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1997/05/24 毎日新聞朝刊
川辺川ダム工事着工 反対派「2000億円ムダ遣いだ」
 
 「住民の声をもっと聞いて」――建設省が熊本県相良村に建設を予定している川辺川ダムの本体工事に向けた仮排水路トンネル工事が23日始まった。現地であった安全祈願祭にはダム建設に反対する市民グループが詰めかけ、亀井静香建設大臣らにあてた抗議文を建設省の関係者に手渡すなど抗議行動した。
【長谷川隆、諌山耕】
 会場にはダム建設に反対する県内五つの市民グループから10人が集まり、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」の原豊典事務局次長(52)がグループを代表し、抗議文を酒井俊次・川辺川工事事務所ダム第2出張所長に手渡した。
 抗議文は「ダム建設の理論的根拠が明確でなく、利水の関係農家の半数近くが反対している。環境破壊を招き、洪水調節機能にも疑問があるダムに今後2000億円以上の税金を投入するのは市民の常識に大きく反している」などとして「地域住民の意見をもっと聞いてほしい」と強く訴えている。
 グループの人たちは、横断幕などを持ち、「ダムはいらない」とシュプレヒコールを上げた。
 原事務局次長は「住民のためにならない事業は公共事業と呼べない。今後も川辺川の大切さとダム建設の不当性を広く訴えていきたい」と話していた。
 酒井所長は「抗議文は受け取るが、答える立場にない。環境に影響が出ないように工事をしていく」と応じていた。
 一方、球磨川漁協の三室勇・副組合長は「ダム建設で、アユが全滅に近い打撃を受けるのは明らか。漁業補償交渉が平行線をたどっている中での着工であり、遺憾だ」と話した。
 また、川辺川ダムの水を利用してかんがいなどを行う国営川辺川土地改良事業に反対し訴訟を起こしている相良村の梅山究・原告団長は「必要のない農業用水を引かせる公共事業のおかしさを訴えていくだけ。その結果が(かんがいを大きな目的とする)ダム建設にどう影響するか見守っていく」と話している。
 諌早干潟緊急救済本部の山口八郎さん(71)は「ダムの見直しは世界的な流れだ。それに目をつぶって着工するのは、一度決めた公共事業は何が何でもやるという諌早湾干拓事業と全く同じ。財政が窮迫しているうえに川辺川ダムも反対運動がある。ごり押しするのではなく、本当に必要な事業かどうかを謙虚に検討すべきだ」と話している。
 
 
 
 
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