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3.1.2 現地における離岸流判読・推定の指標
 現地観測の事前踏査を行う場合、一般の海域利用者や海岸(海浜)管理者が水難事故の危険性を避けようとする場合、あるいは、水難事故が発生した場合、現地では、例えば、図3.1.2、図3.1.3に示すような状況で、かつ何も観測機器を携帯せずに離岸流位置を判読・推定しなければならない。緊急時においては時間が非常に重要であり、短時間で離岸流の推定が出来るかどうかが、遊泳者(水難遭遇者)の生死を左右することにもなる。
 そこで、青島海岸の現地観測時に得られた知見に基づいて、人間の五感だけに基づいた離岸流の判読・推定のポイントを考察する。ただし、ここに示すポイントは、多様な海象条件および海岸性状に対して100%確実と言うものではなく、あくまでも目安として利用するためのものである。従って、海域利用においては、最終責任はあくまでも、個人に属することを強く認識されるよう要望するとともに、適宜、現場での多方面からの実体験がフィードバックされることを期待するものである。
 
図3.1.2 現地海浜(その1)
 
図3.1.3 現地海浜(その2)
(現場で離岸流判定時に遭遇する典型的な例で、水準レベルのほぼ等しい位置での離岸流視認は意外と困難である)
 
a)指標1
 遊泳時における準備体操の重要性と同じレベルで、入水前に必ず高台を探して遊泳(親水利用)箇所となる海岸の状況を良く観察することである。専門家でなくとも、少なくとも見た感じで、図3.1.4に示すような汀線の凹凸(波状)地形、背後の浜崖の屈曲した侵食状況、また、直接目には見えないかもしれないが砕波状況から沖合いの浅瀬が不連続(離散的)になっている等の、地形の状況の見極めをつける必要がある。
 
b)指標2
 水表面(海水表面)の一部だけが周辺に比べて乱れている、ざわついている、擾乱がある、小さな漣(さざなみ)がある等の何らかの違いを見極める必要がある(図3.1.53参照)。ただし、水表面の擾乱は総て離岸流だけで起こるわけでもなく、例えば、擾乱の移動状況が早い場合には小さな魚が密集している場合もあるので、しばらく観察して見極める必要がある。
 
図3.1.4 離岸流判読・推定の指標1
 
図3.1.5 離岸流判読・推定の指標2
 
c)指標3
 波の峰線(波峰線)形状に着目する必要がある。例えば、図3.1.6では、汀線側から2番目の波峰線の黄色の楕円で囲まれる部分で波峰線が岸側に屈曲し、しかもその一部では反対の沖側に少し峰線が屈曲し、別の箇所では砕波(白波:ホワイトキャップ)も見られないことが分かる。波峰線が一部海側に曲がっているところは、波に対する逆流(離岸流)の存在を明瞭に示唆するものである。
 
d)指標4
 離岸流域には浮遊物(漂流物、ゴミ)等が集積しやすい特性がある。干潮時などには、特に離岸流の付け根領域に図3.1.7に示すようにゴミや海藻が集積している場合がある。また、離岸流域に海藻などが集積している場合には周辺海域に比べて色が黒く(暗く)見えがちとなるので、この様なゴミの集積状況をみることが大切である。
 
図3.1.6 離岸流判読・推定の指標3
 
図3.1.7 離岸流判読・推定の指標4
 
e)指針5
 マリーンレジャーを楽しみに知らない海岸に行く場合には、基本的に地元海域を通常利用している人々に海岸の様子を尋ねるということである。
 
f)指針6
 自然を楽しむにはまず五感を磨く必要があり、必ず自己責任の範囲でリスクに対処できる状況(限界)を把握した上で、マリーンレジャーを楽しむことが大切である。
 
g)その他
 実際の漂流実体験では、離岸流そのものに流されることは、流れに逆らいさえしなければ体力を消耗することでもなく、比較的容易である。ただし、波浪条件が高い状況で沖合に流されると、沖の方で大きな砕波に巻き込まれることになり、上下・水平方向の運動が激しいだけでなく、水中および水面付近でも多量の海水を飲んでしまいがちで体力の消耗も激しい。そして、方向感覚(位置の認識能力)も低下しがちになる。しかも、沖から来襲する波は波高が夫々異なるために砕波点が固定しておらず、漂流者の沖側にも岸側にも漂流者の視点より高い白波(砕波)が存在し、沖合の監視者(救助者)および陸側の監視者(救助者)ともに視認できない状況が発生しうる。したがって、波浪がそれほど高く無い状況では、離岸流に乗り沖合へ移動し離岸流頭で岸に向かい泳ぎ始めることは一般的には妥当と考えられるが、波浪の高い状況では離岸流に対して横方向、あるいは汀線に対して平行にできるだけ早くから泳ぎ始め、離岸流から脱出し、その後、岸向に泳ぐ方が生存確率は高くなるものと思われる。また、後述するが低年齢時に溺れかけた経験を持つ学童が意外と多い。このことからも、少なくとも小学生年齢程度まではできるだけ、ライフジャケット等の携行を推奨すべきとも考える。
 
図3.1.8 離岸流判読・推定の指標5
 
図3.1.9 離岸流判読・推定の指標6







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