線を引き継ぐ第3世代の指導者たちはどんな世界観で、中国のかじ取りをしようとしているのか。気になるのは江沢民氏が総書記に就任以降、中国の軍事費が増加に転じたことだ。トウ氏の改革・開放路線の成功は中国の経済力を飛躍的に高めた。国家の資源を軍事費に振り向ける余裕が出てきたともいえるが、明確な説明がないと、周辺諸国が“脅威感”を持つことは避けられない。
◇周辺諸国に配慮を
 昨年3月に台湾海峡周辺で繰り返された大規模な軍事演習は、中国の軍事力が防衛だけのものかどうか疑念を抱かせることにつながった。台湾問題は中国の内政問題という中国の主張もわからないではないが、軍事力を背景にした「大国主義」的行動に周辺諸国が懸念を持っていることを理解してほしい。
 中国と日本や欧米諸国との経済、貿易関係は年々、拡大している。中国の市場としての魅力が増していることも確かだ。中国の世界貿易機関(WTO)加盟も時間の問題ではあろう。だが、中国と国際社会との関係が深まる中で、中国の果たす責任はますます重くなっている。
 中国国内では失業者の増大や発展した沿岸部と発展から取り残された内陸部の地域格差など、改革・開放の負の局面も残されている。第3世代に託された課題は少なくない。今年は7月の香港返還、秋の15回党大会と重要日程も続く。対外関係を良好に保ちながら経済発展に専念するというトウ路線の再確認が必要だ。
 日本や欧米は中国と積極的に交流を進めながら、中国の変化を促す政策を取っている。これを内政干渉と受け取るよりも中国に大国にふさわしい責任を求めていると理解してほしい。
 経済成長によって豊かになった中国国民の間には政治改革を求める声も少なくない。トウ氏と違いカリスマ性を持たない江沢民主席にとっては、こうした声に耳を傾けることが権威を高めることにつながるのではないか。日本政府も第3世代の指導部と粘り強く話し合いながら、政策決定や軍事力の透明性、国際ルールの順守を求めていってほしい。
 
 
 
 
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