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判例トピックス
第三者との経営統合交渉の差止めを求める仮処分の申立について、保全の必要性を欠くと判断された事例
 
 甲信託銀行と乙信託銀行とは、平成一六年五月二一日、乙信託銀行の営業等を甲信託銀行グループに譲渡する内容の事業再編と甲乙両グループの業務提携(以下「本件業務提携」といいます)に関して基本合意書を作成しました。基本合意書一二条には、「各当事者は、直接または間接を問わず、第三者に対し又は第三者との間で本基本合意書の目的と抵触するような取引等にかかる情報提供・協議を行わないものとする。」という定めがあります(以下「独占交渉条項」といいます)。
 しかし、基本合意書には、甲信託銀行と乙信託銀行が本件業務提携に関する最終的な合意をする義務を負う旨の定めはなく、上記独占交渉条項は、今後、最終的な合意の成立に向けて交渉を行うに当たり、基本合意書の目的と抵触するような取引についての交渉等を第三者と行わないことを相互に約束したものです。また、独占交渉条項に違反した場合の制裁や違約罰の定めはありませんでした。
 甲信託銀行と乙信託銀行は、基本合意書に基づき、本年七月末日をめどとして、本件業務提携の詳細条件を定める基本契約の締結を目指して交渉していました。ところが、その途中で、乙信託銀行は、乙グループの現在の窮状を乗り切るためには、基本合意書を白紙撤回し、丙グループと統合する以外に方策はないとの経営判断をするに至り、七月一四日、甲信託銀行に対し、本件基本合意の解約を通告するとともに、丙銀行に対し、乙信託銀行の営業等の移転を含む経営統合の申し入れを行い、これを公表しました。
 甲信託銀行は、七月一六日、乙信託銀行が丙グループと経営統合に関する協議を開始したことが、上記独占交渉条項に定める甲信託銀行の独占交渉権を侵害するものであると主張して、平成一八年三月末日まで、乙信託銀行が甲信託銀行以外の第三者との間で業務提携等に関する交渉を行うことの差止めを求める仮処分命令を申し立てました。
 東京地裁は差止めを認める決定をしましたが、原審である東京高等裁判所は、現時点では甲信託銀行と乙信託銀行の信頼関係は既に破壊されており、両者が目指した最終的な合意の締結に向けた協議を誠実に継続することを期待することは不可能となったものと理解せざるを得ず、独占交渉条項はその性質上将来に向かって効力が失われたとし、独占交渉条項に基づく差止請求権を認める余地はないとしました。
 これに対し、甲信託銀行は、東京高裁の決定を不服として最高裁判所に抗告を行いました。
 最高裁判所は、本件では、七月一四日に、乙信託銀行が基本合意を白紙撤回し、丙銀行に対し、乙信託銀行の営業等の移転を含む経営統合の申し入れを行い、この事実を公表したこと、乙信託銀行が東京高裁の決定が出るや直ちに丙銀行との間で乙グループと丙グループとの経営統合に関する基本合意を締結するなど、丙グループとの経営統合の最終的な合意に向けた交渉が次第に結実しつつある状況にあること等に照らすと、現段階では甲信託銀行と乙信託銀行との間で基本合意に基づく事業提携等の最終的な合意が成立する可能性は相当低いが、いまだ流動的な要素が全くなくなったとはいえないため、独占交渉条項に基づく債務(甲信託銀行の独占交渉権)はいまだ消滅していないとしました。
 しかし、仮処分命令には保全される権利のほかに、保全の必要性があることが必要です。これは、争いがある権利関係について、債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要性があることをいいます。
 そして、本件では、甲信託銀行の被る損害の性質・内容が事後の損害賠償によって償えないほどのものとはいえないこと、甲信託銀行と乙信託銀行との間で基本合意に基づく業務提携等に関する最終的な合意が成立する可能性が相当低いこと、それにもかかわらず、本件の仮処分命令の申立は、平成一八年三月末日までの長期にわたり乙信託銀行による第三者との交渉の差止めを求めるものであり、これが認められた場合に乙信託銀行の被る損害は相当大きなものと解されることを総合的に考慮して、第三者との交渉を差し止めなければ甲信託銀行に著しい損害や急迫の危険が生ずるとはいえないとし、東京高裁の判断を結論において認めました。
 本件は、金融再編に関する紛争として大きく取り上げられた事件ですが、最高裁の結論を受けて、今後の甲信託銀行の動きが注目されます。
 
