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○ハードの整備
 では、また、皆さんにお聞きしたいと思います。ビジットジャパンということで、53の日本国内の港湾の皆さんがアメリカに行って、自分の港にも来て下さいというPRをなさいました。ところが、もしクイーンメリーが日本に来てもいいとなったら、九州の港に入れるとしたら、いったいどこの港だったら大丈夫だと思われますか。
 当然門司港は大丈夫ですね。博多港は大丈夫ですか。博多港のコンテナバースに泊まりますか。八代港はどうですか。
 東京とか日本全国に目を移してみると、必ずしも東京に行けないんですね。北海道地区でクイーンメリーが入るとしたら苫小牧、東北では八戸、関東では東京ですが、大井は水産埠頭なんですね。
 皆さんご存知でしょうが、横浜のベイブリッジと、東京のレインボーブリッジ。レインボーブリッジはクイーンエリザベス2が入ろうとして入らなかったんですね。13年でしたか。クイーンメリーの場合は72mあるんですね、高さが。ベイブリッジもくぐれないというのが現状です。
 東海に目を移しますと、清水港、名古屋港、四日市港。近畿ですと大阪港、神戸港ですね。九州は北九州港、博多港、多分八代港に入るんじゃないかと思います。
 今日は港湾関係の方もいらっしゃいますが、ぜひ港は百年の大計をもって作っていただきたいと思います。吊橋を作る時も、もしクイーンメリー2が来たらということで、72m以上をもって作っていただければいいんじゃないか。まさか高さが72mもある船が就航するとは思っていらっしゃらなかったと思いますけれども。
 何分、明石海峡大橋は総工費5485億円ですね。これで船を作るとしたら6隻くらい作れるので、もし、今度ありましたら百年の大計をもって作っていただきたいと思います。
 
日本のクルーズ業界の問題点
 今後の日本のクルーズ業界、クルーズ業界そのものに対する問題点なんですが、日本の近海クルーズはショートクルーズで、どうしても同じ所をいくので、オプショナルツアーに対する、お金を払うツアーに対するもっときめ細やかな、今までみたいに、横断幕をつけて40人位で回るというツアーではなくて、もっと個々のお客様に目を配ったツアーをしていただきたい。
 それから、今後はアジアの市場をどう取り込むか。
 それから、西日本発着のクルーズ開拓のためですが、どうしても西日本発着のクルーズは高いんです。なぜかというと船を博多まで連れてこないといけません。大体にっぽん丸で、1日動かすと1340万円かかります。横浜からわざわざ博多まで連れてくれば2泊3日かかります。33時間かかるわけですね。その分どうしても博多発着のクルーズは、料金が東京や横浜発着に比べ、高くなるという傾向にありますから、これをどう安く設定していくかというのがあります。
 今後、海外のクルーズ、国内のクルーズもそうですが、セキュリティサービスがかかってくるということで、クルーズの振興についても安全なのかどうなのかというところで、難しいところではないかと思います。
 それから若年層へのアピールも是非やっていただきたい。
 今まで、海とか港湾というのは1部の人達が使う場所であったんですが、日本というのが海によって守られ、海によって世界中につながってきた国であるという、海洋国であるという背景を是非私共も意識していきたいと思っております。そのためにも、もっとクルーズを、今日お越しの皆様にも是非本当のクルーズを一度は体験していただきたいと思っております。
 20世紀は大量消費、大量移動の時代でしたが、21世紀は安心や安全をお金で買う。そしてゆっくりいく。楽しみながら行くことに、価値が見いだされる時代であっていただきたいと思っております。
 以上、これで私のお話を終わらせていただきたいと思います。有難うございました。
 
質疑応答
Q1
 クルーズの条件の中で必要不可欠なもの、例えば船の客室、食事、航海時間、エンターテイメントがあると思うんですが、その中で一番大切なものは何なのか、いわゆる、これだからクルーズといえるものは何なのか。
 定期船、離島航路、生活航路とクルーズの違い。遊覧船とクルーズの違いといったこと、クルーズというのは何をもってクルーズというのか。
 クルーズ港として必要な条件というのはどういうものなのかというのを教えていただきたいと思います。
 
