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2003/10/28 読売新聞朝刊
[国連・幻想と現実](4)米でも募るいらだち(連載)
 
 「大成功だった。イラク復興でこれ以上、補正予算を政権が議会に求めることはない」。二十六日、米NBCテレビでパウエル国務長官が、マドリードで開かれたイラク復興支援国会議の成果を強調した。
 会議では、二〇〇四年分の目標額百七十五億ドルを大幅にクリアする額の拠出表明があった。これで来年秋の大統領選まで、不人気な復興予算を議会に掛け合う必要がなくなるだけでもブッシュ政権には朗報だ。
 ブッシュ大統領が「国連安保理は責任を果たさなかった」と機能不全を宣告して、イラク攻撃に踏み切ったのが三月。そのブッシュ政権が今、安保理新決議1511の採択を通じ、国際社会に人員、資金面でイラク占領の負担分担を求めている。
 国連事務総長顧問などを務めたスティーブン・シュレジンジャー世界政策研究所長は「国連について歴代米大統領は無関心だったり不信感を持ちながら、国益追求に便利なツール(道具)でもあると納得して、政権を去って行った」と述べ、現政権もイラク統治で国連の使い勝手を再認識しているのだと見る。
 シュレジンジャー氏は、一九四五年六月にサンフランシスコで行われた国連憲章調印式で、トルーマン大統領が「我々にどんな力があっても、それを好き放題に行使する権利は拒む」と演説したことを挙げ、米国も国連の集団安保機能育成に期待し、一部主権の譲渡まで真剣に考えていた時期があった、と指摘する。
 だが、間もなく冷戦の幕が開き、国連への期待はうち砕かれて再び元に戻ることはなかった。
 ソ連の拒否権で米提案の安保理決議が葬られ、総会では第三世界諸国の「数の横暴」で反米、反イスラエル決議案が次々と採択されるに及び、歴代米政権、世論の国連に対する見方は冷淡になる。民主党政権下でも安保理う回は平然と行われ、クリントン政権はコソボ紛争(一九九九年)でG8(主要八か国)を解決の足場に選んだ。
 レーガン政権の国連大使で、国益追求を掲げるタカ派として知られたジーン・カークパトリック氏は、難民救済など人道支援分野では「国連は有益」と評価するが、軍事、安全保障分野での国連の機能には、きわめて懐疑的だ。
 カークパトリック氏は、ボスニア紛争で「武力を使わない」ことを重視するあまり、国連防護軍(UNPROFOR)がセルビア人勢力による虐殺を止めることもできなかったとして、「軍事行動は一国、ないしえりすぐりの数か国で対処するのが最も効果的で、国連が指揮を執ろうとすると失敗は目に見えている」と力説。国連による集団安保が、冷戦後の危機に対応し切れなくなっていることは明白、と指摘する。
 こうした国連観は、ブッシュ政権内部で広く共有されている考え方だ。
 ジョン・ボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は、最近米紙に「(安保理という)際限ない法律セミナーにはつき合えない」と言い切り、ブッシュ大統領が今春発表した大量破壊兵器拡散阻止構想(PSI)でも、国連安保理に諮ることなく、日本やオーストラリアなど「有志連合」との間で進めたい意向を明言した。
 ケイトー研究所のクリス・プレブル外交研究部長は、「多国間主義を建前にしつつ、単独行動も辞さない、というブッシュ政権の姿勢は一貫している」と述べ、国際協調重視派と目されるパウエル長官も含め、現政権が米国の安全にかかわる問題で、国連の影響は受けないと結論づける。
 カークパトリック氏はイラク戦争を前にした安保理でのフランスの対応を振り返り、「旧ソ連でもあそこまで非建設的ではなかった」とまゆをひそめる。圧倒的力の存在を認めず、反発だけで国際秩序や国連改革を論じても無意味だといういらだちは、強者の側にも募っている。
(ワシントン 永田和男)
 
 
 
 
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