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フォローアップ3: 家族と会う
Meeting relatives
 
 “あなたのご家族に会わせていただけますか?”
 「悪い知らせ」は家族全員に影響します. 医師が家族と話をしながら, 患者と話をしないことは, 知らず知らずに会話を難しくする原因となってしまうことがあります. 家族と一緒に患者に会うことは治療効果があり, 時間も有効的に使うことができます.
 単純に家族にみんなで会って特別な話し合いをするように提案する勇気をもつ以外, 医師はとくに何もしなくてもよい場合があります. 「一緒になった家族は一緒に話します」. 可能であれば, 同僚にいてもらうと助けとなります.
・自分と同僚を紹介します(名前と役職)
・質問をします
・説明を開始する前に各自の心配事を聞きます
・各自に話をする機会を与えます(子どもも含めて)
・子どもを保護するために子どもを会話からはずしたりしないように家族を励まします(そうされると子どもは孤立し困惑します)
・家族の力を知ります(「あなたのご家族はいままでこのような状況を経験されたことがありますか?」)
・決して批判をしてはいけません. 家族がこの状況に対処するため一生懸命に努力している態度を尊重します.
 
家族に言う(不安が増す)
 
 
家族と会う(不安を和らげる)
 
key point
 
 家族の話し合いは, 患者が悪い知らせに対処できる強力な(そして軽視されがちな)方法です.
 
考察
Discussion
 
問題の予想
 たとえば腹部切開検査の前に, 「悪い知らせ」を伝えることになりそうな場合, 前もって患者から情報を入手しはじめたほうがよい場合があります. 例「もし深刻な問題があったら, すぐに知らせてほしいですか?」. もちろん, このような質問をすることは患者を心配させることになるかもしれませんが(通常, 患者はすでに心配をしており, 心を開いた会話は患者を助けます), 現在の心配事がのちに利益をもたらすかどうかの判断の問題といえます.
信頼
 「悪い知らせ」は信用のおける人間からのほうが聞きやすいものです. 評判, 能力, そしてどれくらいその人を好きになれるかということで信頼度は決まりますが, おもに話を聞くことにより信頼を得ることができます.
間違った元気づけ
 医師の不安感は, 助けるためという偽りの約束をすることに医師を導きやすいものです. これはのちに患者の憤慨の原因となります. 実行できる約束だけをします. 偽りの安心感は信頼を壊します. ですから, 間違った期待をさせないようにしましょう. この危険性はたえず存在します. 事態を和らげようとして, 私たちは楽観的になりすぎる場合があります.
 
事例
 膀胱がんと診断された一人の若い男は, 2週間前の手術の日まで比較的よい状態でした. 彼はまたゴルフに行くことを楽しみにしていました. 彼の妻はホスピスのカウンセラーに二度目のミィーティングのときこう言いました. 「あなたは夫にできるかぎり普通の生活に戻るように言われました. 夫は何度もがんばりましたが, 失敗しました. 私たちはいまとても失望しています. 夫の限界について, あなたがはじめからもっと現実的な話をしてくれていたら, もっとよい状態でいられたのにと思います」
 
仮定を避ける
 まず, 何が「悪い知らせ」であるかを仮定することを避けます. 指をけがしたという問題は, 多くの医療問題と比較すれば小さな問題に見えるかもしれません. しかしプロのピアニストにとっては重大な危機であるかもしれないのです. 2つめに患者の心配事や期待を仮定することを避けます. 患者に聞くようにしてください.
医療者間のコミュニケーション
 実際, 「悪い知らせ」はある程度時間をかけて伝えられる場合がしばしばあります. そして重要な局面のなかの1つとして医療者間のコミュニケーションがあります. そうすることによって, 患者は一貫した情報を正しいタイミングで受けとることができるようになります.
すべてがうまくいかないとき
 すべてがうまくいかなくなった場合はどうなるでしょうか? 患者と家族は怒りと動転でどうしたらよいかわからない状態にされてしまいます. 悪い知らせに対して怒りを感じている場合もありますし, 無神経な言われ方をしたことに腹を立てている場合もあります. このような場合, まず最初にすべきことは, 患者に話をする時間を与えることです. 10分ほどの時間を与え, 患者に何か起き, どのように感じているのかを説明させます. 事実について話し合う前に怒りを表出させなければなりません. そして患者は通常自分が何を言いたいのかをすでに頭の中で何度も繰り返しているに違いありません. 10分という時間はあまり長くは感じられませんが, 多くの医者は患者が話しはじめてから30秒後ぐらいにはその話をさえぎっているという事実もあります. もしあなたが間違いを犯したのであれば謝るべきです. 誰かほかの人間が間違いを犯したのであれば, 決して批判をせずに, 患者に共感することを伝えます(「なぜお怒りになっているのかよくわかります」). いずれのケースにしても, 防御的になってはいけません. 患者は正直な態度に対しては通常とても寛大なものです.
 
結論とまとめ
Conclusion and Summary
 
 患者と話をするさいに, すべての10段階のステップを覚えていることは可能ではありませんし, 必要なことでもありません.
 「悪い知らせ」を伝えるさいに覚えていてほしい重要なことは次の2つのみです.
(1)はじめに質問をする.
 何を知っているか? 何を欲しているか? 家族を含めるべきか?
(2)心配事を引き出す. そして感情が表出するように励ますこと.
 これを患者に行うことは, あなたの患者を助けることになっても, 傷つけることにはなりません.
 
まとめ:「悪い知らせ」を伝える10ステップ
1. 準備
2. 何を知っているか
3. さらに情報をほしがっているか
4. 否認することを許す
5. 警告を発する
6. 説明
7. 心配事を聞く
8. 感情を表出させる(カギとなる段階)
9. まとめと計画の作成
10. いつでも相談にのるということを伝える
 
3巻3号(1998 May/Jun)がん看護







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