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東京財団研究報告書2004-8 電子自治体における情報活用-地方自治体における介護情報を事例に-

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


第3章 スェーデン、ストックホルム市における介護サービスの現状と展望
 北欧の王国スウェーデンは「スェーデン・モデル」と呼ばれるようなスェーデン型高福祉国家を作り上げた国である。2003年1月現在、スェーデンの人口は、神奈川県と同規模の887万人。その首都、ストックホルム市の人口は約76万人、うち、65歳上の人口が11万4千人を占めており(ストックホルム都市圏では人口約170万人、うち65歳以上は23万2千人)、社会福祉の分野で働いている人は約4万人に達する11。スェーデンは、同時に、IT産業を抱えIT利用先進国としても知られている。米IDC(International Data Corporation)が2003年4月に発表した世界のIT先進国ランキングによると、スェーデンではネットを利用するためのインフラストラクチャや公共機関のデータなどを総合した「情報社会指数」(Information Society Index)が最も高かった(日本は12位)12
 本章では、まず、スェーデンの福祉体制とそれを支える基本的な考え方を概観する。そして、2003年12月に2週間かけて行った調査で明らかになった事項とともに、ITによる情報流構築の状況と現在に状況について詳述する。
 
 高齢者福祉に対する考え方としては、高齢者ができる限り地域で自律した生活を営むことができるようにすることに主眼が置かれ、そのために以下の5つの理念に基づいている13
(1)ノーマライゼーション(通常生活の継続):特殊な環境に閉じ込めてしまうのではなく、できるだけ通常の生活を送れるようにする。
(2)総合的視点:各人の福祉ニーズを心理的、身体的および社会的側面から総合的に把握して対処する。
(3)自己決定:各人は自分の生き方やものごとを自分で決める権利を有しており、その決定は尊重される。
(4)社会参加:社会にも良い影響を及ぼすことができるように社会に積極的に関与することが奨励される。
(5)積極的活動:各人が体力や能力、趣味に応じて積極的に有意義な社会活動をおこなうことが奨励される。
 コミューンの規模は約三万人程度(大きいコミューンは一区三万人程度に分割され管理されている:ストックホルム市では、現在十八区ある)で、計画・運営に独自性を発揮できる。その一方で、財源や権限を委譲されたコミューンは、同時に、予算を上手く活用して住民の満足度を得られる介護サービスを提供することに責任を持つのである。
 
 医療サービスや介護サービスを行うには、そのなかで大きな役割を担うアセスメント・マネージャ14に要介護者に関するさまざまな情報が必要になる。この節では、スェーデンにおいて介護情報の流れをどう管理されているのかを見ていく。
 
 全ての国民は十桁のパーソナル番号を持ち、口座を始め家や車などの個人資産等とリンクしており、公的な目的のために利用するのであれば基本的に利用に制限はない15。スェーデンの個人情報保護法(Personuppgiftslagen:1998年4月29日公布・1998年10月24日施行)は基本的要件を以下のように定めている(訳:菱木)16
 
{個人情報処理の基本的要件}
 
第10条 個人情報管理者は被記録者が自己の個人情報を処理することに対して同意を与えている場合、または次の各号に掲げる事由によって個人情報を処理する必要がある場合、被記録者の個人情報を処理することができる。
 
a 被記録者との契約を履行するためまたは被記録者から要求に基づいて契約が締結される前にその措置をすることが必要とされる場合
b 個人情報管理者がその法的義務を履行するために必要な場合
c 被記録者の重大な利益を保護するために必要とする場合
d 公共の利益から業務資料が作成される場合
e 個人情報管理者また個人情報の提供を受ける第三者が行政官庁との関係において業務資料作成のためその必要がある場合
f 個人情報を処理することが個人情報管理者または個人情報の提供を受ける者の法的利益が被記録者の人権の保護よりも重要な場合
 
