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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/11/07 毎日新聞朝刊
[記者の目]建設省ダム審議委員会 独立した第三者機関として、公正な論議の場を
 
 建設省は今夏、住民や自然保護団体が反対しているダムや堰(せき)建設など、十一の大規模河川開発事業を対象に、それぞれ審議委員会を設置し、事業について再検討してもらう方針を打ち出した。熊本県の川辺川ダムや徳島県の吉野川第十堰改修事業などでは、すでに審議委が発足し、動き出している。広い立場から検討を加えるのは結構だが、手放しで喜んでいいのか。私にはむしろ、見直しは形だけで、逆に建設促進のお墨付きを与える結果に終わるような気がしてならない。
 建設省河川局長の通達によると、事業の「一層の透明性、客観性を確保」し、「経済社会の変化に即した総合的な評価を行う」のが審議委設置の目的という。それゆえ審議委の結論によっては、「事業の中止、縮小もあり得る」とも述べている。言葉通りであれば、拍手をもって迎えるべき快挙だ。私がそうではないと思うのは、次のような理由による。
◇不透明な委員の人選
 まず、審議委の性格づけの問題だ。本当に事業の是非を公平に判断してもらおうと思うのなら、事業主体からは名実ともに独立した第三者機関でなければならない。ところが審議委は、事業を管轄する各地方建設局長の下に設置される。事務局も各地方建設局が務め、資料収集などの事務は、すべて建設省職員が行う。つまり、実態は完全に建設省の内部機関なのだ。
 次に「客観性」。これを確保するには委員の人選がカギになる。ところが建設省はこの大切な人選を、都道府県知事にゆだねている。各事業とも知事は一貫して事業を推進してきたことを考えると、これは致命的だ。
 既に発足した審議委のメンバーを見ると、一見して推進派と分かる委員が多い。多数決なら結論は最初から明白だ。学識経験者の委員にしても、過去にダムや堰について研究したり、意見を述べたことのない人たちで占められている。事務局が「丸め込める素人ばかりを集めた」と考えるのは、うがち過ぎだろうか。
 私が五年前から取材を続けてきた川辺川ダム事業では、熊本県は当初、反対派の幹部である医師を審議委の委員にする方向で動いていた。ところが事務局の九州地方建設局が難色を示したことから、結局その医師は外され、代わりに川辺川ダム建設促進協議会会長を務める人吉市長が委員になったという。また同ダムの審議委員への就任を打診された学者が「計画見直しを主張してもいいのか」と尋ねたところ、「それはちょっと」と言われ、就任を断ったという話も聞いた。
 「審議委の結論によっては、事業の中止や縮小もあり得る」とは、そういう前提があってのことなのだ。各事業に反対する市民団体が一致して、審議委の白紙撤回を求めているのも当然だろう。
◇無条件の情報公開必要
 「透明性」の問題も重要だ。確かに建設省は以前に比べると、情報公開に柔軟になってはいる。審議委でも、求められたデータは「原則として公開する」という。だが、ここにもからくりがある。
 実は建設省が情報公開に柔軟になる直前、私はある建設省の技官から、「公開したらまずい情報がないか、各河川ごとに一斉にチェックする作業をさせられています」という内容の手紙をもらった。つまり、公開されるデータは、あらかじめチェックしてOKが出たものばかりの可能性が強い。現に私が三カ月近く前に提供を求めたデータは、いまだに「検討中」として公開されていない。
 建設省が長良川河口堰の本格運用を強行したのは今年五月。全国的な反対を受け、合意点を探る目的の「長良川円卓会議」が設置されて、二カ月後のことだった。この円卓会議は、成田問題を解決するために設置された「成田空港問題円卓会議」を意識したのだろうが、似て非なるものの例えに、これほどふさわしいものはない。
 運輸省から完全に独立し、公平な人選の下で、シンポジウムも含めると足かけ三年もの歳月をかけて、ようやく調停にこぎつけた「成田」に対し、「長良川」は何の合意も得られないまま、わずかひと月半で打ち切られたのだから。
 米国では昨年、最大のダム建設機関だった開墾局のダニエル・ビアード総裁が、「ダム建設の時代は終わった」と表明した。米国もカリフォルニア州の連続干ばつや、一昨年のミシシッピ川の洪水に見られるように、決して水が余っているわけでも、治水対策が万全なわけでもない。
 ビアード氏によると、政策変化は「ダム建設は割に合わない」との世論が形成されたからだという。それは、徹底した情報公開の下で、環境コストを含めたダム建設の費用と便益についての議論が、国民の中で尽くされた結果である。
 米国では個々の事業ごとに、あらゆる市民に意見陳述の場が保証され、公聴会も必要なだけ開かれる。数百回に及ぶことも珍しくなく、出された結論に対しては訴訟も可能だ。その結果、節水などの代替手段の検討を含めたアセスメントが不十分だとして、裁判所が建設ストップをかけたダムの実例もある。
 日本の建設相に、「ダム建設の時代は終わった」と直ちに宣言しろとは言わない。だが、民主主義国家を自任するのであれば、無条件の情報公開と、真に公平な対話の場の設定くらいは最低限やるべきだ。長良川河口堰運用開始後も、根強い反対運動が続いているように、今の審議委では何の解決にもならないばかりか、一層の泥沼化を招くだけだろう。
<福岡総局・福岡賢正記者>
 
 
 
 
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