A1
 日本のクルーズと海外のクルーズは全く別物だと私は思っています。日本のクルーズが持っているものは、欧米のクルーズが持っているサンシャインのめぐみや、明るさ、陽気さではなく、癒しであったり、温かみであったり、おもてなしというのが日本の客船の持ち味ではないかと思います。日本のクルーズといえるものは船員のマンパワーではないかと思います。それが日本ならではのクルーズという文化を作り上げていると思います。
 輸送船とクルーズの違いは何かということですが、フェリーも例えばお年よりの方が降りる時に、フェリーの船乗りの人が手を引っ張って「おばあちゃん、大丈夫?」というふうに降ろしてくれるとか、重い荷物を持ってくれるとかということにおいては、私はフェリーもクルーズ客船も同じおもてなしの心があることでは変わらないのではないかと思います。
 ただ、フェリーの良さというのは、日本人が海の良さを知らないのと同じようにあまり知られていない。「海に親しむ会」など、私は長年勉強させていただきましたが、本当に日本人が海に対してそういうものを要求しているのかなという疑問を私は持っています。逆に日本人は海に囲まれているから海を知っていると錯覚しているだけで、本当は海のすばらしさとか大海原の雄大さというのを知らないんじゃないかなと。そういうことがもっと知られると、フェリーであっても豪華客船であっても定期船であっても、もっと使われるのではないかと思います。
 クルーズ港の必要要件は2つですね。ひとつは活気ある観光地があるということ。観光地がない場合でも地元の人達が熱烈歓迎をしてくれるということですね。例えば日本の港でいうと、鹿児島の甑島とか、宮城の大湊なんかでは「飛鳥の日」というものを設けて、飛鳥が入ってくることに対して市民をあげて歓迎する。岸壁には模擬店ですとか、幼稚園の子が来て手を振ってくれるとか、そういう熱烈歓迎というものがお客さんの心を捉えるということです。それとその港に乗船客がいるクルーズマーケットであるかどうかということです。
 九州の近海クルーズを考える時に、寄る港というのはクルーズの目的地をまず一番に考えて選ぶ。博多発、九州を一周して宮崎に行くというふうに申し上げると、クルーズというのはわかりにくいものでありますから「宮崎はわざわざ船に乗っていかなくても電車で行く」と言われます。そういうものを商品化してマーケット上にのせることは、私共の現在の力ではなかなか出来ないというのが現状なんですね。
 じゃあどこから佐世保、宮崎、鹿児島にお客さんを持ってくるかというと、やはり東京から持ってくることになるんですね。その時にどういうふうに東京のお客様に魅力的に佐世保、宮崎、鹿児島を伝えられるかというのが、寄港地と共に船会社の現在の課題です。佐世保、宮崎、鹿児島というよりは屋久島の方が簡単にお客さんが集まりますので、どうしてもそういう寄港地に偏ってしまうというのが現状なんです。
 クルーズはタイタニックでいちはやくお客さんの層が広がったということがあるように、日本人にほとんど理解されていなくて最もわかりにくい商品だというのが、このクルーズマーケットの開拓において問題ではないかと。もちろん、値段が高いというのはいうまでもありませんが。そうした時に60代以上の人達というマーケットの中でイメージが見出しやすい寄港地に偏っているのかなという気がします。
 ただ逆に無人島に行って、皆が裸足だから靴は売れないと思うのか、裸足だから逆に靴は売れると思うのか。今までクルーズ客船が来てなかったということはそれだけ、これから十分魅力がありさえすればクルーズ客船の寄港地になるということは可能です。そのためにもいつもクルーズ協議会とかクルーズ振興会の方に申し上げるんですが、一度船に乗ってくださいと、お客さんの気持ちになって、お客さんと同じ金額を払って、そしてお客さんの気持ちでそのお金に値する目的地であるのか、クルーズであったのか。それを皆さんが一緒に感じて、いいご意見を考えていただきたいと思います。
 
Q2
 九州発、日本発ということですが、ビジットジャパンという観点から観光立国日本をめざしまして、中国からの観光客の方を大いに九州に呼び込んでくることを、九州の観光界は重視しているんですけれども。この大いなる人口をもっている中国、この中国の方々はクルーズに関心を持っているのか。中国は可能性をもってるんじゃないかと思うんですけれども。
 
