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(8)障害児教育関連科目の設定状況に対する考え
 表3-10は、各大学の教職科目における障害児教育関連科目の設定状況に対する考えに関して回答のあった233大学について、「単独科目有り」、「一部で有り」、「全く無し」という大学別に示したものである。また、表3-11は、その理由についての自由記述をまとめたものである。
 「単独科目有り」、「一部で有り」、「全く無し」の順に満足度が高くなっているが、これは当然の結果といえよう。ただし、全体的にみると、過半数の大学が、「大変満足」「ある程度満足」と回答しており、これまで指摘した問題点に対する認識が乏しいことが伺われた。特に、「全く無し」の大学であるにもかかわらず、4割近くの大学が、「満足」と回答していた。その理由についての自由記述をみてみると、「カリキュラムが過密であり、これ以上内容を増やすのは不可能であるから」、「介護等体験を実施しているから」「担当者がおらずまた非常勤を雇う予算がないから」という理由で現状で満足とするものが多くみられた。また、「教職科目については法的な最低限度の科目、時間数しか設けられない」といった記述に代表されるように、これらの大学では、教職科目において、障害児教育に関する内容を取扱うことが必修化されているという認識が希薄であることが伺われた。
 
表3-10 教職科目における障害児教育関連科目の設定状況に対する考え
  大変満足 ある程度満足 多少不満 大変不満
単独科目有り 3 (5.5) 35 (63.6) 14 (25.5) 3 (5.5) 55 (100.0)
一部で扱う科目有り 6 (4.7) 57 (44.9) 51 (40.2) 13 (10.2) 127 (100.0)
全く無し 1 (2.0) 19 (37.3) 24 (47.1) 7 (13.7) 51 (100.0)
10 (4.3) 111 (47.6) 89 (38.2) 23 (9.9) 233 (100.0)
 
表3-11 「満足」、「不満」の理由
a)単独科目有りの大学の「大変満足」「ある程度満足」の理由
[開講が重要、必要、意義があるから]
・1年次を対象に、障害児教育について基礎的な内容に接する機会があることで、今後の特別支援教育時代へ対応する糸口となっている。一方、特別支援教育の流れの中で通常教育と障害児教育の連続化が一層促されることを考えれば、今後、科目の増設は考えられるかもしれない。
・障害児教育を専攻する以外は必修となっており、そのことは大変よいことと考えているが、そのために大人数の授業となっており、この点での対応に迫られている。必修になっていることには満足しているが、半期2単位の授業の中で、すべての障害について教育学から生理・心理学、指導法、福祉などにわたる多分野を取り扱うことは欲張りすぎており、消化不良気味である。よって単位数を増やすべきであると考える。
・特殊教育に携わる学生以外にとっても、教育学の基礎を学ぶ上で障害児関連科目の学習は極めて意義のあることだと思っている。
・文部科学省の今後の障害児教育のあり方について、特別なニーズをもつ子どもへの対応が求められており、本学における幼稚園及び小学校2種免許取得並びに、障害児教育についての知識技能を持つ事は就職にも有利であるとともに必要不可欠となることも考えられる。
 
