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東京財団研究報告書2004-6 日本の近未来ビジョンと初等教育改革

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


7. 諸富祥彦
明治大学文学部助教授
 
(2003年7月9日研究会実施)
 
□講師のお話
◎忙しくなった学校の教師
 
 私は、「教師を支える会」という会を作って先生方の支援活動をやっています。それで、いろいろな問題を抱えた学校を年間に30校から40校くらい、九州から北海道まで参ります。そして、この会のメンバーがいま200人ぐらいおります。教師とか、カウンセラーとかですが、そういった方々が、先生方の悩みのサポートをしています。また、月に1回、東京の神楽坂で先生方のグループカウンセリングもやっています。
 今日は最初に、いま学校の先生方がどういうことで悩んでいるのかということをお話したいと思います。
 まず、その前提として教師の皆さんがおっしゃるのは、忙しいということです。特に、昨年から忙しくなったといいます。それには3つの要因があります。
 1つ目は、週5日制になったということですね。世間の方は、週5日制になると、教師の休みが増え、暇になったではないか、と思いがちです。しかし、学校の先生方は相当忙しくなっています。それは、当然のことです。いままで6日間でやっていたことを5日間でやるわけですから、ウイークデイの帰宅時間が遅くなっているわけです。それで、例えば、気になっている子供と話す暇がないというようなことにもなっているのです。
 また、土曜日というのは、別のいろいろな仕事をこなさないといけない。日本の学校は、絶えず行事がありますから、その準備もしておかなければいけないのです。
 それに、文部科学省の政策で、少人数学級を実現させようというのがあります。それで、例えば、数学のクラスだったら、よくできる子と、ちょっと補習が必要な子と2つに分けてやるというようなことをやっていくのです。そうすると先生方の空き時間がほとんどなくなってくるということなんです。
 2つ目は、絶対評価を入れてしまったことです。この絶対評価というのが、保護者から評判がよくない。うちの子は去年まで相対評価ではかなりいい点数をもらっていたのに、絶対評価ではいきなり下がってしまった。急に点数が下がって、自信を失っていると。それでも、先生方が自分たちで基準を定めなければいけませんし、保護者のクレームにも対応しなければいけない。つまり、やるべき新しい工夫を必要とすることが、増えたということです。
 3つ目は書類が増えた。特に東京の場合、何が増えたかといいますと、人事考課です。自分で絶対評価をして、自己申告表を出さないといけない。また、クレームがきたときなどの対応にしても、書類の作成の必要などもでてきているわけです。ですから、以前に比べて書類がものすごく多くなったということがあります。
 それで、こうした忙しい状況の中で、荒れている中学校の先生方などは、もうほんとうにせっぱ詰まった状態です。
 私は、そういう中学校の先生方の悩み相談もやっていまして、「どうしたんですか?」と聞きますと、「今日もまた、仲間が1人減りました。階段を歩いていたら突き飛ばされて、骨折した子が出たんです。これでもう2人目です。私も学校の中を安心して歩けない」というのです。ですから、「少しでも空いた時間があれば、ひたすら学校内を徘徊して、そういった子供に対応するといいましょうか、構えなければいけない」というのです。実際、こうした現状があるのです。
 こういった学校の先生方は、もうふらふらです。半分以上はうつ病だなというのが分かります。半分以上うつ病患者が集まっている職員室、そういった学校はどうなるかというと、荒れた子供たちに対抗する力がどんどんやせ細っていって、行くところまでいってしまうという感じになります。
 
