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1995/09/03 毎日新聞朝刊
[社説]中台関係 海峡の平和支える枠組み
 
 来年三月に行われる台湾初の総統直接選挙に出馬する与党国民党の正副総統候補が李登輝・総統、連戦・行政院長の本省人(台湾籍)コンビに正式に決まった。外省人(大陸籍)を中心とする反主流派の反発が強まり、国民党再分裂の可能性も出てきた。日本と同様、台湾の政局は今後さらに流動性を増すだろう。
 中台関係が悪化して以来、さしもの李登輝人気にも陰りがみられるが、それでも他の政治家をはるかに引き離している。現時点では同氏の再選はまず間違いないとみられている。
 しかし、国民党から離党して出馬を表明した次世代の外省人政治家、陳履安・監察院長や、党内に残って立候補する本省人政治家の林洋港・前司法院長の動向は波乱要因だ。仮に両氏が、二年前に国民党から分裂した新党と共闘すれば、李氏にとってかなりの脅威となろう。
 李総統の六月の訪米以来、同氏の「独立志向」を批判してきた中国側は出馬本決まりで警戒を強めている。年末の立法院選挙、来春の総統選挙を控え、台湾海峡の波が高まるのは避けられそうにない雲行きだ。
 しかしこれ以上、台湾近海で軍事演習を行い台湾側に圧力をかけるやり方は賢明ではないのではないか。中国側の猛反発以来、台湾でも「独立は危険だ」という認識が急速に強まっているからだ。
 「たかが同窓会」と軽い気持ちで李総統の訪米を受け入れたクリントン政権も、その後は「一つの中国」の原則を繰り返し確認している。
 中国側によれば、最近訪中したターノフ米国務次官は「最近の出来事によって米国は台湾問題の重要性と敏感さへの理解を深めた。台湾問題についての中国の立場を重視し尊重する」と表明した、とされる。
 中国が要求しているように「李総統の私的訪米を二度と認めない」と公式には明言できないが、今後は慎重に対応するという意思表示だ。
 同次官は台湾の独立、国連加盟に反対する立場も明確にした。李総統の「実務外交」の狙いは、もともと母校の同窓会出席自体にあるのでなく、私的な訪米を足掛かりに「台湾にある中華民国の存在」を世界にアピールし、国連復帰を目指すことにあった。クリントン政権はその道を封じたことになる。
 米中双方は、十月の国連創設五十周年を機に訪米する江沢民国家主席とクリントン大統領との首脳会談実現に向けて努力することでも合意している。中国が李総統訪米のあと本国に召還した李道豫駐米大使の帰任に同意したのも、米側のこのような対応を評価しているからだろう。
 中台関係が緊張して以来、台湾内部で江主席の八項目提案に対する関心が改めて高まったことも注目されよう。同提案は▽台湾独立には断固反対▽「一つの中国」の原則を守る前提で、台湾海峡の平和な現状を維持し、交流と協力を深めよう――という柔軟な内容だった。各種の世論調査で示されてきた台湾の最大の民意も現状維持だ。
 李総統の訪米で江主席は軍など強硬派から批判されているとの見方もあったが、中国側は最近、八項目提案が今も有効であることを確認した。「一つの中国」の枠組みこそが台湾海峡の平和と安定を守ってきたとの認識が台湾側でも定着すれば、まさに「雨降って地固まる」だ。
 
 
 
 
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