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第88回 「道路公団総裁問題」を考える
(二〇〇三年十月二十三日)
マンガ・アニメで子供の精神から変えてやろう
 最初に、ロサンゼルスへ行ってきた報告を少ししましょう。東京財団ではかねてより、マンガ・アニメの紹介に力を入れてきましたが、米国UCLA大学とCSU大学において、「マンガ・アニメ日本研究講座(現地タイトル「Entertainment Goes "Pop"」)という寄附講座を十二月までに一〇講義、場所や時間を変えて三〇回行います。
 その関係でいくつか講演をしたり、人に会ってきたのですが、向こうの人はマンガ・アニメを産業問題ととらえていて、「たいへん儲かる商売を日本人に取られる、また負ける」という反応でした。アメリカの五大輸出産業のうちの五番目か何かなんです。それが日本に惨敗しているというふうに論ずるので、「それなら自分も勉強して儲けてやろう」と思うのが学生です。
 それから、UCLA大学の公開シンポジウムでは、集まってきた人の中にはハリウッド関係の人も多いわけで、日本のマンガ・アニメ取り扱い代理店になって儲けてやろうと、そういう人たちです。日本人に描かせて、自分が取り扱い業者になって、配給して、儲けて、その金はなるべく日本に払わないように裁判を準備しようと、どうせするに決まっているんですけれども(笑)。
 もちろん、それよりは純情なマンガ・アニメファンの人もたくさん集まっていました。そういう人たちは、質疑応答になると興味がだんだん文化論になっていくわけです。日本マンガに含まれている日本精神という話にもなるわけで、私は幾つか試論を話してきました。
 向こうで全部で一〇講義をやるのですが、今回、第一回に日本から行ってもらった講師が東映アニメーションのプロデューサー、清水慎治さんという人です。この人が今担当しているのは『ワンピース』というアニメです。原作のマンガは『少年ジャンプ』に連載していて、爆発的人気で、『ドラゴンボール』や『スラムダンク』がつくったこれまでの記録を全部破る勢いでヒットしているそうです。だれか知っている人はいますか? ああ、やっぱり若い人は知っていますね。
 そこに刀を三本つった少年のポスターがありますが( 写真)、今回UCLA大学の中にあのポスターを張りまくったわけです。すると、学生が面白がってあのポスターをまねして、自分でもあの少年の絵を描いて立て看板にして、学校の中に立ててあるのです。
 清水プロデューサーにシンポジウムで話してもらって、そのあとUCLAの大学生相手に教室でも講義をしてもらって、質問もたくさん受けてもらいました。「清水さんも得したでしょう」と尋ねると、「いや、得しました。いろいろなことがわかりました」とおっしゃってくれて嬉しかったのですが、じつはそれも狙いなのです。日米相携えて子供の精神から変えてやろうと。もう現にそれは始まっていることなのですけれども、そんなことをして帰ってまいりました。
 帰ってくるとようやく秋晴れになって、うれしいですね。けれども、行く前に播いた大根の種が、帰ってきてもまだ芽が出ていなくて心配です。天下国家より、大根の芽がまだ出ないとか、そのほうがよほど気になりまして、芽が出てきたらたいへん嬉しい(笑)。人間にとって物事の大小は一体どこで分かれているのか、極めて不思議ですね。ナポレオンでも小泉首相でも、大事なことを考えているすぐ次の瞬間は、晩のおかずのことを考えているかもしれません(笑)、それが人間だと思います。
 これから天気になって、うちの野菜もどんどん大きくなるだろうと喜んでいます。生きている楽しさとはそういうものですね。そういう幸福だけで十分だと思うのですが、人々はそれ以外に新聞を読んだりテレビを見たりして、藤井道路公団総裁はしぶとい人だとか、石原国交大臣は情けないとか、要らないことをいろいろ心配しています。繰り返しそういう情報を得ると、もっと先が知りたくなるが、私はこれを情報中毒だと思っています。あるいは情報公害です。暇つぶしと必要情報を分けねばいけません。そういうコントロールができる人間になりたいと思います。さもないと、いつも情報に振り回されておろおろしていないといけません。
 では、情報に対して自立するにはどうすればいいか。というと、これが不思議なのですが、森羅万象ありとあらゆるガラクタ情報をたくさん知ると自立できる。ガラクタ情報をたくさん知っていると、だんだん良い情報がわかるようになってきて、悪いものをもう相手にしなくなる。この日下スクールは、そんなガラクタ情報の見本市にしたいと思っております(笑)。
 今日は久しぶりに時事問題をやろうかと思っていたところ、藤井道路公団総裁問題が起こりました。







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