(最高裁判所決定平成一六年八月三〇日、毎日新聞平成一六年八月三〇日)
 
 
判例トピックス
チキンラーメンのキャラクターの名称「ひよこちゃん」の商標登録を、ひよこ形の菓子「ひよ子」の商標と混同のおそれがあるとして認めなかった特許庁の審決を取り消した事例
 
 甲社は、自社の商品であるインスタントラーメン「チキンラーメン」のキャラクターの名称である「ひよこちゃん」の商標登録を特許庁に出願しましたが、拒絶されました。そこで、甲社は特許庁に不服申立をしました。
 商標とは、商品やサービスの提供をする者が自己の商品やサービスを表し、他人の商品・サービスと識別する文字やマーク等をいい、商標権は、特許庁において登録を行うことによって発生します。ただし、他人の業務に係る商品やサービスと混同を生じるおそれがあるものについては商標登録を受けられないこととなっています。
 甲社の不服申立に対し、特許庁は、「ひよこちゃん」の商標は、丙社が菓子について商標登録した「ひよ子」と類似し、インスタントラーメンについて「ひよこちゃん」の商標を使用すると、丙社が製造・販売する商品又は丙社と何らかの関係がある商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるとして、これを認めませんでした。
 これに対し、甲社は、このような審決は違法であるとして、審決の取り消しを求める訴訟を起こしました。
 東京高等裁判所は以下の通り判断して、甲社の請求を認めました。
 まず、「他人の業務に係る商品やサービスと混同を生じるおそれがある」か否かは、商標と他人の表示の類似性の程度、他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度、商標登録を行う商品と他人の商品の性質・用途・目的の関連性の程度等に照らし、商標登録される商品の取引者及び需要者の普通の注意力を基準として、総合的に判断すべきであるとしました。
 そして、「ひよこちゃん」と「ひよ子」の類似性については、「ひよこちゃん」のうち「ひよこ」の部分が取引者及び需要者の注意を惹く部分であり、「ひよ子」は「ひよこ」の「こ」を「子」にしたものであって、いずれも文字通り「ひよこ(雛)」を連想させるものです。そこで、商標のみを比較した場合は、互いに類似するとしました。ただし、いずれも普通名詞の「ひよこ」と類似するので独創的な商標とはいえず、商標としての自他識別力(自己の商品・サービスを他人の商品・サービスとを識別する力)は本来的に弱いものです。
 次に、丙社の売上高は昭和六〇年度で七四億円でしたが、平成三年頃には一〇五億円、その後は一一〇億円に上り、店舗数も八九店にのぼっています。「ひよ子」の商標が使用されているひよこの形をしたお菓子は、丙社の主力製品であり、贈答品、土産物商品として首都圏のみならず、全国的に盛大に販売されています。
 従って、「ひよ子」はひよこ形のお菓子に付された商標として、広く全国的に取引者、需要者間に知られていたとしました。しかし、上記のとおり、「ひよ子」自体は自他識別力が弱いため、ひよこ形の商品を連想させる商標として周知著名であったとしました。
 また、インスタントラーメンと「ひよ子」の商標が使用される菓子との関連性については、インスタントラーメンは一般消費者がスーパーやコンビニ等の小売店で購入し、単価は小額で日常的に購入される商品であるのに対し、「ひよ子」の商標が使用されたひよこ形のお菓子は、一般消費者が主としておみやげ品又は贈答品として駅や空港の売店、百貨店やスーパーの専門店、贈答品コーナー、丙社の直営店等で購入するお菓子であり、日常的に食されるインスタントラーメンとは相当異なる食品であるとしました。
 このように、インスタントラーメンとひよこ形のお菓子は、食品の範疇に属するものであっても、商品の性質、用途、目的が違うことから販売店又は販売場所を異にし、食品売場で一緒に取り扱われるものではないとし、両者は一般の消費者により明瞭に区別される商品であると判断しました。
 以上により、「ひよ子」という商標は、ひよこ形のお菓子という商品と密接に結合したものであり、その商品を連想させる商標として周知著名であるから、その周知著名性が及ぶのはせいぜい「菓子」の範囲までであり、食品全般にまで広く及ぶとはいえないとしました。
 その結果、インスタントラーメンに「ひよこちゃん」の商標を使用しても、その取引者及び需要者である一般消費者が、その商品を「ひよ子」の業務主体である丙社又は丙社と何らかの関係にある者の業務に係るものと混同するおそれがあるとはいえないとしました。そこで、審決の「商品の出所について混同を生じさせるおそれがある」との認定は誤りであるとし、甲社の請求を認めました。
 