A2
 東南アジアのクルーズマーケットからいいますと、日本にも寄港していましたスタークルーズという会社が圧倒的な力を持って急激に伸びたんですね。東南アジアのマーケットではシンガポール、台湾、香港にクルーズ人口がいる。ですから香港発というクルーズ人口は現在も十分あります。ただ、船会社が今まで中国のお客さんを対象にしなかったのは、ひとつは金額が合わない。ご存知のようにスタークルーズと比べても日本の客船の方がはるかに金額が高いんです。
 それからドイツ、イギリス、日本という船籍もしくは船会社は比較的自国民を中心としたクルーズを望みます。中国のお客様を乗せることによって、日本人の高級なお客様が自分の船から離れていくことを現在危惧しております。ですから本格的に中国マーケットに参画はしていません。
 ただ、日本人が、世界各国の人が自国なりのマナーとか生活態度を持ち込んでも許容できるという土壌ができれば、十分に中国マーケットに打って出れると思いますが。
 中国が自分のところで船を作ってクルーズに乗り出すのと、スタークルーズが日本に来るのとどちらが早いかということですね。
 スタークルーズは撤退しましたが、それは日本のクルーズマーケットのリサーチが十分ではなかったからだと思っています。スタークルーズがシンガポール、台湾のお客さんを連れて日本に来るか。そのためには、あこがれの対象の国であるというものを追いつづける。なんとなくやっぱり日本に来たいというものを持ちつづけられるということが大切です。あと韓国マーケットからいうと、韓国からは現在チャーター船の引き合いがよく来ておりまして、韓国の人達を乗せたチャータークルーズを何回かやっております。韓国のお客さんは、皆さんご存知のように食事の時にキムチがないと食事がすすみませんから、韓国のお客さんを乗せてくる時にはキムチの匂いが船内に充満してしまいます。それでも許容できるかということです。
 これから日本人船客は減っていくでしょうから、確実に中国マーケットはターゲットになるんです。
 
Q3
 アメリカはなんでこんなにクルーズが人気があるのかなというのを教えていただけたらと思います。
 
A3
 アメリカの場合は特にフライ&クルーズの設備が整っていて、どの港からも発着できる7泊8日位のクルーズがあります、休暇的にもちょうど1週間というのが若い人でも取れるんですね。
 大型船になって客船はラグジュアリー、プレミアム、カジュアルの3タイプに分かれますが、現在アメリカ、カリブ海、地中海に就航しているほとんどはカジュアルクルーズです。船内のドレスコードはインフォーマルです。ドレスアップしてくださいとか、カクテルパーティがありますよというようなことはありません。ですから若い人もそうですがファミリーで乗られる方がすごく多いですね。
 それからクルーズの値段は安いです。一泊で2万円を切るようなクルーズがありますし、現在アメリカではもっと安くしようという動きがあります。1泊2日、3万5千円。全てが入っていますよ、何もお金を払いませんというのがクルーズだったんですが、全部自由にやって下さい、食事はバイキングでやって下さいということで、すごく安くして、あなたが必要なサービスだけはオプションでやりましょうというような、極力料金を抑えるようなクルーズをやることによって、もっと若い人にも乗ってもらえるような、固苦しさから解放しますという大衆化に向けた動きがあります。
 そして海に対するあこがれが、日本人よりははるかに強いです。アメリカではサンデッキで皆さん日光浴をしているんですね。日本の客船でこんなに日光浴をしたり、プールで泳ぐというのは、そんなにおみかけしないということから、海に対する価値観が違うなとは思います。
 
