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〔4〕アカシア・ミリフェラ(アカシア属、ネムノキ科)
学名:Acacia millifera(Vahl)Benth. /英語名:White-acacia/アラビア語名:khashab
出土遺物番号〔10点〕:RT1600, RT2553, RT2572, RT2984, RT3221, RT3398, RT3812, RT5857, RT7746, RT8541
解説:常緑の低木で、砂漠のワーディーで生育する。茎の材構造の特徴としては、しっかりして暗い外観で、生長輪は明瞭でなく、木部の導管は単独で離れて、散在し、丸く、時々、螺旋紋状の木化が見られる。放射組織は4〜5列。出土遺物の大部分は、加工された材に装飾された断片の形状で、また、未加工の木片や木炭や枝部もある。この植物は現在はシナイ半島で生育してはいないが、遺物や未加工の材は、この木がかつては地元に由来したことを示している。
 
〔5〕アカシア・ニロティカ(アカシア属、ネムノキ科)
学名:Acacia nilotica(L.)Delile〔=A. arabica Willd., A. adansonii G. & A. Sant, Mimosa arabica Lam.〕/〔和名:アラビアゴムモドキ〕/英語名:Nile-acacia,〔Egyptian acacia, Egyptian mimosa,Egyptian thorn, Gum arabic tree, Babul acacia〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔5点〕:RT42, RT604, RT1749, RT5892, RT7629
解説:常緑の中くらいの高木で、エジプトの植物地理学的圏内の全てで生育する。茎の材構造の特徴としては、木部の導管は単独、あるいは、3つが集団になっていて、各導管または導管の集団は翼形の柔組織帯に囲まれている。出土遺物は加工された材のほか、未加工の材やゴム〔植物ゴム、アラビアゴム gum arabic、アカシア属の数種、とくにAcacia senegal樹皮〕や木炭や枝部もある。この植物は現在でもシナイ半島で生育している。
 
〔6〕アカシア・トルティリス(アカシア属、ネムノキ科)
学名:Acacia tortilis(Forssk.)Hayne subsp. raddiana(Savi)Brenan./英語名:Desert acacia/アラビア語名:
出土遺物番号〔54点〕:RT46, RT48, RT65, RT89, RT174, RT230, RT408, RT477, RT927, RT1360, RT1423, RT2363, RT2537, RT2813, RT2924, RT3046, RT3053, RT3098, RT3238, RT3451, RT3517, RT3756, RT4403, RT4493, RT4540, RT4572, RT4608, RT4713, RT4717, RT4868, RT5099, RT5169, RT5209, RT5362, RT5610, RT5896, RT6199, RT6205, RT6353, RT6411, RT6470, RT6500, RT6552, RT6578, RT6635, RT6801, RT6884, RT6916, RT7107, RT7115, RT7715, RT7853, RT7882, RT8000
解説:常緑の小さな高木で、暑い砂漠のワーディーで生育し、現在でもシナイ半島では砂漠でふつうに見られる木である。茎の材構造の特徴としては、生長輪はないかあっても不明瞭で、木部の導管は単独で離れているか、あるいは、放射方向に集合をつくり、散在している。放射組織は1〜6列。出土遺物の大多数は加工された材に装飾された断片で、また、未加工の木片や木炭や枝部もある。この植物は現在もシナイ半島で豊富に生育していて、遺物や未加工の材は、この木が地元に由来することを示している(図版1-1〜4)。
 
〔7〕アカシア属(種名不明、ネムノキ科)
学名:Acacia sp./〔和名:アカシア属〕/英語名:Acacia/アラビア語名:
出土遺物番号〔3点〕:RT247, RT1275, RT7517
解説:これらの遺物の材構造は、前述のアカシア属に似ているが、試料の損傷により種名は同定できなかった。
 
〔8〕アナギリス・フォエティーダ(アナギリス属、ジャケツイバラ科)
学名:Anagyris foetida L.〔= A. neapolitana Ten.〕/英語名:Bean-clover〔=Stinking wood〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔1点〕:RT119
解説:常緑の低木で、広々とした半ステップの植物群落で生育する。茎の材構造の特徴としては、はっきりした年輪があり、木部の導管はやや環孔(材)状に散在している。放射組織は14列。この出土遺物は未加工の枝部の形状をしている。この植物はエジプトでもシナイ半島でも記録されておらず、この遺物はイスラエル、ヨルダン、ないしはイラン・トゥーラーン地域からシナイ半島にもたらされたのであろう。
 
