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◎子供たちに自信と誇りを与える教育を
 
 今回、ろう児を授かったことで、幼少時期のコミュニケーションの大切さというのを私は痛感しました。やはり親としては第2言語の日本手話を覚えて、その覚えた言葉で子供とコミュニケーションをする。また、子供のためには言語の環境を整えることが必要で、ちゃんとした日本手話を話すろう者のいる環境のところに子供を連れていくことが大切な役割だと思うのです。ですから龍の子学園にはほんとうに大切な場所になっています。
 それから、成人のろう者は、「この子、ろう」っていうと、もうそれだけで認めてくれて受け入れてくれます。世界的にそうなんでしょうけれど、私が今まで感じたこともないような暖かい人々、そういったコミュニティがあります。わが家にろうの子供が生まれて、はじめはどうしようかと思いましたが、いまでは、楽しく子育てをしていますし、この先が本当に楽しみです。
 私は、子供たちが、日本人として、ろう者として誇りをもって生きていけるような環境を、大人は整えていかなくてはいけないと思っています。「あれはダメ、これはダメ」ではなくて、子供たちが自分から何かをする、そうしたところを幼少のときから経験させるような環境を整えていくことが必要だと思うのです。それぞれの子供にそれぞれの個性がありますので、彼らの得意分野を、彼らの好きで得意なことを伸ばすような環境を準備することが大切です。
 私はNTTデータのサラリーマンで、プロジェクト管理の仕事をやっていますが、やはり、チームの連携というものがどうしても必要で重要なわけです。それで感じますのは、自分の得意分野をもった人間が集まってひとつのものをアライアンスを組んでやると、非常にいいものが早くできるということなんです。つまり、やっている方も達成感があり良いものができるのです。
 ですから、そうした意味でも、先ほど映像ですごく絵がうまい子供が出ていましたが、ああいう子供の可能性を潰さないように、幼少のときから得意なところを伸ばす機会を与えるのが大事なことだろうと思います。
 
◎ろう学校に関するいくつかのデータ
 
 最後に、ご参考までにいくつかのデータを紹介しておきます。
 まず、ろう学校の先生1人当たりの生徒数は、いま全国レベルで約1.37人です。先生1人で約1.37人しか子供を面倒見ていないんですね。普通の小学校は、約17.64人です。ちなみに、アメリカのバイリンガルろう教育であれば約7人くらいのようです。
 それから、教員の平均年齢が約42.5歳で、教育費に占める内容の割合ですが、人件費が約80.5%を占めています。驚きますのは、特殊教育学校で生徒1人当たり年間約1千万円かかっています。普通の小学校の場合ですと約90万円ですね。ですから特殊教育ですと、幼稚園から高校まで生徒1人にかかる教育費は、約1億4千万円ということになります。
 それに、いまの状態ですと、口話もしっかりとできないし、学校を出たからといって読み書きもそんなにうまくできない状態になってしまっていますので、そうなると職に就けませんから、障害年金を払う形になります。そうしますと、80歳まで生きたとして、1年間約100万円で、60年で6千万円。教育費と合計して約2億円が1人当たり必要になります。
 ですから、少なくとも龍の子学園では、仮に補助金をもらったとしても、アメリカのバイリンガルろう教育を目標にして、こんなにお金をかけずに学校運営をしていこうと思っています。
 また、私の子供は龍の子学園に通いながら、ろう学校に籍だけは置いてあります。それで1年間に約1千万円、ろう学校へ払われているという状態になっていて、龍の子学園には一銭も入らないという仕組みになってしまっているのです。やはり、ここはなんとかしたいと思っています。
 
□質疑応答
 北矢 最後の話ですが、ろうの子供たちは、基本的にはろう学校に籍を置いて通っている人がほとんどだということですね。それで龍の子学園に来ている子供たちは、籍だけろう学校に置いて龍の子で勉強をしていると?
 玉田 そうです。不登校児も同じなんですが、籍は置くような形になっています。龍の子学園もいまはフリースクールという位置づけなので、籍を抜いてしまうと親が義務教育をさせてないということをいわれてしまう次第です。
 北矢 そうすると、まだ日本では、小学校から入って小さい頃から手話を母語として日本語を学び、成人した人っていないわけで、口話を無理矢理ろう学校で学ばされた、そういう人しかいないということですか。
 長谷部 そうです。まだろう学校が最初にできた明治の頃は、いまとは逆に、教育方法が確立していなかったので、ろうの人がろうの子供に教えるという形だったのです。それで、その当時のろうの学校の先生たちには、随分と読み書きもしっかりしていた方々がおられたんです。ところが、公教育が確立されてからは、ろうの人が先生になることは、まず難しくなってしまって、レベルがずいぶん落ちてしまったのです。昔はかなりレベルの高い教育がされていたということですね。
 北矢 普通の世界に入っていくことを前提に考えた。だから、普通の人がしゃべっている口で理解できなければ、社会人になれないぞ、というようなことでやってきたんでしょう。
 大島 手話の素晴らしさみたいなことを見抜けなかった。しかし、文部科学省の中では牢固としてそういう価値観なんでしょ? だから変わらないんでしょうね、たぶん。
 長谷部 基本的に文部科学省は、「手話を使え」とか「手話を使ってはいけない」ということをはっきりとはいっていないのです。「手話を使うのは慎重な態度で」というぐらいの答申しか出していません。
 北矢 ろう学校の先生というのは、どういう資格がいるんですか。
 玉田 大学で教員免許を取ります。
 北矢 例えば大学の教育学部のろう課程とか、そういうような課程で?
 玉田 はい。ところが、その中に手話の授業はないんですよ。大体、ろうの教員免許を与える学校が10数校しかなく、その中での授業というのが、聴こえない子供はどういう特徴をもっているかとか、口話法というようなことで、まったく手話についてとか、バイリンガルというようなことを講義でやっているところはないんです。
 日下 昔のろう学校は何をしていたんですか、読唇術をやっていたんですか。
 長谷部 昔はですね、ろうの先生が教えていましたので、授業をするときには手話で話をしていて、書くときは文字で書くという学校がいくつかあったんです。
 日下 いまは、唇を読めということですか。
 長谷部 そうです。玉田さんのお子さんは、ジェット機がこの辺を飛んでいてもあまり聴こえない。ちょっと感じるぐらいなんですが、そうした子供たちに、いまのろう学校の先生は大きな口を開けて、ゆっくり「おーはーよーうー!」というのを聴き取らせるという訓練をしているんです。物理的にとても不可能な授業なんです。
 日下 それから、耳が聴こえない人でもしゃべれる人はいるんでしょ?「あ」とか「う」ではなくて、「あいうえお」にさせる訓練もあるんでしょ?
 長谷部 はい、そうです。それは、小さいときからお母さんが、もうほんとうに一生懸命必死に訓練をして話をさせていくのですが、きれいな声で話す人はほんの数%なんですね。ところが、テレビとかメディアではそういう人が取り上げられますので、たくさんいると思われるのです。ほんとに少しなんですよ。
 大島 しかし、思い込みって恐ろしいっていうことがわかりますね。それがたまたま行政ということを通じてやるから、金額もバカでかい形でシステムについて動いてしまう。いまのお話を聞いていると、絶句しますね。







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