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2.2.3 テクスチャ解析による海底底質の分類
 本研究では、後方散乱強度値から画像処理による分類及び後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸と底質を推定する方法の二つの分類法による底質分類を試みる。本年度は、まず面的な分類が可能な前者による分類をテクスチャ解析により実施した。
 
(1)テクスチャとは
 画像データの各画素の値は、それぞれ独立しているのではなく、互いに関わりをもっている。画像のキメ、すなわち微妙な濃淡変化の様子を定量化したものがテクスチャ特徴である。人間はテクスチャの違いによって画像における領域を区別することができる。どんなもの(例えば白い紙)でも、ずっと拡大して見ると必ずテクスチャ(紙の繊維の模様)が現われる。また濃度が一定の領域も、濃度変化のないテクスチャをもつと言える。画像処理においてテクスチャが重要な役割を果たす例は、衛星写真や航空写真による地形や森林の解析、生体の組織や細胞の顕微鏡写真の解析などで紹介されている。実際、陸上のリモートセンシング画像処理では、テクスチャ特徴を計測することにより、森や草地などの分類が可能となっている。この他にも、一般に自然の風景を対象とする画像解析では、テクスチャ解析が重要な役割を果たしている。
 統計的なテクスチャ特徴の代表的な計算法として、本研究では、SeaMARCIIの海底音響画像の分類に使用された濃度共起行列を用いて、SeaBat8101の音響画像の分類を試みた。
 音響画像から底質の分類を行う場合、音響画像データが強度値のみの一次元のデータであることから、一次元の簡易な分類が行われることが多い。これは、画像のある濃度値のデータに最も近い濃度値の分類クラスに区別するものである。しかしながら、この方法では、図80に示すような左右の画像の場合、両者の濃度の平均と分散は同じになるため、区別することができない。
 
図80. 同じ濃度ヒストグラムを有するテクスチャ
 
 しかしながらテクスチャ解析では、濃度の配置を特徴量として数値化するため、このような画像の区別が可能となる。音響画像データは、濃度のみの一次元であるが、画像上の画素の濃度の配置具合をテクスチャ特徴量として求めることにより、情報量を増やすことができる。このような特徴は、2次統計量と呼ばれ、その代表的なものが濃度共起行列をもとにしたテクスチャ特徴計算法である。
 
(2)海底音響画像のテクスチャ解析
 テクスチャ解析手順を図81示す。
 
図81. テクスチャ解析による画像分類の流れ
 
 収録データに含まれる音響画像データと水深データについて、図78に示す流れで処理を実施する。地形歪み除去処理後に、送受波器の動揺データを用いた幾何補正を行い、ヒストグラムの平坦化処理により、normarizedされた画像を作成した上で、テクスチャ特徴量の算出を行う。
 テクスチャ特徴量の算出例を図82に示す。図82(a)の例は、5×5のウィンドウオペレータを用いた例である。計算は図82(b)に示すように、画像の濃度iの点から一定の変位δ=(r, θ)だけ離れた点の濃度jである確率Pδ(i, j), (i, j=0, 1, ・・・n-1)を要素とする濃度共起行列を求め、その行列から4種類の特徴量を計算し、それらの値によってテクスチャの特徴づけを行う。δは頻度を求める時の方向を表しており、組み合わせとしては0度方向、90、135、45度方向があり、それぞれについて濃度の頻度について計算する。
 
図82. テクスチャ特徴量の算出
 
(a)入力画像
 
(b)変位
δ=(DX,DY)
 
(c)(a)Aの濃度共起行列
 
(d)特徴量の計算の例
 
 例えば図82(a)の5×5の領域において、Aに示したように濃度値が全て8であった場合、各方向の計算結果は図82(c)になる。横方向0°方向の濃度の頻度は, 8と8の組み合わせしか存在しないので、解は(8, 8)の組み合わせが40個となる。テクスチャ識別のための特徴量は、このような4つの8次正方行列をそのまま使用するのではなく、各行列から図79(d)に示すような濃度値の変化パターンを表す4つの特徴量を計算し、それらの値によってテクスチャを特徴づける。ここで、図82(a)の5×5の領域において濃度値が全て8のときをA、領域内の値がランダムであった場合をBとして、4式の計算結果を図82(d)のA及びBにそれぞれ示した。q1のangular second momentは領域の一様性を表し、共起行列の要素がどの位密集して分布しているかを求めることができる。領域の中が8で密集している場合は、1,600が一様性のとりうる最大の値となる。式q2は領域のコントラストを表し、当然ながら濃度値が全て8の場合は、コントラストが無く0(ゼロ)となるが、逆に濃度値がランダムであった場合はコントラストが上がる。同様に、領域のバラツキを示すエントロピーと濃度値の連続性を表す特徴量を計算した。こうして5×5の領域において4つの方向、それぞれについて4式を計算すれば、16個の特徴量が求められ, 領域の中の平均と標準偏差も含めれば18個のデータ量(18次元)になる。これらのテクスチャ特徴量を算出するプログラムを開発した。







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