〔9〕アルンド・ドナクス(ダンチク属、イネ科)
学名:Arundo donax L.〔=Donax arundinaceus Beauv.〕/〔和名:ダンチク、ヨシタケ〕/英語名:Giant reed〔=Bamboo, Bamboo-reed, Cane〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔6点〕:RT73, RT371, RT1118, RT2009, RT6509, RT7627
解説:多年生のダンチクは、水気がある場所で生育する。出土遺物は、未加工の稈(中空で節のある茎)部の片〔5点〕、および、コップのような形の部品が1点(図版1-5、6)である。この植物は現在もエジプトの植物地理学的圏内の全てで生育しているので、これらの遺物は地元に由来する。
 
〔10〕アビセンニア・マリーナ(ヒルギダマシ属、クマツズラ科)
学名:Avicennia marina(Forssk.)Vierh.〔=A. officinalis L., A. tomentosa Jacq.〕/〔和名:ヒルギダマシ〕/英語名:White mangrove/アラビア語名:
出土遺物番号〔8点〕:RT72, RT2015, RT2704, RT2816, RT2896, RT3230, RT4218, RT4486
解説:常緑で耐塩性のある小さな高木で、紅海やシナイ半島南部の海岸で生育する〔いわゆるマングローブ(Mangrove)である〕。茎の材構造の特徴としては、はっきりした生長輪があり、木部の導管は単独で離れているか、あるいは、放射方向に集合をつくっている。放射組織は1〜4列。出土遺物の形状は、ボートの砕片のように見える加工された材、および、未加工の木片や木炭や枝部である。この植物は現在もシナイ半島で豊富に生育していて、遺物や未加工の材は、この遺物が地元に由来することを示している。
 
〔11〕バラニテス・アエギプテイアーカ(バラニテス属、ハマビシ科)
学名:Balanites aegyptiaca(L.)Delile〔=Ximenia aegyptica L.〕/英語名:Egyptian-plum〔=Thorn tree, Egyptian balsam, Zachum oil tree〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔11点〕:RT49, RT102, RT2324, RT2887, RT3458, RT4353, RT4500, RT4648, RT5701, RT6603, RT7463
解説:常緑の小さな高木で、暑い砂漠のワーディー、ナイル流域、オアシスで生育する。茎の材構造の特徴として、生長輪は不明瞭で、木部の導管は単独で離れているか、あるいは、2・3の導管が放射方向に集合をつくって散在している。放射組織は9〜35列で、はっきりした鞘がある。出土遺物の形状は、加工された材、未加工の材、および、果実や枝部である。この植物は現在もエジプトの紅海沿岸で生育しているが、シナイ半島にはないので、この植物は紅海の西側からこの遺跡にもたらされたのであろう。
 
〔12〕ブラシカ・ニグラ(アブラナ属、アブラナ科)
学名:Brassica nigra(L.)Koch.〔=Sinapis nigraL.〕/〔和名:クロガラシ〕/英語名:Black mustard/アラビア語名:khardal aswad
出土遺物番号〔1点〕:RT401
解説:一年生〔草本〕の薬用植物で、水気があるワーディー、ナイル流域、地中海沿岸、オアシス、シナイ半島で生育している。この出土遺物は、1粒のクロガラシの種子である。
 
〔13〕バンブーサ・アルンディナセア(ホウライチク属、イネ科)
学名:Bambusa arundinacea Willd. /英語名:Common bamboo〔=Giant reed〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔1点〕:RT1546
解説:普通のタケのダンチクで、この植物はエジプトでは生育していない。この出土遺物は、形態学的に明らかに、稈部の片である。この植物はアフリカに由来するであろう。
 
〔14〕ブクス・セムペルビレンス(ツゲ属、ツゲ科)
学名:Buxus sempervirens L./〔和名:セイヨウツゲ〕/英語名:Common box-tree/アラビア語名:baqs
出土遺物番号〔4点〕:RT190, RT1484, RT3546, RT6742
解説:セイヨウツゲは大きな高木で、エジプトには生育していない。茎の材構造の特徴としては、木部の導管は単独で分散していて、階段穿孔があり、導管は散孔(材)状である。放射組織は2列。出土遺物は加工された材に装飾された断片の形状で、ポット、家具の一部、アラベスク風の部品の形をしている。遺物は他地域に由来するであろう。
 
