日本財団 図書館


I-2 造船業の施策
 世界の造船市場は石油ショック等による二度の造船不況を経た後、1990年代後半から大型タンカーが代替期を迎えたことなどにより、量的には市況が回復し、過去最高だった1975年に迫る建造水準となっている。しかしながら、激しい国際競争等を背景に、船価及び収益性は低レベルで推移しており、また、2000年代央までには外航船の代替期が一段落することから、その後は建造需要が低下することが予想される。さらに、人件費の安さを強みにして中国が建造量を急激に増加させていることも国際競争の激化に一層拍車をかけるものと思われる。
 このような状況の中、我が国造船業は、高度な技術力と不断の生産性向上、国内関連工業の充実及びきめ細かな保守・管理体制などを背景に、良質な船舶を安定的に船主に提供してきており、常に世界造船市場においてトップクラスを維持してきたところである。
 しかしながら大手造船所においては、厳しさを増す国際競争や今後の新造船需要の減少に対応するため、昨年秋から今年春にかけて合併、分社化をはじめとする業界再編が行われており、現在では大手6社(造船専業4社+総合重工業2社)体制となっている。
 また、内航船の建造需要の激減から不況に陥っている中小造船業については、早期に不況を克服し、今後も需要の変化に的確に対応した船舶を供給できるよう、構造改善、新規需要の開拓、雇用の安定等の総合的な対策を実施している。
 さらに、テクノスーパーライナーや、メガフロートなど造船業への新規需要を開拓する新技術の実用化についても推進していく。
 
造船対策の概要
(1)造船産業の競争戦略の策定
 国土交通省は、2002年6月、造船、海運、金融等の関係者からなる「造船産業競争戦略会議」(座長:杉山 武彦一橋大学教授)を省内に設置し、我が国造船産業が将来において世界の造船・海運の中心に位置するための競争戦略を、今年6月にとりまとめた。具体的な戦略は以下の通り。
・集約・再編、アライアンスの強化によるスケールメリットの追求
・競争促進政策の展開
・技能IT化等による生産技術の高度化、人材育成・技能伝承
・研究開発基盤・機能の再構築
・造船市場の安定化のための国際協調(OECD新造船協定の早期締結による国際市場規律の確立等)
・その他(LCVの国際的な展開、技術流出防止策等)
 
(2)新技術の実用化
(a)テクノスーパーライナー(TSL)
 TSLは大量の旅客や貨物を荒れた海でも安全に輸送できる画期的な超高速船である。TSLの実用化に向け、TSLの保有・リース・保守管理を行うTSL保有管理会社((株)テクノシーウェイズ:TSW)の設立(2002年6月)、最適な運航管理や保守整備を行うための総合的技術支援システムの開発等、実航路への導入に向けた環境整備が進められてきた。
 TSL実用化第一船は、2005年春に東京−小笠原航路に投入される予定である。これに向け、TSWは、2003年1月に造船契約及び傭船契約を締結し、TSL実用化第一船の建造に着手したところである。同船の就航により、本土から小笠原へのアクセスが大幅に改善され(片道26時間→16時間)島民の利便性向上や小笠原の活性化に大いに寄与することが期待される。
 今後、TSWは、国内物流航路、アジア近海航路における第2船以降の事業化を推進する予定であり、国土交通省はこうした取り組みを積極的に支援していく。
 
(b)超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)
 地震に強く環境に優しいメガフロートは、四面を海に囲まれた我が国において、新しい社会資本整備手法として期待されている技術である。
 1995年から開始されたメガフロートの研究開発では、メガフロートの設計・建造・維持管理に係る基盤技術が確立されるとともに、1,000m空港モデルを用いて実施された航空機による離発着実験等により、メガフロート空港の可能性について検討が行われ、最終的に4,000m級の空港が技術的に可能であるとの結論を得ている。こうした成果を受け、今般、羽田空港再拡張事業における工法の一つとしてノミネートされているところである。
 今後、国土交通省は、技術の一層の信頼性向上、各種規制に係る調整等により、引き続き実用化を推進する。
 
