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−沖ノ鳥島の有効活用について−法的な戦略を図る研究機関の設立を
毎日新聞社 鈴木 玲子
 東京から南約1,740km。台湾よりも南に位置する南海の孤島、沖ノ鳥島。各界の専門家がさまざまな角度からこの島の有効活用について検討する、初の民間視察団に同行させていただいた。東シナ海での中国の「春暁」ガス田開発をめぐる日中間の対立、さらに直前には中国原潜事件が発生し、両国間の緊張が一気に高まる中での視察団派遣は、大いに注目を集めたようだ。
 
 日本は、沖ノ鳥島は干潮時の環礁、東西4.5km、南北1.7km全体が島だと主張する。問題は満潮時でも海面上に姿を残し、国連海洋法条約の「島」の定義において重要な意味を持つ北小島、東小島についてである。中国はこれを指して今年4月、「岩」と主張した。これまで沖ノ鳥島について異議を唱える国はなかったため、日本は、この問題に対する国際法に基づく強固な理論武装とそれを支えるための対策が十分に図られてこなかった。研究者ではないので、私自身が理論展開を考察するのは差し控えたいが、日本がこの島の将来を考えていくうえで、中国側の主張について取り上げてみよう。
 
 視察団は、ボートなどで荒れる高波を乗り越えて島にたどり着いた。今回「上陸」したのは東小島。残念ながら天候などにより北小島などへの上陸はできなかった。東小島の周りは、直径約50mのコンクリート製護岸で固められ、チタン製の円形防護ネットで覆われていた。東小島の目の前まで接近するには、東西2カ所の溝をはいつくばって進むしかない。持参した巻尺で、コンクリート護岸に埋まっていない露頂部を測った。周りは3.2m、高さ38cm。温暖化現象により、今世紀中に海面上昇が40cmとも1m進むとも言われる。大潮の日の満潮時では北小島が19cm、東小島は6cmほどしか海面上に姿を残さないという。見た目のあまりの小ささに正直驚き、その危うげな存在に息をのんだ。急いで対策を図らないと、露と消えてしまうかもしれないからだ。
 
 近年、中国の海洋調査船が頻繁に日本の排他的経済水域(EEZ)内で調査活動を行っている。注目されるのは、従来はその活動エリアだ。近年は東シナ海が活動の中心だったとみられるが、今年は沖ノ鳥島を含む太平洋側での調査が急増した。しかも季節ごとに調査活動を展開している。視察団の調査後も、沖ノ鳥島周辺海域で中国海洋調査船が発見さた。海底に眠る豊富な海底資源のほか、台湾有事の際、グアムの米海軍の第七艦隊の展開を同海域で阻止するため、潜水艦航路の探査が不可欠としてこの海域を重点的に調査していると見る軍事専門家は少なくない。
 今年4月、中国は沖ノ鳥島を国連海洋法条約121条3項「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」に基づき、島ではなく「岩」だと発言。これにより日本は沖ノ鳥島にEEZを設定できないという認識を示した。雑誌「瞭望東方週刊」5月27日号で、「人工の『沖ノ鳥島』は認められない」と題する記事を発表。さらに「瞭望東方週刊」第26期で、「わが国の海洋国土の半分は未探査――海洋権益が不法侵害される」と題する記事を発表している。この記事は、東シナ海での中国の「春暁」ガス田をめぐる日中間の紛争についてまとめたものだが、中国の海洋権益、海底探査を考えるうえで興味深いので少し紹介したい。
 
 記事によると、中国は既に1958年から東シナ海で海洋調査を開始した。この調査により、沖縄トラフが日中間の大陸棚の境界線であることが立証されたという。調査は海洋探査をはじめ、大陸棚及び近海海域探査、堆積地形調査、海洋地質総合調査などの調査、石油・天然ガス資源調査など広範囲に展開した。さらに90年代には、国外からマルチビーム音波測深システム8セットを導入して、係争区域で調査し、境界画定交渉には不可欠な資料を得たという。海洋探査は中国の海洋権益を守る上で重要で、海洋探査の資料は鉱区申請では重要な根拠となる。その資料は軍事分野でも活用でき、国の海洋安全保障にもかかわる。海洋探査は国際海底区域で中国の海洋権益を守るうえでも非常に重要だ。約20年の調査により2001年に中国は排他的探査権などを有する7.5万トンの鉄、マンガン団塊鉱区を取得した。この鉱区では年間300万トンの多金属を産出している。
 国連海洋法の規定と中国側の主張によると、中国のEEZと大陸棚面積は約300万km2に及び、周辺諸国との係争区域はその半分を超える。だが中国のEEZ及び大陸棚の探査範囲はいまだ半分が未探査である。
 大陸棚延伸の申請でも詳細な探査資料が必要だ。2002年6月、ロシアのベーリング海峡、バレンツ海峡、オホーツク海峡などの大陸棚延伸を申請が却下された。ロシアが提出した資料不足により、200海里外の部分と陸地との自然なつながりについて国連に対して十分証明ができなかったためだ。中国は探査活動を進めているとはいえ、大陸棚延伸申請にはまだデータが不十分なため、今後さらに正確なデータ取得が必要だ、と強調。また南シナ海についても触れ、周辺国が中国側の断続線内に深く侵入し石油・天然ガス探査・開発を進めている。このまま開発を放置してしまえば中国の権益は大きく損なわれると警告している。
 
