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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/01/10 読売新聞朝刊
[天皇をみつめる世界](3)東南アジア 誇張・曲解の排除に努力(連載)
 
 東南アジアの民衆、ことに年配者は、多かれ少なかれ屈折し、起伏に満ちた“心の昭和史”を、それぞれに刻んできたに違いない。戦争期と経済発展期とを問わず、昭和天皇下の日本は東南アジアの国家と民衆にとって、それだけのっぴきならない密着した存在であり続けた。
 シンガポールの老市民リー・キムチュアン(李金泉)さん(72)は、第二次大戦中、抗日ゲリラ部隊の参謀だった。「昭南島」と呼ばれたシンガポールでの日本皇軍の所業は熟知していた。皇軍が去った後、進出してきた日本商品に意識して目をそむけてきた。リーさんも「いま徹底して反日になれるのは無知な人だけだ」という心境になっている。変化は、二十数年前の小さな体験がきっかけだった。
 娘さんの大学の紹介で、日本の女子大生を一晩泊めた。その夜、戦争当時の雑談の中で、香港出版の「中国八年の抗戦史」という本をめくっていた女子大生が、突然ぱたりと本を置いて泣き崩れた。開かれたページには、日本軍に殺されたシンガポール華人のさらし首、「検証」と呼ばれたきびしい住民尋問の写真があった。女子大生の涙はいつわりないものだと思った。
 リーさん一家は、シンガポール大虐殺の事実が日本では具体的に知らされていないこと、しかし、日本人も変わっているのだということを、この時初めて知った。この一件のあとリーさんは日本製ラジオを買う気になったという。
 シンガポールは「日本に学べ」のかけ声で交番制度まで輸入し、大勢の日本人買い物客で日本系デパートが繁盛する国になった。十五年前、あまりに急激な経済進出から日貨排斥運動が発生したタイでも同じ変化が起きている。八日の英字紙「ネーション」は、天皇陛下崩御の報道に七ページ半もの紙面をさき、十ページ半の弔意広告を載せた。記事には厳しい批判の調子はなく、チャチャイ首相が葬儀列席のための訪日の機会に、ラオス国境にかける橋に日本の援助を求めるという記事もある。
 だが、柔和な笑顔の奥に秘められた対日感情や天皇観は単純ではない。バンコクの日本企業に働く大学卒の女性(28)が日本人のイメージは「うっかり信用できない人たち」だった。シンガポールの華字紙「連合早報」の東京特派員ルー・ペイチュン(陸培春)氏は、著書の中で「私たちには『親日』はある程度裏切り者に等しい感じがある」と書いている。かと思うと、あるシンガポール知識人からは、昭和前期の日本が東南アジア非植民地化の触媒になったという“評価”を聞いた。
 どうやら一つ確かなのは、東南アジア民衆の「昭和」は、戦争期の皇軍が残した深い傷を少しずついやすプロセスだったらしいことだ。
 シンガポール大学日本学科長のシア・チミョウ(謝志スイ)副教授は言う。「代表的な対日観というのはない。ただ日本の戦後世代に戦争の罪悪の責めをいつまでも負い続けよと言うのは、あまりに屈辱だろう。双方とも昭和の体験に誇張や曲解をまじえるべきでない」
 かつて「昭南日本学園」に通った日本語紙社主チン・カチョン(陳加昌)氏は断言する。「反日論調の強い華字紙でさえ、昭和天皇の戦争責任を徹底して問うてはいない。他国とのこの違いを日本側は考えてほしい」
 ところで、即位されたばかりの新天皇を見つめる目はどうか。東南アジアの知識人の間では、期待感が強い。
 「王制のタイだとよくわかることだが、新天皇には父天皇の行き方はできないだろう。皇室がオープンになればなるほど、国民からのプレッシャーは強まるはずだ。アジアとの距離も縮まるに違いない。シンガポールはともかく、タイは日本を憎みも好みもする必要がなくなると思う」
(「ネーション」紙社主スティチャイ・ユーン氏)
 「国民や近隣国とのギャップは埋まってゆくだろう。戦争直後の天皇人間宣言より重要な天皇制の変化だ」
(タイのタマサート大学プラサート・チティワタナポン副教授論文)
 戦争期はもちろん、貿易不均衡や技術移転をめぐる摩擦が続く現在も、考えてみれば日本と東南アジアとの関係は、一貫して日本からの一方通行だった。東南アジアでの重要な史実さえ、日本では不十分にしか知られていない。「これはいけない。新天皇を頂く日本は、またわれわれも“両方通行”の理解が必須(ひっす)だ」(シア副教授)という声を繰り返し聞いた。
(バンコク・丸山特派員)
 
 
 
 
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