◎教師が抱える3つの悩み
 
 では、こうした現状の中で、一般の教師が何に悩んでいるのかというと、大きく分けて3つあります。1つ目が、子供との関係です。これは、よくいわれる学級崩壊と、最近いわれているADHD(注意欠陥多動性障害)ですね。ADHDは、脳に微細な障害があるお子さんの問題です。
 2つ目が、これも人間関係の問題なんですが、「困った親との付き合い方」です。ここ2、3年すごく増えたような感じがします。
 3つ目が、同僚や管理職との関係の問題なのですが、じつは、この問題がいちばん深刻な問題です。例えば、学級崩壊したときに、管理職から、「あんた、能力ないんじゃないの」とか、同じ学年の仲間から、「足を引っ張られて、困っているのよ」というふうなことをいわれると、ガクッといってしまうことが多いというのが現実なわけです。子供に振り回されるとか、困った親がいるということで教師を辞めようということにまでなる先生は少ないですね。
 それで、1つ目ですが、特に小学校では、ADHDの問題がすごくクローズアップされています。注意欠陥多動性障害ですが、平たくいうと、しっかり集中できないんですね。ひどい子供になると、15分以上席に座っていることができないのです。
 それから、例えば、「おい、こら」などといわれたら、それが「おーい、こらぁー」と、大きな強い語調に聞こえるわけです。学習障害も伴っていますから、ほんとうにそう聞こえているんです。だから、先生の怒鳴り声でパニックになってしまうのです。また、被害者意識が強いのです。少しでもちょっかいを出されたり、からかわれたりすると、「仕返ししてやる」と一日中ずっと言って、実際、手を出したりして、他のお子さんに危害が及んでいます。
 それに、性的な事柄に興味を持っていて、性的ないたずらをしたりという子供もいます。この子供たちを追いつめるとどうなるかというと、ベランダに出て「死んでやるー」と、いうんです。こういった子供たちに学校中が振り回されているという小学校の現状もあります。
 アメリカなどでは、そういった子供たちを集めて、その子供たちのための教育をやるわけですが、日本はいわゆる平等思想が強いですから、特殊クラスに入れるのを極力嫌う風潮があります。しかし、そういった子供たちと普通の子供たちを一緒に指導するということは、原理が違いますから、小学校の先生は大変なんですね。
 ですから、心ある地域では、そういった子供たちがいるとしても、補助教員を付けているのです。しかし、固い地域、つまり文部科学省が決めたこと以外まったくやらない地域では、そういった補助は一切やっていません。そうなると、担任が1人で右往左往することになるわけです。普通学級に、学習障害とADHDを合わせると4〜6%います。その中で手強い子が2人くらいいると、もう大変なことになります。
 それから、ついでに申しあげておきますが、こうした子供たちだけではなくて、先生を完全になめきっている子供もいます。親御さんの特徴としては、子供に甘く、夕方のニュースワイドショーなどで、教師はとんでもない奴が多いという話題をやっていると喜んで見たりする。全部学校の先生のせいにしていれば、お母様方の気持は楽ですから。それで、親が先生の悪口をいっていると、子供としては「先生って、ろくな人間じゃないんだ」ということで、先生のいうことをますます聞かなくなっていくのです。
 
◎そもそも教師に対する尊敬の気持がない
 
 2つ目の困った親の問題ですが、これは、パーセンテージで見るとそんなに多くないんです。クラスで2、3人困った親がいます。簡単にいえば、先生に対する尊敬の気持がまったくない、それで常識がないともいえるわけです。
 例えば、子供さんのことではなくて、自分の家で何かあったら担任の先生に電話をかけて、「うちの女房に洗濯物の干し方を教えてやってくれ」(笑)というようなことを頼んだりする親御さんもいたりするのです。
 それから、これほどではないにしても、自分の子供の問題で、「先生、ちょっと申しあげたいことがあるんですけど」と、最初からこういった調子で先生のところにやってくる。これは、自分の子供が世話になっている先生に対する親の物の言い方ではないですね。しかし、こういった親はかなりいるのです。先生方には生真面目な方が多いですから、クレーム処理が上手くできない。真面目に説得しようとすると、クレームを付けてくる親は、何で分かってくれないんだと、さらにクレームを付けたくなります。それが分からずに、ひたすら内容の説明で対応するので、さらに関係がこじれてくるわけです。
 それから、親がうるさい地域というと、メールがすごいですね。教頭先生に対して、例えば、「昨日うちの子供が担任からこういうことをいわれたそうだが、なぜこういう乱暴な発言をしたのか、理由を明日までに答えなさい」みたいな、そういったメールがかなりきます。教頭先生は、内容についてまず担任に聞き、返答の文章を考え、校長にお伺いをたてて、これで完璧という答えをメールで返信する。苦情処理が、教頭先生の仕事でいちばん大きな時間とエネルギーを取られてしまうということなのです。
 
