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1993/03/21 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/10 米国新政権の不満 紛争対応能力、乏しく
 
 クリントン米大統領は、先月二十三日に国連のガリ事務総長を初めてホワイトハウスに招き会談した。ホワイトハウス側の対応は、必ずしも温かいものではなかった。会談では、ボスニア・ヘルツェゴビナへの緊急支援物資投下で合意した。だが、最大の懸案だった投下作戦の指揮権問題については、合意を見なかった。
 ガリ事務総長は、会談後の記者会見で「その問題については、話し合われなかった」と語った。しかし、話し合いが行われたのは間違いない。クリントン大統領は、ガリ事務総長の国連が作戦指揮権を持つ、との主張に同意しなかったという。国連の運営と将来、特に国連平和維持部隊の運用については、米政府とガリ事務総長の不協和音が目立っている。
 クリントン政権は、どのような国連外交を展開しようとしているのか。クリストファー米国務長官は、米議会での証言で、(1)国連中心主義(2)国連平和維持部隊の活用(3)国連の改組(4)日独の安保理常任理事国入り――を明言した。この中でも、日独の安保理常任理事国入りと国連平和維持部隊の積極活用は、ブッシュ政権よりも本腰を入れた戦略として強調した。
 クリントン大統領の国連戦略の背景には、「米国は、もはや世界の警察官にはなれないし、なるつもりもない」との認識がある。国際紛争解決のために、米国が独自に自国の軍隊を派兵する時代は終わった、との理解だ。
 これは、クリントン政権発足当初の戦略の変更を意味する。同大統領は当初は、国際紛争解決に米軍を派遣する方針を明らかにしていたからだ。クリストファー国務長官も上院外交委での任命承認公聴会で「必要なら、国際紛争解決に米軍を投入する」と明言していた。
 この発言は、具体的にはボスニアへの米軍投入を意味していた。ところが、米軍の派遣には米国防総省が大反対した。本当に武力介入するなら、二十万人以上の部隊を投入しなければならず、それでも制圧までに十年はかかるというのが、反対の理由だった。結局、時間をかけた検討の結果、米軍単独でのボスニアへの武力介入は見合わされた。
 この決定は裏を返せば、国連を中心にした多国籍軍や、平和維持部隊としての派遣なら可能だということを意味する。この政策が効果を上げるためには、国連が国際的な「一一〇番」を受け付けると同時に、直ちに対応できる能力が必要になる。だが、現在の国連にこうした機能を期待するのは難しい。ここに、米国のジレンマと不満がある。
 その原因について米国は、国連が冷戦時代の性格と組織から、脱皮できていないためとみている。いまや世界的な大国として復活した日本とドイツが、国際問題で重要な役割を果たしているにもかかわらず、安保理常任理事国に入っていない。この結果、米国は安保理の合意を図る一方で、日独にも協力を求めるという手間のかかる手続きを踏まなければならない。
 これでは、とても国際紛争への迅速な対応は期待できない。米国が国連の改組と日独の常任理事国入りを主張する理由がここにあるわけだ。
 だが、ガリ事務総長は、米国のこうした国連戦略に、かならずしも協力的でない。ソマリア問題でも、米軍の早期撤退を希望する米国の立場に、決して協力的ではなかった。国連の独自性と、事務総長の中立性にこだわっているように米国には見える。両者のミゾは深くなっている。
(ワシントン・重村智計)=つづく
 次回から国際面に掲載
 
【国連の関連機関】
 国連は主要機関と協力して専門分野で活動する多くの独立した自治機関を抱えている。(1)国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連大学などの常設補助機関(2)国際通貨基金(IMF)、世界銀行、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)など経済社会理事会の専門機関(3)国際原子力機関(IAEA)など国連との協定に基づき活動する関連機関――などがある。
 
 
 
 
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