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東京財団研究報告書2004-6 日本の近未来ビジョンと初等教育改革

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


9. 具体的方策その4「学校システムの抜本的な変革」
 130年前、京都では、たった1年間で64もの小学校が一挙にできている。それも、明治政府の動きよりも早く、明治5年の学校令制定の発布より3年前の明治2年(1869年)のことである。
 これらの小学校は、京都の町衆が、官の補助金を一切もらわず競い合って自分たちで作ったものである。さらに驚くことに、教員の給与など維持管理運営経費を捻出するために、町衆が出資して「小学校会社」も設立している。
 この会社は、預金、貸し付けを行う金融会社で、利潤を学校の運営にあてた非営利の会社であった。この近代的な小学校を見て、福沢諭吉は、「この学校を見て感ぜざるものは報国の心なき人というべきなり」と感動したという。また、彼は、そこでいきいきと学ぶ子供たちを見て「一身一家の独立を謀り、遂に一国を独立せしむる者も此子女ならん」と讃えたという。
 当時、京都は、東京遷都で、たった数年で人口が35万人から25万人へと10万人も激減していた。将来に対する市民の恐怖と不安が支配する危機的状況の中で、町衆は、京都の未来を子弟教育に賭けたのである。
 130年たったいま、わが国は、機能不全化した中央集権社会を脱構築し、新しい地域主権社会を創出していく必要に迫られている。かつての京都の町衆同様、再び、われわれは、未来を子弟教育に賭けなければならなくなったのである。
 そのために必要となる抜本的な制度やシステムの変更を中央集権の権化といってよい文科省主導でやれる訳がない。われわれは、かっての京都の町衆のように、以下に述べるような改革を自前でやり遂げる決意をもたねばならないだろう。
 
(1)多様な学校群から地域社会を構成していくこと
 先ず第一に、初等教育に携わる学校は、既存の公立、私立の小学校だという常識を壊すことからスタートしなくてはならない。事例で取り上げた東京シュタイナーシューレのような学校が、他の先進国ではいずれも正規の学校として認められているのに、この国ではいまだ認知されていないというのは恥ずかしい話である。
 これからは、受験塾、私塾、寺子屋など初等教育に係わるあらゆる組織が多様な学校群として地域社会に存在することを認め、子供の適性と進路に合わせ自由に学校が選択できるようにする必要がある。組織の形態は、NPOでも株式会社でも構わない。
 このような多様化に反対し、文科省が、既存の学校を中心としたシステムを維持しようとしても、グローバル化のもとで内外一体化が進んだ現在、もはや不可能である。それは、アットマーク・インターハイスクールの事例から明らかである。
 例えば、公教育の資格を取れない東京シュタイナーシューレに子供を通わせ、中学校卒業の資格がなくても入学できるアットマーク・ラーニングハイスクールを卒業し、シアトルの高校卒業の資格が取れるからである。
 そうなれば、アメリカの大学には当然進学可能だし、日本でも、帰国子女の受け入れを重視する慶応大学の藤沢キャンパスのような一部大学に進学可能だからである。不登校児のために作られた高校が、最短1年半で、しかもインターネットを使った通信教育で卒業できるという融通無碍な仕組みによって、エリートの高校生にとっても適合的なシステムになっている。
 親の責任において、家庭教師をつけ学校に行かせなくても、アメリカの学校で学ばせても、不登校のまま国内の私塾に遊学させても、最後にアットマーク・インターハイスクールに入り卒業すれば、既存の学校システムに関わらなくても済むのである。
 とりわけ、このシステムがエリートにとって適合的であるだけに、既存の学校システムに与える衝撃は、今後さらに強まるだろう。こうして、文科省は、実質的に初等教育に関する統制を失っていくのである。
 8百万人に及ぶ団塊世代が地域社会に戻ってくるようになると、高校レベルのアットマーク・インターハイスクールに相当する起爆力をもった個性豊かな現代の寺子屋や私塾が今後、各地に大量に誕生し、初等教育の新しいインフラとして機能することになるだろう。
 前述した京都の町衆の手による小学校づくりも、江戸後期に大量(全国約1万箇所)に存在した寺子屋の存在に支えられている。17世紀から19世紀にかけて、寺子屋は日本の庶民の初等教育のインフラだったのであり幕末時の平仮名の識字率は江戸で八割、全国でも五割前後に到達していたという。それが近代国家形成の基盤になったのである。
 庶民は6、7歳から15歳頃まで医者、浪人、僧侶などが自宅を開放して開く近所の寺子屋に通い、「読み、書き、ソロバン」を学んだ。寺子屋は入退学の時期も登下校の時間も決まっていない子供中心のフリースクールだったらしい。
 かっての寺子屋が、明治維新以降の近代日本を形成していく上での教育インフラとして機能したように、21世紀の地域主権社会の教育インフラとして市民の手による現代版寺子屋が、日本全国、津々浦々に創られていく必要があるだろう。
 その主役になるのが、団塊の世代だと思われる。彼らは、学生時代、民主化の旗手として活動しながら、企業に入ると、会社人間へと過剰適応した世代であり、自分の人生に忸怩たる気持をもっている人も多い。自分が果たせなかった夢を子供にたくし、最後の人生を全うする場が、現代の私塾としての寺子屋なのである。
 文科省の調査(2000年度)によれば、小学生の3分の1は、塾に通っているといわれている。現代の寺子屋は、多様な領域にまたがり、様々な形態をとるが、最終的な狙いは、自分たちの孫を塾(偏差値教育の修羅場)から取り返し、慈しみ、鍛え上げ、志を涵養することにある。
 寺子屋=塾のタイプとしては、農業体験の自然塾、アントレプレナー養成をめざす起業塾、サイエンスをわかり易く教える科学塾、道具を使った工芸塾、習い事の稽古塾、地域の遊びを伝承する遊び塾、赤ペン指導をする作文塾、サッカーや野球などを教えるスポーツ塾、韓国語やロシア語などを教える語学塾など多種多様なものが出現するだろう。
 
