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STEP7: 心配事を引き出す
Elicit concerns
 “何がもっとも心配ですか”
 「悪い知らせ」を説明したあと, 患者の心配事を引き出すことは重要です. 多くの患者は悩み苦しんでいますが, 自分の悩み苦しみの原因がおもにどこにあるのかはっきりわかりません. 心配事を話し合う機会を与えることにより, 患者はそれらの問題をはっきりさせ, 心配事の優先順位を決めることができます. 患者にとってこれは肯定的な方法であり, つねに助けとなります. 悩み苦しみを要素化し, 話し合うことができるようにしますが, 早期に安心感を与えて, 不満足な状態やフラストレーションの原因を作らないようにしたり, また説明のしすぎを避けるようにします.
 医療者としてのねらいは「心配事に対する助産婦」のようにふるまうことです. たとえば, 苦痛となる心配事の迅速な出産の援助(「世間話」のやりすぎはこれを妨害します). そして患者の心配事を優先順に手助けをすることです. これは会話から進展していく場合が多いです.
 
 
聞く
心配事を引き出す
心配事の優先順位化
 
key point
 
 苦悩を与える心配事は見えないままの場合がある.
 
STEP8: 感情の表出
Ventilation of feelings
 
 “いまわかっていることに対してどのようなお気持ちですか?”
 これはカギとなる段階です. 対話上, 治療的意味があります. ねらいは患者に自分の感情の一つひとつを言葉にしてあげてもらうことです. 言葉をあげることによりその感情は患者から独立して存在するようになるので, 制御できるようになるのです. 最初のステップは患者が自分の内面の感情を認識することです(難しい). そしてその感情を言葉として表現することです. 患者は話すにつれて自分の言葉を聞きます. そして自分の感情を理解するようになります(「自分の言ったことを自分の耳で聞くまで, 自分がどう感じていたのかわかっていませんでした」).
 
感情を言葉にしてあげる
 
 患者に自分の感情を言葉としてあげさせるこの方法は専門医に役に立つ目標を与えます. たとえわからなかったとしても, 試すだけでも治療効果があります. もし強い感情が現れたら(恐怖, 怒り), その感情を認識すればただちに静まります.
 これはカギとなる段階です. なぜなら感情を表出することを励ますことは自分が患者に共感していることを示すので, 対話上, 治療的部分となるからです. 共感とは患者がどのように感じているのかを理解しようとすることで(「あの医者は理解してくれているようだ」), 患者が感じていることを感じることではありません(そのようなことは不可能ですし, また不必要です. 患者の危機はあなたの危機ではないのですから). 共感とは, 患者の感情を殺してしまう可能性のある同情(かわいそうに思うこと)よりずっと治療効果があります.
 この段階において医療者の不安感により, 医療者はおしゃべりになったり, 内容を手短かにしてしまうかもしれません(どちらも患者に冷たく感じられてしまう). 落ち着いて患者が自分の気持ちについて考えられる時間を与えるようにしましょう.
 
key point
 
 感情の表出は、その感情が認識されるという条件下において, 治療効果があります. (例「私には, あなたが, ・・・のように感じられているように思われるのですが」)
 
STEP9: まとめと計画
Summary - and - plan
 
 “あなたの現時点でのおもな心配事は・・・のようです”
 医療者の役割は計画を作るということに特徴づけられます. 計画することは援助となります. そして指導者的立場を見せることにより, 患者の危機状況の感情を軽減します. 計画を練るにはあらゆる思考を要します. そして医師としての管理知識を駆使して, 患者のおもな心配事をまとめ上げる必要があります. また, とくに友人とか家族など, すでに患者の支援となっている体制の認識をします.
 
 
 できあがった計画は患者の個性を補強し, 不確実な感情を軽減するものであるべきです. 最良の状態を望みつつ, 同時に最悪の事態に備えることは可能であり, また重要であることを患者に説明することは役に立ちます.
 
まとめと計画
・指導権を申し出る
・個性の増強
・非現実的な約束を避ける
・最悪の事態に備える(非現実的恐怖を軽減する)
・最良を望む
 
まとめの例
 「私にはいまのあなたのおもな心配事は, 第一に病気をできるかぎり制御するうえでどのような治療を受けることができるかということ, 次に息子さんにどのように説明しようかということ, そして3つめに, あとどのくらいのあいだ働くことができるかということのように思えます. さらに治療を統けることは可能ですが, 完全に治癒することはできません. 来週の月曜日にもっと詳しくお話をしたいと思います. そのとき, 息子さんにも是非来ていただきたいと思います. 以前あなたは妹さんととくに親密であられると申されましたが, 次のステップとして妹さんと一緒に息子さんのことについて話し合いをされてはいかがでしょうか. そしてあなたが働き続けることに対する賛成意見と反対意見を出されてみてはいかがでしょうか. 何かほかに話し合うべき重要なことはありますか?」
 
key point
 
 「あと5分時間がありますが, ほかに何かいま話しておきたいことはありますか?」という言葉で終える.
 