 海洋権益に対する中国の並々ならぬ意欲が感じ取れる記事だ。直接関係があるとはいえないが、沖ノ鳥島周辺海域にも深海底とはいえ豊富な海底資源が眠っている。
 エネルギー需要が逼迫する中、中国は近海区域でも天然ガスなど資源開発を積極的に進めている。中国政府が打ち出す「持続的発展戦略」の中ではエネルギー戦略の重要性が強調され、海底ガス田については「海気登陸」(海底ガス資源を陸に上げる)とのスローガンを掲げている。沿岸部まで接続可能な近海での資源埋蔵量は一説には14兆m3ともいわれ、最も資源が豊富な南沙海域の埋蔵量は8〜10兆m3に上るともいう。「海洋強国」を目指す中国は、今後ますます海洋戦略を発展させていくと考えられる。その意味でも今後、日中両国間の海洋権益をめぐる紛争は増える可能性が高い。ただ現状では両国の感情的ともいえる対立ばかりが目に付いてしまう。
 沖ノ鳥島について言えば、英国がロックオール島のEEZ主張をなぜ取り下げたのかなど、他国での紛争現状を詳細に調査し、日本の対抗策を緻密に練り上げる必要があるのではないか。そのための研究機関立ち上げなどを含め、海洋国家としての基盤強化を図ることが急務といえよう。
 
 
 
沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察について
毎日新聞社 根岸 基弘
 今までは写真や数字で見ても、島の大きさがいまいちピンとこなかったが、今回の視察に参加し、実物の沖ノ鳥島を見ることができて、日本の国土と領海、排他的経済水域を意識することが出来た。
 船でしか行くことができないことを考えると「手軽」というわけには行かないが、できるだけ多くの国民が実際に「島」を目にする機会が増えるといいと感じました。
 また前述の話と狙いは違うが、ライブカメラを設置してインターネットなどを利用した観察ができたら楽しいと思う。
 
 
 
視察の私的感想・要望
毎日新聞社 塩入 正夫
 領土とは何か。領土は取った者勝ち。陣取り合戦は既成事実の積み重ねではないか。法的、学術的な根拠も解釈論の域を出ない。つまり駆け引きで決まる。飴と鞭の力関係で決まっていく。研究、視察、どんな手段を使っても大義名分は結局後付けになる。究極のところ沖ノ鳥島を守り、政治的、経済的エリアを確保する戦術の問題なんですね。今回の視察も。そんなことを考えながら激しく揺れる船の中で過ごしていました。
 厳しい海況のなか、なんとか上陸を果たせた今回の視察。マスコミ人の立場や個人的な心情の違いはあるのでしょうが、苦労した上での上陸が参加者に領土への愛着を持たせた効果はあったはず。従軍取材に似た感覚だと思います。
 私の社としてのお役目は現場のルポと写真原稿の伝送でしたが、なんとかこなし、そしてまんまと思惑?に嵌って私もすっかりわが国の領土に惚れ込みました。
 しかしです。なにせ今回の取材は業界で言うところの『頭撮り』のよう短時間で、当初の目的であった潜水取材がまったく出来なかった。とても残念です。小型ボートで母船を出発する際に福田氏から掛けられた言葉が忘れられません。
「塩入さん、絶対に潜らないでくださいね!」
もちろん安全第一。集団行動のルールも守らねばならない。ですから今回の視察取材の欲求不満を次回の視察に繋げたいと希望しております。
 波の穏やかな春ごろに、改めて追加視察を企画してみたらいかがでしょうか。潜水調査・視察を柱の一つとして明示して案内をいただければこちらも根回しがしやすくなります。中国が触手を伸ばすなかで、陸上視察のみならず水中の視察で事実を積み重ねていく。その効果は政治的にも経済的にもプラスに働くと思います。あのリーフの中は未だ正確に『報道』されていませんから。他国が容易に見られない水中エリアをこちらが先んじて着手していく。今回の視察同様に学者、専門家の方に多く参加して頂き理論武装を施して。
 今回の『頭撮り』では一面用写真に上陸風景の空撮生写真を添えて2枚組で掲載するのが精一杯でした。それでも中国の動きもあるなかで生ニュースとして目立った扱いにはなったと思いますが、水中のルポが出来れば紙面展開ももっと派手に出来たと思っています。
 今回の視察はいろいろ苦労もしましたが、楽しい取材でした。ご迷惑も掛けましたが今後ともよろしくお願いいたします。
 ps;航空運賃は社の経費で清算しました。







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