[教育実習と関連があるから]
・教育実習において参考になっている。
 
[授業・設備・講師が充実しているから]
・軽度発達障害を専門とする教官を採用でき、良かった。2科目とも190人で大教室があふれている。科目数を増やして40〜50人規模で開講したい。
・全ての科目に対して受講生も50〜100人程度と多く、関心が高く、意欲的である。
・本学は障害児教育を専門としている人がいなく、それを専門としている研究者を非常勤講師としてお願いしている。
・学部・学科を再編した6年前よりも新カリキュラムで幼・小免を出している児童教育学部にて初めて設定した。
・必修科目として開講しているため、一応の成果をあげていると考える。
・演習設備も完備し、実際に外来臨床発達クリニックを有しているため、学生への臨床教育が行われやすい。
・専攻科(2年制)で、障害児関連を重視して、3科目(I、II、III)設置している。
・前記2科目は、幼稚園教諭一種免許の「教科または教職に関する科目」(選択科目)として開設しているが、ほとんどの学生が保育士資格も取得するため、資格必修科目になっている「障害児保育」を履修している。
・「発達教育学研究」や「教育相談」など障害児教育関連科目の内容を充実させる方向で検討したい。
・特殊教育専修以外の学生も、「ヨコ副免」という複数免許取得可能な制度により、授業に参加可能である。
・関連科目の設定については、大学全体のカリキュラムの中にある物として設定し、見直しを経て今日に至っている。今後もその予定である。
・「障害児教育論」は大学の3つのキャンパスのうち、2つのキャンパスでは開講しているが、残り1つでは開設していない。来年度は、全てのキャンパスで開講できるよう検討している。
・一般大学において、教職免許向上の必修科目以外に本科目が開講できていること及び、適任の講師が確保できていることからある程度満足している。
・当大学では社会福祉士の資格取得を前提に教職科目を設定している。そのため、学生は資格取得数を上げることもでき、なおかつ教育と福祉の両面から障害児を捉える事が可能となる。しかし、その一方で、どうしても科目設定が広く浅くなり、やや専門的知識を深めていくことに今後の課題性を感じる。
 
[その他]
・健康学科に課程認定を受けている。
・全て任せてもらっているため、柔軟に授業を進めることができる。
・まだ卒業年次生がいないため、これから整備していく途中である。
・教職課程委員会や教授会においても十分理解されている。
・幼稚園教諭免許取得のための教育課程における教科目内容に基づき、FD等を定期的に行うことによって担当教員間における調整を行っている。
 
b)単独科目有りの大学の「多少不満」「大変不満」の理由
[科目数が少ないから]
・設定された教職関連科目が少ない。
・最近、特殊教育で採用検査を受験する学生が増えており、また特殊教育諸学校の講師になりたいと思っている学生も増えている中で、それに関する科目数があまりにも少ないと感じている。
・もう少し科目数を増やしてもよいと考えている。
・大学には科目が設定されていない。
・今年度からスタートしたばかりであり、内容、体制共に確立しているとはいえない。こうした授業の本数、担当者を増やす必要はある。
 
[設定が困難だから]
・かつては、2単位の1年生向けの必修科目を設けていたが(2年間のみ)選択教科となり、しかも受講しにくい時間に設定されているために受講者は50人程度である。
・講義担当者が1人である。心理専門、福祉専門、医学専門の先生と連携が取れていない。
・授業科目をもっと増設したい所ではあるが、全体のバランスから抑えられている。しかし、現実の学校には障害児がおり、対応できないのではないかと考えている。
・(1)障害児教育関連科目を専門領域とする教員がそれだけのために採用される事がない。(2)教育実習または臨床実習のための施設、設備が皆無に等しい状態である。
・本学は商科大学であるため、商業・経済・法律など専門の必修科目が多く、学生はこれらの卒業に必要な単位の取得に追われている。このような学生側の事情と大学側の事情(教職課程の教員が少ない)から、障害児教育に関する科目ばかりか、教育学、心理学の、さらに必要と考えられる科目が開設できない状況にある。
 
[必修でないから]
・障害児に対する概論的な内容の教科が必要である。全コースの学生に必須とすべきである。
・専門科目のみではなく、必修として設置されることが望ましいと考えられる。
・以前は、障害児教育関連科目は専門科目以外には設けていなかったが、3年前から「障害児の発達と教育」を学部共通科目として設定した。その点では評価しているが、必須でない点が課題といえる。現在、学部定員230名のうち、この科目を履修しているものは、90〜110名程度である。
 