 基本的には個人情報と言えどもその利用はオープンであるが、もちろん、業務上の秘密保持や病気の状況など、個人が知られたくないような事項に関しては保護される。見学した施設の一つは三つの機能を持っていたが(デイ・サービス、痴呆介護施設(グループホーム)、(ナーシングホーム)、スタッフの手配を機能別のセクションで管理することで、職員が二つ以上のセクションにまたがって仕事をすることがないようにしていた。そうすることで、病状などに関する情報の必要以上の流布を遮断しているそうである。それぞれのセクションの統括マネージャが施設の最高責任者に報告をすることで全体の情報管理が行なわれており、その最高責任者とアセスメント・マネージャが情報を共有することで、コミューンは個々の施設や介護サービスの実情を把握する。ホームへルパーに関しても同様である。
 介護サービスを利用できる範囲やサービスそれ自体に対する苦情申し立てはコミューンに届け出る。その情報はアセスメント・マネージャ間で共有され、迅速に対処がなされる。
 
 日本でケアマネージャにヒアリングをしたとき、この項目に対しては非常に不満が多かった。緊急の場合など、介護保険事業者リストを見ながら電話をかけてサービスや施設が利用可能であるかを探す作業は、施設に属していないケアマネージャにとって特に大きな負担になっている。スェーデンでのこの問題に対する対応は非常に明快であった。「公」と「民」の両方の立場の方たちにヒアリングしたが、結果は両方の回答がともに「施設管理者やサービス提供事業者にとって、部屋が空いているということや利用可能なサービスが提供されないということは、収益を生まず単価当たりのコストを押し上げる要因になる。そこで、サービスや施設に空きが出るとすぐに区のアセスメント・マネージャに連絡を取っている。空き情報はそこで一元管理されて、利用希望者に提供されている」というものであった。この情報開示にはホームページによる一覧表示などIT利用が検討されているが、実際はまだFAXが用いられているそうである。
 また、非常に興味深いことに、個人による施設やサービスの「空き情報」への問い合わせには応じないとのことであった。それらの電話への対応に時間を取られてしまうし、なにより「公平性」を考えて、アセスメント・マネージャからの要請によってのみ対応を行う。さらに、緊急な事態に対応する施設は別に設けられており、二、三日の緊急預かりに関しては常に対応可能な状態になっている。そのために、アセスメント・マネージャが必ず緊急TELに応答する。
 以上のように、介護サービス利用に対する需要と供給情報がアセスメント・マネージャに集約され、一元管理されるようになっている。
 
 医療機関から出される医薬品に関しては、すでにオンラインが構築されており、スェーデン国内のどこの薬局にいっても十桁のパーソナル番号が記載されたカードを示せば、そこで医薬品を受け取ることができる17。すなわち、薬の処方箋はコンピュータネットワークで一元管理されており、Web上の個人ファイルに一定期間保存される。ただ、モルヒネなどの常習性を引き起こす薬品と過去にアレルギーを引き起こした薬品の利用状況(どこの薬局でどのくらい購入したという情報)は年次を超えて保存され、一定以上の利用があればコンピュータの画面に警告が出るシステムになっている。医薬品の危険情報などもすぐにこのネットワークを使って薬局の薬剤師に周知される。
 
 介護施設や介護サービスの空き情報の連絡などにはまだFAXが利用されているが、Web Care構築の準備が進められており、2003年12月現在、介護記録や助成金の申請などもすべて電子ファイルで保存されている。また、カルテはもともと全面的に患者に開示されている19。ストックホルム市では五つの病院があり、ここの電子化も既に終了している。後はデータベースをネットワークでつなぐだけである。これが実際に稼動すると、医療データと介護データそれに医薬品のデータがパーソナル番号によって名寄せされ、個人のファイルに記録される。最初は病院のみ二十四時間、他のセクションからは月曜日から金曜日までの午前七時から午後七時までの時間で利用可能し、いずれはどこのセクションからも二十四時間アクセスできるようにする予定である。認証にはVPN(Virtual Private Network)を利用する。アクセス可能なのは、(1)本人、(2)医療関係者(医師や看護士)、(3)アセスメント・マネージャその他、公的機関が想定されている(図表3-2)。
 