(東京高等裁判所平成一六年九月一六日判決、日本経済新聞平成一六年九月一六日)
 
 
破産法の改正 その一
 本年五月二五日、破産法が全面改正され、来年一月一日に施行される予定となっています。バブル経済崩壊後、破産事件の件数は増加し、特に個人破産事件の急増は社会問題化しています。今回の破産法の見直しは、迅速かつ公正に財産の清算がなされるようにするとともに、個人が破産した場合の再起を容易にし、企業が破産した場合の労働者の有する賃金等債権の保護を図ろうとするものです。今回は、個人の破産手続の見直しについてご紹介します。
 今回の改正で、個人の破産事件については、破産者が自分で管理処分できる財産(自由財産)の範囲を拡張し、標準的な世帯の必要生計費の三ヵ月分としました。これにより、破産者の経済生活の再生の機会を確保することとしています。また、免責手続とは、破産手続に付随して破産者の債務を免除するための手続ですが、債務者自身が破産手続開始の申立をした場合には免責許可の申立も同時になされたものとみなすこととしました。さらに、免責手続中の強制執行を禁止しました。
 また、手続の適正を担保するため、裁判所の免責に関する調査に対する破産者の協力義務を創設し、破産手続における説明の拒否や虚偽説明を免責不許可事由としました。そして、免責の効果が及ばない非免責債権を追加して、特に要保護性の高い生命侵害等に対する不法行為債権、養育費債権は新たに非免責債権としました。
 
破産法の改正 その二
 来年一月一日に施行される予定となっている改正破産法のうち、今回は、破産手続全体の見直しについてご紹介します。
 破産手続開始決定の後、破産債権者は破産債権をもって破産手続に参加することができます。破産債権とは、破産手続開始決定前に生じた破産者に対する債権です。これは、債権者が裁判所に自己の債権届出を行い、債権調査のための期日において、出頭した破産管財人及び破産債権者の異議がなければ確定されます。異議があった場合は、債権者が債権確定の訴えを提起することとなっていました。
 改正法では、手続の簡素・合理化のため、債権調査期日を設けることなく、債権調査期間内に書面で異議を述べることができる仕組みになりました。また、破産債権の確定について、訴訟ではなく、簡易・迅速な解決のため決定による確定手続を導入することとしました。さらに、配当の可能性がないときは、破産債権の届出期間及び債権調査期間(又は調査期日)を定めなくてもよいことになりました。
 また、従来義務づけられていた債権者集会の開催を任意化し、書面による議決権の行使を認める制度を設けました。
 このように、制度を簡易化・合理化するかわりに手続の公正を確保するため、債権者委員会を新設したほか、破産者の説明義務を強化するため、破産者に対し、不動産、現金、有価証券等の重要財産の内容を記載した書面を裁判所に提出する義務を課すこととしました。さらに、法人が破産した場合に、その役員に対する責任の追及を容易にするため、破産管財人の申立により、損害賠償請求権の査定の制度を導入することとしました。
 労働者の生活の維持のため、配当手続に先立って、裁判所の許可により労働債権に弁済をすることができることとしました。
 また、破産管財人が担保付物件を任意売却する際に、裁判所の許可により担保権を消滅させる制度を設けました。
 
アラスカクルーズ
 バンクーバーにおける万国海法会第三八回国際会議の後、アラスカクルーズを楽しんできました。船は、約七万総トン、船の長さ二六〇m、収容人員一四〇〇名の大きなものでした。六月五日の午後五時にバンクーバーを出航し、沿岸にそって北上。途中、雪をいだいた山が間近に見えるなど景色良好。ハイライトは、九日のグルーシャーベイ(氷河湾)でした。船は、氷河湾をゆっくり回遊し、氷壁のそばでは二度程船を回転させて、じっくり景観を堪能させてくれました。船内の楽しみの一つは食事ですが、メインダイニング、カジュアルなビュッフェの外に超高級風なレストランがあり、また、夕食後は生演奏をするバーというかラウンジがあって、しばし成金の気分を味わいました。その他カジノ、ビンゴ、ショータイムなどを楽しみました。さらに、帰港前日には、シャチ四〜五頭が回遊しており、本船は一時停船のサービスをしてくれました。総じて、非常にゆったりとした気分で一週間を過ごしてきました。
 
阿部法律事務所報七月号、九月号、一〇月号より転載
阿部法律事務所
弁護士 阿部三夫







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