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2001/12/25 毎日新聞朝刊
[社説]考えよう憲法/22 元首 天皇にも国家代表の機能
◇「象徴」定着であいまい合意
 日本を国家として代表するのはだれか。主要国首脳会議(サミット)などの首脳会談に出席する人を指すのなら首相だ。外国の大使を接遇するなど、対外的に国の代表の役割を果たしている天皇だともいえる。
 この問題は元首をめぐる議論として憲法制定過程から、憲法論議の底流をなしてきた。
 明治憲法には「天皇は国の元首にして統治権を総攬(そうらん)し」と定められ、外交関係でも条約締結権を持つ天皇が名実共に元首だった。
 新憲法で天皇は「憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」と規定され、元首の明記はない。
 問題は元首の解釈になるが、それが定まらないことが論議を複雑にしている。
 元首とは、古く国家を人体になぞらえた理論から生まれたといわれ、頭脳にあたる国家機関を指した。国の首長で、絶対君主が典型例だ。
◇変わる元首の解釈
 解釈は時代とともに変わり、学説もいろいろあるが、国家を代表する資格を持つ国家機関で、国内的にも一定の統治権行使の権限を持つというのが一般的である。
 この解釈からは、国事行為にしても「内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負う」と規定されている天皇を元首とするには無理があり、国民主権下の元首は首相というべきだろう。
 しかし、国事行為に定められている対外的な代表機能に着目して、元首の持つ役割の一部を天皇が果たしているという考え方が生まれている。
 現在、政府はこの立場に立ち、天皇を元首として扱っている。
 88年秋、昭和天皇が病に伏された時、英国の大衆紙が天皇について社説を掲載した。当時の千葉一夫駐英大使がこれに抗議した際「日本国の元首である天皇陛下」という表現を使った。
 政府の見解は「今日では、実質的な国家統治の大権を持たなくても国家におけるヘッドの地位にある者を元首と見るなどの見解もあるわけで、このような定義によるならば、天皇は国の象徴であり、さらにごく一部ではあるが、外交関係において国を代表する面を持っているわけだから、現行憲法のもとにおいても、そういう考え方をもとに元首であるといっても差しつかえない」(今年6月参院憲法調査会における内閣法制局答弁)というものだ。
 憲法学者の中には「国事行為として外国大使などの接受の権能が認められているが、これは、国を代表する役割を与えたものではない」とする批判がある。しかし、諸外国は、元首を明記する国が多いこともあって、日本政府の対応を受け入れている。
 憲法制定過程を見ると、天皇を元首とする考え方は否定されている。連合国軍総司令部(GHQ)の憲法草案づくりの基礎となった46年2月のマッカーサー3原則には「天皇は国家の元首の地位」とあった。しかし、GHQ内で「象徴」という表現に変わった。
 同年の憲法制定議会では、金森徳次郎国務相が天皇を元首とすべきだ、との見解に対して「新しい国民思想とは、ぴったりしないのではないか」と退けている。
 天皇元首化論が強まったのは50年代の保守政党だ。保守合同前の自由党や改進党が憲法改正案や大綱に、天皇元首化を盛り込んだ。しかし、「国を形式的に代表する者という意義を有するにとどまり、主権とは何ら関係ない」「旧憲法の天皇主権への復元は意図しない」と断っている。
 結成直後の自民党憲法調査会でも、旧憲法の精神を生かすべきだとする首脳の天皇元首化論に対して、若手議員から反論が出て、中間報告ではトーンダウンした。
 57年設置された内閣憲法調査会(社会党など不参加)の多数意見は「元首とは対外的に国家を代表する地位にあるものとし、対外的関係に関する国事行為の部分のみを整備すべきだ」というもの。
 制定当時「国体護持」を掲げて明治憲法の天皇制の継続を意図した保守勢力の考え方がこの時代なお尾を引いていた。革新勢力は、明治憲法体制への復古で、国民主権を揺るがすもの、と警戒を強めたが、保守勢力の大勢は、天皇が形式的な国の代表の役割を担うという点に集約された。
 天皇を元首扱いする政府の考え方は、50年代にあった保守勢力の考え方を受け継いでいる。
 憲法の規定を厳密に解釈すれば、逸脱といえるかもしれない。解釈改憲という見方も成り立つ。
 しかし、元首の問題が憲法論議で大きな争点となっていないことの裏には、現状を肯定するあいまいな合意がうかがえる。
◇共産党にも微妙な変化
 共産党が、今月はじめ衆参両院本会議で決議した皇太子殿下に女児が生まれたことへの賀詞に賛成した。93年の婚約、結婚の賀詞には唯一反対していた。天皇制に最も厳しい目を持っている共産党の天皇制に対する変化だ。
 現状肯定の中身をよく見ると、昨年暮れの自由党の「新しい憲法を創る(つくる)基本方針」にあるように、実態として国家元首の位置が定着しているから、という考え方と、元首扱いに問題はあっても抑制的なもので、国民主権を揺るがすものではないから、という二つの異なる意見が同居している。
 象徴天皇の定着を背景に、国民意識にある警戒心も畏敬(いけい)の念も共に変化している。あいまいさは天皇をめぐる論議全般にまとわりついていて、これが天皇制を支える核心なのかもしれない。
 
 
 
 
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