STEP10: いつでも相談にのることを伝える
Offer availability
 
 “来週の木曜日に会いたいと思いますが, よろしいですか?”
 「悪い知らせ」を聞いたショックから患者は簡単な決断も下せない状況になるかも知れません. 次に会う日時についてはっきりとした説明をするのがもっともいいようです(患者に決定を下す機会を与えることは重要).
 
 いつでも相談にのるということが重要である3つの理由
(1)患者は最初は内容の詳細については覚えていない.
(2)患者は自分の感情を調整するのに時間がかかる. たとえそれがちょっとしたことであっても, 話を聞いたり, カウンセリングを行うことは患者の手助けとなる.
(3)悪い知らせを伝える時, 家族の人が一緒にいると大いに役に立つ.
 
なぜいつでも相談にのれる必要があるか
・さらに説明する
・感情を調整する
・家族と会う
 
感情を調整するには時間がかかる
 
key point
 
 悪い知らせに対して感情を調整するには, 時間がかかる. それは悲しみの過程と似たものがある.
 
フォローアップ1: さらなる説明
Further explanation
 
 “説明することの治癒上の価値を大きく評価することはとても難しいことである. とくにその状況が1つの選択しか許さない場合は難しい”(ジョン・ベーガー)
 多くの患者は「悪い知らせ」を聞いたとき, ショックで他の多くの事実を受け入れられなくなります. しかしながら, ほとんどの患者は後日さらに詳細な説明を受けることが大変な救いとなることを理解します. 求められた情報に見合った情報を与えましょう.
 注意:治療選択の説明は病気の説明ほど恐れられません.
 
情報の輪郭
 
 ほとんどの患者が一度に理解できる新事実は2つか3つです. 医学用語の使用を避けます(たとえそれが「カテーテル」のような簡単な言葉であっても). 図式は助けとなります. 患者の理解度を確認するために, 患者に情報を繰り返させましょう.
 
説明に要する技術
・何を知っているか調べる
・ハッキリと簡潔に
・医学用語を避ける
・分類して話す(「3つお話しすることがあります」)
・繰り返す
・図を描く
・理解度をチェックする(「私に説明してくれますか」)
・指示を書く(もしくはテープに録音させる)
・情報小冊子を渡す
 
事例
 ホスピスの医者は肺がんがかなり進んだ新患に2つの薬を処方し, 注意深くゆっくりと薬の目的と使用方法を説明しました. そのとき, 外で看護婦と話をしていた患者の妻が診察室に入ってきましたので, 医者は几帳面に患者と彼の妻に再度説明を繰り返しました(薬カードに詳細に書くことも含めて). そこヘマックミラン看護婦が入ってきて, 薬は何のためのものかと患者に聞きました. 患者は理解していませんでした. 不安が理解することを妨げていたのです.
 
key point
 
 適切な情報を適切なタイミングで説明し, 理解度をチェックする.
 
フォローアップ2: 感情面の調整
Emotional reactions
 
 “いまの具合はどうですか?”
 「悪い知らせ」に慣れるには時間がかかります. それは悲しみに対するものと似ています. 通常の感情に対する反応を理解することは大切なことです. 患者に「心を開いた」反応をするように励ますことは, 患者が状況に対処するための援助となります.
 
危機に対する感情的反応
 
1. 恐れは, ちょうど波のうねりのように変動する否認といえます. それは患者が圧倒されずに少しずつ物事を受け入れるために役立ちます. 完全な否認の閉ざされた反応は, 継続的な精神力を要求します(ほかのことをするエネルギーを失わせます). 患者は, 恐怖に一歩ずつ立ち向かうことにより, 自信を取り戻します.
2. 怒りは日常の反応であり, 否定的にも肯定的にもなりえます. 否定的な怒りは, 内面化され, 罪の意識や落ち込みの原因(「私は何の役にも立たない」)となったり, 他人のせいにしたりする(介護者を非難する)原因となります. しかしながら, 怒りのエネルギーは肯定的に使われることもあります(病気と闘う).
3. 悲しみは何かを失ったりした場合にあてはまる感情です. 悲しみが認識されなかったりすると, 悲惨になったり, 落ち込んだりする原因となります. 悲しみに対する心を開いた反応にはいくつかの過程があります(失ったことに直面し, 感情を話し, 調整する).
4. 依存するということは日常の出来事です. 私たちはいつも誰かに依存して暮らしていますので, 危機に遭遇したさい, 困難に圧倒されずに, 他人に援助を求める意味で, 無力感というものはときには必要です. その人が頑張れる力を取り戻すにつれて, 決定事項に参加したり, もっと責任を受け入れたりして, もっと心を開いた反応に向かって進むことができるようになります.
5. 無力感は人間が危機感を抑圧するための反応です. 危機感のなかに意味を見出すことに失敗すると絶望に導かれてしまいますが, 危機感はよりよい方向へ自分を変えたり, 新しい人生において何が大切であるかを見出す機会ともなりえます.
 
key point
 
 危機に遭遇している患者たちは, それぞれが異なった感情の変化をみせる.







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