Q4
 実際お迎えするにあたって、どういうオプショナルツアーをご用意すると喜ばれるんでしょうか。
 
A4
 おもてなしというのはいろんな形があると思うんですが、日本人のクルーズ、実際には3万人くらいが本当にリピーターのお客様ではないかと思っています。世界一周クルーズに乗れるという人達は日本には800人位しかいないと思っているんですよ。その同じ人達が何回も何回も乗っているんですね。そうするとバスで行きますよというような観光地には行き尽くしたという感じで、最近では船内に残るというようなお客様も多くなっています。
 オプショナルツアーは大方船会社が自社で手配をしていますが、情報が15年位前の観光情報しかないんですね。だから、船が博多に来ても、今でもやっぱり太宰府天満宮なんですね。いまさら太宰府天満宮でもあるまいにと思うんですが。
 ですから、船会社に、例えば宮崎県にはこんなきめ細やかな情報がありますよとか、食べるものは、これだけの店を用意してますよということを伝えて、もし出来れば、東京発のクルーズであれば、東京出港の段階から宮崎県のグッズを船内に置いていただければいいと思います。「山あいに行きたい」「散策したい」「日帰りでいける温泉があったら」実はお客様のニーズはものすごく様々あると思うんですね。それを通常の旅行会社のようではなくて船内で聞いて「それだったらここがいいですよ」と手配していただくということが出来れば、船旅は全然違うものに、100%近い満足を叶えられる旅になるのではないかと思います。
 フェリーのマーケティングについては、高校生までは必ずフェリーにのって修学旅行に行かなければいけない、社会見学に行かなければいけない。もしくは働いている人の現場、輸送機関に携わっている人の現場を見せる。日本というのは自国には何もなくて、すべてが海から入ってきて、海から支えられているにもかかわらず、そういうことを私達はほとんど知らないというのが現状ですね。
 ですから教育委員会などとタイアップして、現在未就労者の問題がクローズアップされていますから、働く人の現場を訪ねるという意味でも、そういう切り口で社会見学でも是非船を使うとか、高校生に必ず船を使った研修をするというようなことがあるといいんじゃないかと思います。私は鹿児島〜奄美大島の1泊2日の航路に乗った時とても感動しました。こういう航路があることを九州にいながら全く知らなかったということが、自分自身とても残念で、出来るだけお伝えしたいと思っているんです。
 ですから、そういう仕組みを、県、国が決めていただくとありがたいと思います。
 
Q5
 私は、今日本人にですね、何をやりたいかということをアンケートするならば、出来ない事であってもですね、世界一周したいとかいうことがあると思うんですよ。でも事情が許さない。ならば、せめて先生が仰ったショートクルーズ。これを船会社の方が是非日本人のために、そういう設定を作っていただきたい。エーゲ海クルーズもショートクルーズだと思うんですね。小樽からのショートクルーズに乗ったんですが、5千トンのオセアニックグレイス。これはワンナイトなんですね。例えば家内を連れていくとなったら、着るものがないだの、なんだのと言います。だけど、ワンナイトだったら絶対そういうことはないわけです。アメリカもそういう形でたくさんの人が乗るんだということであるならば、是非5千トンそこそこの船でクルーズをして、日本のすべての港に入れる、そういう船を作っていただけるならば、これから先、日本人も癒しを求め、安心を求めているわけですから、乗ってほしい、乗るようにしてほしいというユーザーの思いであります。
 
A5
 今、どこも大型船化を目指している中であえて小型船を作るというのは、ひとつの斬新な手口ではないかと思います。
 日本人というのは何でも“1”がつくのが好きなんですね。日本1、世界1。もしくは日本初、世界初。ですから価値観のわかりにくいものというのは、伝わりにくいので、私はフェリーの日本一周クルーズというのをすすめています。今まで急いでいた所をゆっくり周りの景色を見ながらいきましょうということで、是非日本一周ということをやりたいと思っています。小さな船を作るということは、人に任せるのは難しいと思いますので、自分で船を何とか手に入れたいと思います。「客船と女性は手に入れるのは簡単だけど、後のメンテに手がかかる」。を心に刻んでやっていきたいと思います。
 
 
酒追い人
伊豆美沙子(いずみさこ)
 
 福岡はかつて、日本の三大酒どころとしで隆盛を極めた土地。日本酒は、米と水と人とが醸す芸術品。日本酒の歴史は米作の進化の歴史であり郷土の伝統行事を色濃く反映したものです。日本酒に代表される発酵の技術は和食の根幹をなすお家芸。伝統と経験に支えられた酒造りは、まさにスローフードそのもの。日本酒の魅力を掘り起こしながら“福岡ルネッサンス”を合言葉に県産種の再評価に繋げていきたいと思います。
平成16年11月30日(火)
西日本新聞朝刊掲載







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