図表3-2 Web Care の概念図
注)それぞれの機関で保有されているA氏の情報のなかで、相手が必要な情報のみが送信される。筆者作成。
 
 例えば、ストックホルム市の Vantör 区では管轄に約3万5千人の人が住んでおり、そのなかで6,700人が六十五歳以上の高齢者、そして1,200人が何らかの介護を必要としている。その人たちのアセスメント・マネージャは九名いて、その上に一人統括責任者がいる。アセスメント・マネージャによって介護サービスの条件や基準、対処が異なる事態が生じないように、週に二度ミーティングを開いて情報の共有を行う。その際に、特に判断が難しいケースについては、国やコミューン、区の方針を確認したり、財政枠に応じて判断を下したりしている。
 
 上述したように、スェーデンでは、介護に関する情報がアセスメント・マネージャに集中するように情報流が構築されており、(1)要介護度の認定、(2)介護サービスや施設を利用などに関して強い権限を持っている。また、初期医療に関しては、県からコミューンに権限が移管されて看護士が治療方針を決めることが可能になり、その助手としてナース・エイドの資格も創設された。その結果、現場に近い医療関係者による迅速ながらコストの安いケアの体制が整えられた。この初期医療情報もアセスメント・マネージャのもとに集約される。医薬品情報はもうすでに病院と薬局間で情報流が構築されていたが、Web Careが正式に稼動を始めると、医療情報、介護情報それに医薬品のITによる一元管理が可能になる。
 こうした、一連の経過を見ていくと、スェーデンの改革は、BPRを行いながらIT化を推進していることが分かる。すなわち、既存の業務プロセスや情報流に沿ってITを導入するのではなく、これまでのビジネスプロセスを根本から見直し、可能な限りの合理化を進めたうえでITを効果的に導入しつつある。また、介護サービスに必要な個人情報の利用に関しても、アクセスログなどの情報開示と利用のメリットを具体的に提示することによって、国民の理解を得ている。こうした事実は、日本にとって示唆的である。
 

11 『Stockholm Data Guide 2003』 Office of Research and Statistics より引用
12 スェーデンの評価が高かったのは、(1)携帯電話普及率が74%で1位、(2)2Mbpsのブロードバンドサービスの月額が93ドルで1番安く、かつブロードバンドの世帯普及率が13.8%で1位、(3)起業コストも最低、(4)電話料金が欧州で最低、(5)電子政府化が欧州トップクラス、(6)ベンチャーキャピタル成長率が1位などの理由によるものである。
13 この5つの理念は以下に基づいている。丸尾直美・塩野谷祐一編(1992). p255
14 アセスメント・マネージャは、コミューンをいくつかに分割した規模の担当地区毎に配置され、そこで働くケアマネージャを統括する役割を果たす市の職員である
15 ヒアリングの際に、一番文化的な差異を感じたのがこの項目である。
16 専修大学の菱木昭八朗先生がスェーデンの法律を日本語に翻訳されているサイト
17 1970年に医薬品の小売に関する法律が制定され、医薬品は公的機関によって小売されることが決まった。そして翌71年に医薬品供給公社が設立され、すべての薬局は公社によって買収され公営となった。同時に、薬局所有者は勤務薬剤師(公務員)となった。
18 市のIT政策担当者は、「2004年1月からの実施」であると胸を張ったが、介護サービスの現場で聞いてみると「準備は進めているけれど、2003年12月第2週の時点で何の連絡もない」ということであった。本当にこの日程でWeb Careの利用が開始されるのかは疑問があるが、市の方に後日資料を郵送してくれるようお願いして快諾をいただいたので、もうしばらくすると事実が判明するであろう。
19 医師は患者本人だけにカルテを公開することができ、本人の承諾なしに他の誰にも、例え患者の家族に公開することはできない。但し、介護サービス提供の際に必要な、病歴や医薬品情報などはアセスメント・マネージャと現場の介護従事者に提供される。







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