〔15〕カダバ・ファリノーサ(カダバ属、フウチョウソウ科)
学名:Cadaba farinosa Forssk./英語名:−〔Esel-wood〕/アラビア語名:−
出土遺物番号〔1点〕:RT5469
解説:常緑の小さな高木、または、低木で、暑い砂漠のワーディーで生育する。茎の材構造の特徴としては、生長輪はなく、木部の導管は単独か、あるいは、放射方向に集合をつくっている。放射組織は1〜2列。この出土遺物は加工された材の形状である。この植物は現在はシナイ半島で生育してはいないが、紅海地域、および、エルバ山域では生育しているので、この遺物はそれらの地域からもたらされたものであろう。
 
〔16〕カロトロピス・プロセーラ(カイガンタバコ属、ガガイモ科)
学名:Calotropis procera(Aiton)W.T.Aiton/英語名:Mudar〔=French cotton, Mudar plant〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔3点〕:RT2015, RT6480, RT6482
解説:常緑の低木で、砂漠のワーディー、ナイル流域および平原で生育する。茎の材構造の特徴としては、生長輪はないか、あっても非常にぼんやりしている。木部の導管は放射方向に集合をつくっている。放射組織は1〜6列、高さは25細胞までで、乳管をもつ放射組織もある。出土遺物は加工された材の形状で、漁業用具の部品のようである。この植物は現在も紅海沿岸やシナイ半島で生育しており、遺物は地元に由来する。
 
〔17〕カンナビス・サティバ(アサ属、クワ科)
学名:Cannabis sativa L.〔=C. gigantea Hort.〕/〔和名:アサ〕/英語名:Common hemp〔=Indian hemp〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔13点〕:RT103, RT663, RT693, RT1516, RT1650, RT2552, RT2633, RT2643, RT2673, RT2675, RT2710, RT2747, RT2850
解説:一年生の栽培植物で、現在も、エジプトのナイル・デルタで繊維生産のため栽培されている。出土遺物はすべて繊維かマットかロープで、遺物は地元に由来するであろう。
 
〔18〕カッパリス・スピノーサ(フウチョウボク属、フウチョウソウ科)
学名:Capparis spinosa L./〔和名:ケーパー〕/英語名:Common caper-bush/アラビア語名:
出土遺物番号〔2点〕:RT1667,RT4660
解説:常緑の低木で、砂漠のワーディーとオアシスで生育する。茎の材構造の特徴としては、年輪はかなり明瞭か、ないしは、ぼんやりしている。木部の導管は円形ないしやや角ばった形をしている。放射組織は1〜4列で、鞘細胞がある。出土遺物は加工された材の形状で、家具の一部のようである。この植物は現在もシナイ半島で生育していて、遺物は地元に由来する。
 
〔19〕セドルス・リバニ(ヒマラヤスギ属、マツ科)
学名:Cedrus libani A. Rich〔=C.libanoticaLK., Pinus cedrus L., Larix cedrus Mill.〕/〔和名:レバノンスギ〕/英語名:Cedar〔=Cedar of Lebanon〕/アラビア語名:sidr
出土遺物番号〔6点〕:RT1186, RT5061, RT6264, RT6549, RT7101, RT7107
解説:常緑の高木で、レバノン、トルコ、キプロスの山々で生育し、現在はイスラエルで栽培されている。その材木は非常に緻密で、暗い色をしている。茎の材構造の特徴としては、生長輪は明瞭である。木部の導管はなく、かわりに仮導管がある。放射組織の多くは1列で、2列はほとんどなく、樹脂道はない。出土遺物は加工された材の形状で、家具の一部やチェス用具の部品らしい。この植物は他地域に由来する(図版1-7〜9)。
 
〔20〕セラトニア・シリクア(イナゴマメ属、ジャケツイバラ科)
学名:Ceratonia siliqua L./〔和名:イナゴマメ〕/英語名:Carob〔=Carob tree, Locust tree, St. John's bread〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔7点〕:RT3109, RT3214, RT3983, RT4626, RT5188, RT5893, RT8337
解説:常緑の高木で、エジプト南部の暑くて水気がある砂漠あるいは暑い地域で生育する。その材木は非常に緻密で、暗い色をしている。茎の材構造の特徴としては、生長輪はかなり明瞭か、ないしは、ぼんやりしている。木部の導管は単独で散在しているか、2〜4(8)の細胞が放射方向に集合体となっている。放射組織は1〜4列で、高さは25細胞まで。出土遺物は加工された材の破片の形状である。遺物はナイル流域の地域からもたらされたものであろう。







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