(2)教員の多様化を図ること
 多様な学校が存在する21世紀には、先生もまた、多様化することになる。教員免許を取得し、大学を卒業したら、すぐに先生と呼ばれ、学校しか知らない人だけが先生をやれるという現状は不自然極まりない。
 また、年齢の偏りも問題である。現在、小学校教師の平均年齢は、43.4歳と高齢化が進んでおり、年配の女性教師の場合、遊び盛りの子供の相手をする体力に自身をもてない人も数多い。
 これからは、世の中のことを熟知している多様な職業の経験者、年齢階層の人が、学校と関われる仕組みに変えていく必要がある。例えば、朝日新聞主催の小柴昌俊さんノーベル賞座談会で江崎玲於奈氏は、「大学院の学生、助手といった人たちが小中学校で教えるようなことをしてはどうか。比較的若い人の方が子供になじみやすい。サイエンスが好きな人が、そのスピリットや探究心を教えれば、子供たちも興味をもってくれる」と指摘している。
 この考え方を敷衍すれば、小学校の先生はこれまでのように、あらゆる授業科目を1人で教えるプロフェッショナルとして位置づけるよりも、適切な授業を実現するコーディネーターやディレクター兼任のプレーヤーとして位置づけた方が良いのではないだろうか。前述した新しい「読み、書き、話す、算盤」のところで指摘したように、これから各界のプロを導入した本格的な授業が必要になるからである。
 当面、このような試みの突破口になるのは、ゆとり教育の一環として始まった小学校3年以上の各学年で、毎週3〜4時間ある総合的な学習の時間である。新学習指導要項によれば、「各学校は、地域や学校、生徒の実態に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等にもとづく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする」と書かれている。
 その上で、総合的な学習の狙いとして、(1)自ら課題を見つけ、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること(2)学び方やものの考え方を身につけ、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己のあり方、生き方を考えることができることの2点を挙げている。
 このように、授業で行わなければならない内容は極めて抽象的で、しかも広い。そのための特定の教材やテキストも一切ない。そのため、現場の教師は、週3回の授業をどうしてクリアしていけばよいのか、大いに頭を悩ましている。
 とりわけ、足立区のように、子供たちの授業評価と、管理職による教師の人事考課制度の存在する現場では、悩みはより深刻になる。現在、この2つは直接連動しているわけではないが、人事考課の5段階評価が、給与と人事に反映される教師の立場では、うかうかしておれないというのが実情だろう。
 ここが突破口になる。先生方の間に、子供たちが最も高い関心と興味を抱く総合学習の授業で、高い評価を得たいという動機がはたらくから、たとえ、外の人たちの力を借りてでも良い授業をしたいと思うようになるからである。こうして、自分たちだけが授業をする権利をもつという日教組と先生方の排他的な利権ビジネスが、崩壊していくことになる。
 例えば、某バイオメーカーの技術者たちがサイエンスのデモ授業をボランティアでやろうとしているが、いまのところ、学校では実績がないという。というのは、社員である彼らが休日しか出前授業に出向けないことから、先生方がそれを受け入れないからだという。
 ものづくりを重視するメーカーとしては、子供たちに科学的なマインドをもってもらうために、このような社員のボランティア活動を積極的に推進し、総合学習へ出前させる取り組みを活発化させるべきだと思われる。場合によっては、経団連や、経済同友会が音頭をとって推進すべき課題だともいえるだろう。学校や先生側も、当面、月1、2度ならば土曜日にこのような出前授業を実験的に受け入れ、その有効性や、共同授業の可能性などについて、検討を始めるべきだろう。
 また、総合学習は、地域社会との結びつきを強め、地域ぐるみの教育を展開していく絶好の場面にもなる。例えば、地域の伝統工芸の担い手である職人を招き、生徒に技術指導してもらうこともできるし、商店街とタイアップし、経営学を学ばせる時間にもなる。もちろん、老人ホームにでかけ、高齢者のケアを学ばせるのも良い。
 こうして、総合学習を突破口にすれば、正規の教員免許をもたない、様々なジャンルのプロフェッショナルの人たちを学校に関わらせる教育改革の担い手に仕立てあげることができるのである。
 このような地域主導型の教育展開を可能にしていくためには、権限を地元市町村の教育委員会にうつし、委員の公選を制度化していく必要があると思われる。
 小中学校の教職員の採用や人事権を都道府県から市町村にうつし、学校運営に関する予算編成権を地元の教育委員会にうつすのである。このような制度的な取り組みによって、初めて、地域主権社会に相応しい街ぐるみ、地域ぐるみの初等教育が可能になっていくのである。







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