[その他]
・単位を取りやすいという理由不明な評判が学生の間にあり、170〜200名に近い学生が受講する授業を行うことや、出欠確認、評価の作業も大変である。
・介護等体験により必要性が学生からも出ている。
・障害教育の現状と今後について更なる検討が必要と思われる。
・教職免許の規準に対応しているが、それで十分であるとは思っていない。
・理論編が中心になる。ビデオなどで適切な教材があればと思うことが多い。
 
c)一部で障害児教育を扱う科目有り大学の「大変満足」「ある程度満足」の理由
[現状で十分だから]
・現状に特に問題を感じていないから。
・講座のスタッフの人物からすると、現状制度の科目しか設定できない。大学では、教養教育でも障害児教育関係の授業が設定されているということを考慮に入れて、ある程度満足している。
・現在の教職科目で満たされているため。
・基本教職に関する科目の中では「発達心理学」の中の2コマだけの授業しかないが、学部共通科目の中の選択必修科目として「特別教育論」を開設している。現実には教員免許の取得を希望する学生のほぼ全員が3.4段階でこの「特殊教育論」15コマを受講している。このなかで多様に授業できる。
・本学では文教育学部人間社会科学科(心理学、教育科学講座)と生活科学部人間生活学科(発達臨床心理学講座)で障害児の発達、学習過程に関する教育研究が行われ、これらの講座を中心に教職科目における障害児教育関連科目が運営されている。これらの講座は21世紀COEの研究拠点にもなり、特別なニーズを持つ児童・生徒に対する教育支援に関する万全の教育である。ゆえに、研究体制が整備されつつあるものと考える。
・ある特定の学生だけではなく、教員免許状取得を希望する全ての学部生が何らかの講義で障害児教育にふれることができるため。
・本学教育学部は教職免許取得と目的とした学部ではない。障害児教育に関する専攻科目(研究室)が置かれている状況で、関連教官が障害心理について全体のカリキュラムの一部として講義を行っている状況であり、特に問題は感じていない。
・限られた時間の中で障害児教育に関連する内容を学生に提供できていると思う。
・芸術系の大学としては障害児・者関連の授業を量的にも質的にも確保できているから。学生の人間観、教育観の形成に一定程度役に立っているように感じられるから。
・実習を伴った理論と知識のバランスのある授業になっている。福祉分野との関連も意識している。
・障害児教育については、さらに充実させたい所だが、全体の割合からすると現在の内容量が適正かと思われる。ただ、前述のとおり介護体験を実施する学生には、事前指導をより充実させる必要を感じている。
・ほかに教授すべきことが多いため現状程度でよいと考えている。
・障害児に関する理解を求めることの重要性は認識しており、学生にももっと知ってもらいたいと思うが、イかウか迷う所である。現状以上に、科目数を増やすには難しく現状の中ではこれだけの指導ができていることで当面はよしと考えてもいいのではないかと思った。
・「福祉学」に関する専門科目中に障害児教育に関する科目が含まれている。
・(A)の項目について本大学では「教育の基礎理論に関する科目」で障害児の教育を位置づけている。開講年次が2、3年であり、教職課程の理解がある程度できた上での受講となり、学習への取り組みの姿勢がよい。しかし、受講者数が150名を超えるため、授業方法に工夫が必要となっている。
・「障害者福祉論」を開講し、社会福祉士受験資格(必修)としている。
・長年、中学校、高等学校の現場で教師として教育に携わってきた人材を本学の教員に迎え、障害児、LD、不登校、非行についてなど、かなり広範囲にわたる障害児関連について生きた知識を教授できているのではと思われる。
・教職科目と関わりのある「介護体験事前指導」や「人権教育論」の科目で充足していると思う。
・教職に関する科目のどの科目においても、障害を受けている生徒の指導について取り上げることは担当教員で申し合わせているから。
・福祉系学科を設けており、選択科目で教職課程履修者は受講できるため。
・障害児教育は、教育の原点であり、教職科目のどこかに位置づけ指導する事は急務であった。本大学の現体制では満足している。
・高等学校の工業と情報の免許状の取得を目指す学生に対して、限られた時間の中で一通りの理解を得させることは出来ている様に思われる。







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