(3)中小造船業対策
 中小造船業においては、内航船や漁船等の中小型船の建造需要がここ数年大きく減少し、経営環境が極端に悪化している状況にある。さらに、従業員の高齢化や人材育成の遅れなどの問題も生じており、経営基盤が脆弱化しつつあることから、このままでは中小造船業の衰退につながるおそれがある。そのような状況でありながらも中小造船業は、地域経済を支え雇用の確保に多大な貢献をしているばかりでなく、良質な船舶を供給することにより国内海上物流を支える重要な役割を担っている。
 このため国土交通省では、中小造船業が早期に経営基盤の強化を図り、今後も活力ある産業として存続できるよう、中小企業経営革新支援法等を活用し、中小造船業の経営基盤強化を図る施策を推進している。
 
(4)国際協調の推進
(ア)世界の造船国との政策協調
 大型外航船を中心とする国際造船市場は、限られた需要を主要造船国が分け合う世界単一市場であり、一国の政策、造船事業者の受注慣行が、国際造船市場における競争環境に直ちに影響する。したがって、造船業の健全な発展のためには、主要造船国間での政策協調が必要不可欠である。このような認識の下、我が国はOECD造船部会の場や国間協議の場を通じて国際協調に努めている。
 中でも、造船市場における公正な競争条件を早期に確立するため、未発効になっている1994年造船協定に代わる新たな協定策定に向けた交渉に積極的に参加するとともに、需給の安定化を促進するため、OECD造船部会、EU、韓国及び中国との政策対話等の場を活用し、共通認識を醸成し、政策協調に努めている。
 
(イ)地球環境問題等への対応
 近年、地球規模の環境問題がクローズアップされている中、船舶から輩出されるNOx等の大気汚染物質についてもその削減を図ることが重要となってきている。また、内航船の船内労働環境、居住環境の改善の必要性が高まっている。我が国は、こうした諸問題を技術的にブレークスルーする次世代の内航船(スーパーエコシップ)の研究開発を2001年度より行っている。2002年度は、水槽試験による船型開発、ポッド型推進器開発のための要素研究等を行った。今年度は、2004年度から開始を目指す実証試験に向け実証船の設計等を開始することとしている。
 
(ウ)船舶・造船分野の経済協力・技術協力の推進
 水域に接する開発途上国にとって、船舶は、人や物資の輸送手段として住民生活や社会経済の発展に重要な役割を果たしている。また、造船業の労働集約性・関連産業への波及効果に着目すれば、造船業の振興は経済発展の誘因となるものである。したがって、これら諸国においては船舶や造船業の整備に積極的に取り組んでいくことが望まれるところであり、我が国としてもこれらに対する経済協力・技術協力を今後とも推進していくこととしている。
 
I-3 解撤の現状及び施策
1. 日本の船舶解撤業の現状
 日本の船舶解撤業は今から80年程前にサルベージ業として発足し、1950年代から60年代にかけて一時は活発な活動を行っていたものの、事業環境の悪化により次第に衰退し、現在では、船舶解撤事業者十数社が細々と内航船、漁船等を中心に解撤を実施しているにすぎない。
 
2. 船舶解撤に関する取組み
 船舶の安全航行・海洋環境の保全を進めるため、安全上のレベルが低い老朽船の滞留を防ぎ、船舶の解撤を円滑に促進する必要がある。このためには世界的に、解撤需要に対応できる解撤能力の確保が重要である。また、海運・造船業界にとって、国際マーケットの中での安定的な事業の実施の観点から、船舶解撤の円滑な実施は重要な課題として位置付けられる。このような認識から、海運・造船の主要国である日本は、海運・造船関係者の協調の下に、官民において、国際的な解撤の促進に向けて積極的に取り組んでいる。
 一方、現在、国際的な船舶の解撤の問題は、国連環境計画(UNEP)、国際海事機関(IMO)、国際労働機関(ILO)の3国際機関にて検討が進められているが、当初は解撤ヤードの環境・労働条件・技術的な問題が主体であったが、現在では船舶の解撤全体に関する国際的な枠組みの問題へと広がってきており、解撤問題に関係する者(製造者、使用者、解撤業者、寄港国、解撤国等)の責任や役割を明確にしていくことが望まれている。日本としてもこのような国際的な検討に積極的に携わっている。
 
3. 船舶解撤促進事業制度の概要
 国土交通省は、1978年度から船舶解撤を促進させるため、(財)船舶解撤事業促進協会に造成された船舶解撤促進助成基金により、解撤事業者が行う船舶解撤事業に対し船舶解撤促進助成金を交付している。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION