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私はこう考える【天皇制について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/01/09 読売新聞朝刊
[社説]新天皇とともに開く「平成」
 
 昭和天皇崩御の深い悲しみの中で、「平成」の時代が静かに動き始めた。
 新天皇陛下は、現行憲法のもとで即位された初めての象徴天皇である。私たちはまず、この事実を厳粛に受け止めたい。
 今の平和と繁栄は、敗戦の苦悩を乗り越え国民みんなで勝ちとったものだ。新たなスタート台に立った私たちは、それをさらに確固たるものにする責任がある。
 昭和八年のお生まれ、学習院初等科六年で終戦を迎えられた新天皇は、戦争の悲惨さを心に刻んで育ち、高度成長の中核を担った昭和ヒトケタ世代の一員でもある。
 文字通り、新生日本とともに歩まれたそのお人柄に触れながら、新時代への期待を述べたい。
 疎開先の日光から帰京された新天皇は、激しい戦後改革の中で、学習院中等科、高等科時代を過ごされた。昭和天皇のマッカーサー司令官訪問、連合国軍最高司令部(GHQ)による五大改革指令、天皇の人間宣言、教育基本法公布、新憲法施行・・・。
 新天皇に対する教育方針も一新された。御学問所での帝王学教育は廃止され、授業は東京・小金井にあった学習院仮校舎で、一般生徒と共に受けられた。
◆民主主義の基礎しっかりと◆
 この時期、その人間形成に大きな影響を与えたのは、米児童文学者バイニング夫人と慶応義塾塾長の小泉信三博士だった。
 バイニング夫人については、昭和天皇が米教育使節団と会見された際、自ら「皇太子に英語と国際性を身につけさせたい」と、人選を依頼された。新天皇は、特別扱いを一切しない夫人の教育方針の下で、「個人の尊重」を基本とする民主主義思想を、しっかりと身につけられた。
 教育方針全般の決定にあたった小泉博士は「新時代の皇室のあり方」をご進講のかたわら、英王室の「ジョージ五世伝」の原書を共に読み、論語を講じた。新天皇は、この時の論語の一節「夫子の道は忠恕のみ」を、今も好きな言葉の一つに挙げ、「自分の良心に忠実に、人を自分のことのように思いやる精神は、非常に大切です」と話される。
 講和条約が発効した昭和二十七年に学習院大学に進み、その翌年、エリザベス英女王の戴冠(たいかん)式にご出席のあと、ヨーロッパ各国を歴訪された。「一国の価値はやはり国民が豊かでなければならない、と強く感じました」と、後に語られている。
 新天皇が常に強調される「国民とともに」は青年期までの、こうした様々のご経験によって培われた。
 人間味にあふれたお人柄を語るのに、最もふさわしいエピソードは、新皇后陛下美智子さまとのご結婚だろう。
 「皇室に新しい血を」という昭和天皇のご意向で、民間も含めたお妃(きさき)候補が煮詰まってきた三十三年初め、新天皇は、前年の夏に軽井沢でテニスのお相手をした美智子さまを、候補の一人に加えるよう、自ら申し出られたのだ。
 昭和天皇の許可が出たものの、正田家が固辞し、美智子さまは欧州旅行に。新天皇は、帰国された美智子さまを直接電話で説得、ついにご結婚を実現された。皇室史上初めてのできごとだった。
 お二人のご結婚式は三十四年四月十日、華やかに行われた。その三年前に発表された経済白書「日本経済の成長と近代化」が、「もはや戦後ではない」とうたい、わが国が高度成長に向けて歩み始めた時だった。
◆国民と苦楽を共にする皇室◆
 お二人の歩まれた三十年近い歳月を振り返って、新天皇は「結婚によって、心の安らぎを知りました」と語っておられる。それまでの慣習を破り、三人のお子さまを、手元で育てられた。
 この点について、新天皇は「国の本は、家にあり」という、孟子の言葉を引き、「身近な者の気持ちを理解することによって、国民の気持ちを、実感として理解できるのではないか」と話されている。
 私たちは、こうしたお考えに深い共感を覚える。
 二十一世紀を迎える新しい時代には、戦争を知らない世代が、しだいに社会の中核を占めていく。自由、平等、人権尊重の思想を身をもって実践されている新天皇には、だからこそ、過去にとらわれない、新しいタイプの皇室像を築いていただきたい。
 「天皇は、日本国と国民統合の象徴であり、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」。憲法の象徴天皇制について、新天皇は「多くの国民の支持を得ていると思う」との基本的な認識を示されている。
 一昨年九月、外人記者団の質問に回答された文書では、さらに一歩踏み込み、象徴天皇の役割とは「国民が、象徴の行為として適当であると考えるもの」と、天皇の行為があくまでも、「国民の総意」の範囲内で行われるとの考えを明らかにされた。
 別の機会には「象徴とは、どのようにあるべきかを、常に求めていく」と述べられ、象徴天皇制の定着に向けた努力の重要性も、強調された。
 皇室と国民との関係についても、「国民と苦楽を共にする」「皇室が国民と離れてはいけない」とのご発言がある。
◆国際社会に日本の顔として◆
 いずれのお言葉にも、全面的な賛意を表したい。問題は、言葉の中身である。「国民とともに」を実践されてきたご夫妻に対し、過去には周辺からブレーキをかけるような発言も聞こえてきた。即位を機に、こうした動きが強まることのないよう、側近の人たちに強く注文しておきたい。
 日本独自の伝統を踏まえた上で、開かれた皇室像を模索される新天皇に、もう一つ期待したいことがある。
 象徴天皇制の基礎を、ゆるぎないものに固め、その精神を、新皇太子浩宮さまにも引き継いでいただきたい。新天皇の皇太子時代の本紙世論調査では、「皇太子さまに親しみを感じる」が半数近くに上った一方で、無関心が三割を超えていた。浩宮さまと同世代では、それが半数を占めた。
 国際化時代を迎え、日本は今後、ますます世界の荒波にもまれることだろう。その際、日本の顔として、新天皇の役割も重要性を増すに違いない。
 幸い、ご夫妻は、のべ五十か国を超える外遊経験をお持ちだ。皇室外交の役割について、新天皇は「国民と国民との理解と友好を深めること」と話されている。
 ご夫妻が築いてこられた皇室像が、新時代にふさわしい形で定着することを願い、改めてご即位をお祝い申し上げたい。
 
 
 
 
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