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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/10/06 産経新聞朝刊
【潮流】中国の天皇観
 
 天皇、皇后両陛下が訪問される中国でいま、日本の天皇制を概説した「日本天皇列 」という本が出版され、話題だ。歴代天皇を列伝風に紹介し、天皇制の歴史にも触れた中国初の一般書だ。陛下を「戦後の新教育で民主主義、平和主義の影響を強く受けた」と積極的に評価しており、ついこの間までの天皇制批判の文言は一言もない。中国の天皇観は変わったのか。
 出版は昨年十二月だが、すぐに書店に並ぶ日本とは違い、中国で店頭に並んだのは今年の夏ごろから。外国の報道関係者の注目を集め、中国書籍を扱っている東京・神田の内山書店の三浦勝利編集部長は「幹部向け内部発行の本や研究論文はあったが、一般向けは初めてではないか」。
 著者は蒋立峰氏(四七)。中国社会科学院日本研究所政治室副研究員。版元の東方出版社は、中国研究者によると「時々の政治・外交問題に対する中国政府の見解を人民に知らせる目的で本を出す出版社」とされ、三浦部長は「ご訪中受け入れの関係部門には『読むように』という通達が出ていると思う」。
 初版は五千部だが、現地での入手が難しいほどの売れ行き。雑誌の中国特集で、この本の紹介をしようとしたある日本の大手出版社が予告広告まで出しながら「手に入らなかった」という理由で掲載を断念した。
 本は五章構成で、第一章は《天皇 神話走進現実=天皇は神から現実のものに》と題され、歴代天皇の歴史を追っている。
 第二章は《天皇は日本の最高統治者に》、第三章は《天皇の盛から衰への500年》、第四章は《天皇は力を失いつつ続いた》。また、巻末では天皇の名称の由来から三種の神器、神道との関係など皇室にかかわるあらゆる事柄を説明し、巻末には「天皇世襲図」という系譜も。
 陛下に触れるのは第五章《天皇又回到了政治舞台=天皇は再び政治の舞台に》。サブタイトルは《平成年代的明仁天皇=平成年代の明仁天皇》。孝明、明治、大正、昭和天皇と一緒だ。
 「学習院教師の中でも、英国籍教師のバイニング夫人と元慶応大学塾長の小泉信三氏の天皇に対する影響は大きく、夫人の平等、平和思想、小泉氏の自由主義思想と象徴天皇論の感化を受けた」
 「在学中に『日本の再軍備には反対』と主張した」「皇室外交に力を注いでおり、これまでに四十余りの国を訪問している」「魚類学の研究者として二十五の論文を発表している」「趣味はほかにもチェロ、馬術、テニス、スキー」
 さらに、「中国に対しては一貫して友好的な立場を取ってきた」と評価し、「一九七三年(昭和四十八年)に東京で中国文物出土展を見学された際、駐日中国大使に対し『日本は一時期、中国に対して誠に申し訳ないことをしてしまいました。非常に遺憾に感じます』と話した」と中国に都合のよい記述もあるが・・・。
 昭和天皇についてもたんたんとした記述が目立つ。「戦争責任を負うべきだ」としながらも「一切の責任を天皇一人に押しつけるのは事実でもなければ公平でもない」と総括する。「戦後は日本の安定と発展、国際平和の交流に尽力した」とし、日本近代史上の重要人物の一人と評価する。
 「小さいころから天皇を否定的にとらえた見方ばかり教えられてきた人間にとっては、この本の評価は新鮮だ」と中国人留学生。別の中国人留学生は「天皇のことがコンパクトにまとめられているし、文章も簡潔で読みやすい」と評価する。
 中嶋嶺雄・東京外大教授も客観的な記述に驚いた一人。「筆者はまだ若手研究者のようだが、先入観なく、非常によく勉強しており、象徴天皇制をしっかり理解して書いている。侵略・戦争責任という面でのみ昭和天皇が語られてきたことを考えると、大変な違いだ。若い世代の天皇観を代表しているのだとしたら、中国に日本の天皇制を冷静に見ていこうという世代が育っているのかもしれない。中国でこういう本が出版されたことは前向きに評価すべきだと思う。広く読まれ、中国の指導者がこれくらいの認識に立ってもらいたいものだ」と語っている。
 ご訪中については、「工人日報」が八月三十日、約半ページを割いて「風雲人物 第125代日本天皇・・・明仁」というタイトルの李麗輝の署名入り紹介記事を掲載した。昭和天皇崩御後、「天皇に戦争責任がないばかりか、平和を願い続けた慈愛あふれる御仁であったというにいたっては、人々はさぞ、彼が生前ノーベル平和賞を授からなかったのを惜しがっただろう・・・」と日本社会を皮肉ったコラムを載せた新聞がである。
 写真を七枚も掲載し、《王子与“灰姑娘”的故事=王子と“シンデレラ”の物語》という表現も使った。
 「ご訪中に向けてメディアが総動員されるのは、これからでしょう」と中国研究者はいう。中国のこの新しい天皇観が定着するのか、それとも歓迎ムードを盛り上げるための一時的な演出なのか。
(社会部 田中良幸)
 
 
 
 
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