◎教師も上司と同僚の支えが必要
 
 3つ目は、対校長、対同僚の問題です。この前、ある先生の話を聞いて気の毒になりました。その先生が、悪いことをした子供を厳しく叱ったわけです。そうしたら、その子供が見かけよりももろくて、不登校になってしまったのです。後日、暴力団風の親父さんが学校に乗り込んできて、「先生、やってくれたじゃねえかよ。どうしてくれるんだよ」と、もってきた刃物をちらつかせ凄んだというのです。
 それでその日は何とか事なきを得たのですが、後が心配で校長先生に報告して相談したわけです。先生は校長先生から、てっきり、「今度乗り込んできたら、私が一緒に会おう」といってもらえるものと思ったら、「君も大変だねぇ。しっかりやってくれよ」(笑)と、すっと逃げられてしまって、ほんとうにガクッときて、精神障害で休職です。
 じつは、こういうパターンの先生の不登校が多いのです。背景には、校長先生が部下である先生たちを守ってくれない、ということがあります。たしかに、親分肌の校長先生がいなくなったというふうにいわれます。
 それから、先生方は、結構、子供時代から優等生でやってきた方が多いので、先程のいじめの問題でも、ある人がへまをやったりすると、その人に冷たく当たる先生がわりと多く、へまをやった先生はどんどん追い込まれていくという傾向があります。
 逆の事例もあります。親御さんが結構うるさい地域で、学校は荒れていました。そこの学級崩壊しているクラスに私は呼ばれて、相談を受けたことがあります。そのときでも、先生はいつものように物を投げられたり、足をひっかけられたり、「ババア」といわれたり、「死ね」と黒板に書かれたりするわけです。これは、学級崩壊しているところではよくあることなんですが、それにも拘らず、先生の雰囲気には何か笑顔があるんです。ひどいことが起こっていても笑顔で職員研修ができる。こういう学校はだいたい立ち直っていきます。先生同士の結びつきが強い。それで、職員室にはほっとできる雰囲気がある。へまをやった人間を排除しようという雰囲気ではないのです。
 私が、「なんかいいですね、この雰囲気は」といいましたら、その先生は、「いや、そうですよね。じつは私は、3カ月前までは教師を辞めようと思っていました。子供が好きで教師になったのに、これだけやられて、さすがに子供に対して可愛いという感情は生まれてこなくなりました。辞めようと思ったのですが、仲間の先生たちに支えられて、何とか続けられています」と。校長先生は、「うちの学校は研究指定を受けるとか、そんな高い目標はもたないことにしています。うちの学校の目標は、1人の教員も休職、退職、精神疾患にならないことです。レベルを低く設定しています」とおっしゃっていて、私はいいなと思うんです。
 帰りに教頭先生が駅まで送って下さったのですが、その教頭先生が教頭になる前に、学級崩壊を経験しているのです。「さっきのような手強い子が2、3人いたら、誰でも崩壊しますよ。崩壊してもしょうがない」と。それに、あの地域の受験率は高いですから、親御さんが「あんたのせいでうちの子供が受験に落ちたらどうしてくれるんだ」ってものすごい剣幕で、毎日のように押しかけてこられて、それでもう追いつめられるそうです。
 教頭先生の場合、そうしたとき、校長先生を始め先生方が支えてくれ、教師を辞めなくて済んだんですね。何とか続けることができ、管理職にもなれた。いま部下に対しては、「まともにやっていたら、精神疾患にならないほうがおかしい。全然恥ずかしくない、みんなで支え合っていこう」と、口を酸っぱくしていっているそうです。素晴らしいと思いました。
 特に、校長、教頭が大変だと思うのは、いま管理職者も部下から評価されるのです。先生の中には不満分子がいたり、人権意識が極めて強かったりしますし、学校選択制で選ばれる側にも立っています。それで子供の数が減っていますから、選択する親が少なかったら自分の学校がなくなってしまうのです。つまり、絶えず倒産の危機に直面している会社を任されている社長みたいなものです。最近、東京の校長先生はピクピク震えているんです。昔は、校長先生というのはゆったり構えていたものです。







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