日本財団 図書館


こども読書推進賞
選考委員会委員長挨拶
 
 ヨーロッパ系の「文化」という言葉は、何れも「耕す」という言葉に関係がございます。自然の状態にある人間の心を耕して作物が出来るようにすること、それが文化、教養でございますが、文化の中で決定的なのが言葉、殊に優れた言葉を文字の形で残した古今東西の偉大な人たちの言葉でございます。その意味で読書は、子供にとって、子供を人間らしく奥行きのある人間に育てるために欠くべからざるものであります。近年読書ということが忘れられ、読書離れ、文字離れということが言われております。そういうことを考えまして、子供達に本を読んで貰う、そういう運動に対してこの財団は賞を差し上げることになりました。
 その中で富永小学校は、いま高月町という、市でもない、どちらかというと今では田舎と言ってもよろしい所かと思います。そこで過去において雨森芳州という偉大な学者が出ました。この人は朝鮮通信使が日本に来た時に通訳などを勤めておられまして、韓国語が出来たと思います。当時の学者として優れた漢学者でもある、そうでないと中国文明を崇拝する朝鮮通信使が雨森芳州を褒め称える、優れた学者だとする記録が残ることはあり得なかったと思います。この富永小学校の先輩に、こういう偉大な人がいるということは、やはり小さな町に生まれた子供達にとって、どんなにか励みになるかと思います。その雨森芳州という名前を利用して、子供達に本を読め、本を読む機会を広げようとした、この努力はやはり伝統、或いはその土地に根付いた環境から総ぐるみになって読書教育をするという意味で大変役に立つことだと思います。
 個人といたしましては、熊倉さんと言う方が、これは本を全部読まなくても良いという形で読書指導をされました。つまり、私達、物を、持っている物を、無駄なしに全部やろうとしますと非常に辛くなるのですが、読まなくても良いと言う読書指導、これは子供達にとって、面白いものを読めば良いのだ、本当に面白いもの、興味の持てるものは、他人に勧められなくても自分で積極的にいたします。面白いもの、気にいったものから読み始める、という読書指導の着眼点を私共は高く評価いたしました。
 もう一人田所さんという方は、東京から伊豆半島に行かれまして、その図書館が、自治体の図書館が、内容が貧しいことを憂えられまして、そして自分の個人の図書室を充実し、併せて自治体の図書館までも改善の手をさしのべようとした、この努力、熱意というものを私共、選考委員は高く評価いたしました。
 偶然ではございますけれども、学校、それから熱心な先生、それから一般社会の中の読書推進者、三つの分野から優れた方々を選び、賞を差し上げることが出来るようになったこと、私はその選考委員の一人といたしまして、大変嬉しく誇らかに思っております。どうぞこれからも、皆様方、読書のために、子供の読書のためにお力を貸して頂きたいと願っております。
2003年11月4日
 
 
記念写真
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION