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2003/10/27 読売新聞朝刊
[国連・幻想と現実](3)分担金だけ重い日本(連載)
 
 国連予算を協議する今月十四日の国連第五委員会。日本の原口幸市・国連大使は、力を込めて発言した。
 「百九十一も加盟国がありながら、なぜ日本が国連財政の20%近くを負担するのか。不公平感を抱く日本の納税者が増えている」
 今年の日本の国連分担金は二億六千万ドル(約二百八十六億円)。分担率は19.516%に上る。三億四千万ドル(約三百七十四億円)を拠出し、分担率22%でトップの米国に次ぐ規模だ。これに対し、安保理常任理事国として拒否権を含めて大きな権限を持つ中国の分担率は1.532%、ロシアは1.200%と極めて低い水準にとどまっている。
 だが、原口大使の発言に対する加盟各国の反応は冷ややかだった。
 分担率の過重な負担を課されながら、分担金の大きさに見合った影響力をなかなか行使できない。そんなジレンマに日本は泣かされ続けてきたのである。
 日本が総額五十億ドルを拠出するイラク復興支援でも、その根拠となった安保理決議の決定過程に、日本は関与できなかった。日本の国連外交は「カネを出すだけで口を出せない」というみじめな現実にさらされたままだ。
 加盟各国の国民総生産(GNP)などから算出した分担率を国連の一般予算総額に掛けた数値を基に計算されるのが国連分担金だ。
 日本が国連に加盟した翌年の一九五七年の分担率は1.97%だった。その後、高度成長とともに上昇し、二〇〇〇年には過去最高の20.573%に達した。
 分担率は三年ごとに改定交渉が行われる。二〇〇〇年末の前回交渉で、日本の分担率は二十三年ぶりに約1%引き下げられ、19%台になった。
 引き下げ交渉を担当した当時の国連大使、佐藤行雄・日本国際問題研究所理事長は「分担率を引き下げた意義は大きい」と言う。さらに「中国やロシアなどに負担増を求めることが、日本の分担率の一層の引き下げにつながる」と指摘する。
 確かに、急速な成長を続ける中国の分担率は低い。旧ソ連時代の一九七八年に11.6%の分担率だったロシアは、旧ソ連崩壊後も常任理事国ポストを手放さないにもかかわらず、分担率が大幅に引き下げられた。
 日本が求める「責任に応じた負担」の主張はかき消されがちだ。「常任理事国は何%以上を負担すべきだ」といった“基準”を求める声は、国連内部からは出てこない。「いびつな分担率」の是正は、日本の国連外交にとって大きな課題である。
◆無駄遣い目立つ予算
 日本の分担率引き下げが難しいのは、分担率の算定方式が米国と開発途上国に有利なためだ。
 分担率は各国のGNPが加盟国全体のGNPに占める比率が基礎になる。しかし、GNPシェアで30%近い米国は分担率の上限規定(22%)が適用され、上限を上回る分は先進国が負担している。
 途上国の場合は、一人当たりの国民所得などに応じて割引が認められている。この結果、人口が多い中国やインド(0.341%)などは分担率がGNPシェアを下回っている。
 だから、加盟国が増えても、分担率の低い開発途上国が多く、日本の負担はいっこうに減らない計算だ。
 現にアフガニスタンや東ティモールなど、加盟国全体の約四分の一が最低分担率(0.001%)の適用を受けている。
 安保理の非常任理事国として常任理事国と同じ一票を持つギニア(0.003%)やアンゴラ(0.002%)も極めて低率だ。負担と発言力に相関関係が全くない点に、疑問を呈する声は根強い。
 小泉首相に外交政策を助言する「対外関係タスクフォース」(座長・岡本行夫内閣官房参与)は昨年十一月にまとめた報告書で、「国連分担金を15%程度へ引き下げるよう強い決意で臨むべきだ」と提言した。
 しかし、日本のこうした動きには、負担率が上昇しかねない常任理事国は反発の構えだ。途上国も警戒感を強めている。
 分担金に対する不公平感がある一方で、国連予算(二〇〇二―二〇〇三年度の二年間で二十八億九千万ドル)の規模や執行状況を疑問視する見方も多い。
 こんな例がある。九〇年代半ばに、世界中から幹部職員約二百人を米国に集めて国連の研修が開催された。組織管理の向上が狙いだったが、実際の研修メニューは、紙飛行機作りやムカデ競走などだった。当然のことながら、参加者からも「出張費の無駄」との声が上がった。
 一般予算とは別に管理されている国連平和維持活動(PKO)予算の無駄遣いはさらに深刻だ。
 国連内部査察室(OIOS)の調査によると、アンゴラでは業者と癒着した担当官が契約していないテントや特殊車両を購入し、国連本部に二億円近く水増し請求していた。ソマリアでは倉庫に戦車やヘリコプターの部品、電子機器などが使われずに腐食したまま放置され、九五年以降だけでPKO全体で百億円相当の無駄があったという。
 国連機関と他の国際機関の業務重複で必要以上の人員と予算を抱えている問題も見逃せない。
 著作権問題では、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)と世界知的所有権機関(WIPO)が、難民問題では国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際移住機構(IOM)などの仕事が重なっている。
 国連職員の給与水準や、国連機関の予算執行などは行財政問題諮問委員会がチェックすることになっている。ところが、予算査定などに関する委員会審議は非公開で、どこまで監視が行き届いているのか、外からは把握しにくい。
 同委のアフリカの委員長が七五年から二十八年間もトップに君臨していることも、委員会の形がい化の一因との指摘も出ている。
 分担率の引き下げ問題だけでなく、国連予算の規模と内容にも関心と注意を向ける必要がある。
(経済部 坂本裕寿)
 
 
 
 
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