日本財団 図書館


3)フロート・HGPSフロート観測
 観測者はライフジャッケットを着用し、腰の深さ程度まで入水しHGPSフロートをゆっくりと投入する作業と、砕波帯よりも沖まで入水しHGPSフロートをゆっくりと投入する作業を繰り返した(図2.3.37)。結果として、調査時には当海域で顕著な離岸流が発生していないことが確認された。一方、HGPSフロートにより得られた北から南に向かう沿岸流の平均流速は、それぞれ0.14(m/s)と0.15(m/s)であった(図2.3.39、図2.3.40)。加えて、図中では水中でHGPSを携帯する観測者が歩行するときの移動速度も目安として示されているが、約0.5m/s程度の値であることが読み取れる。遊泳に疲れた場合には、歩行して海浜に帰らねばならないわけであり、相対的にこれぐらいの速度より大きい沖向き速度を持つ流れに関しては、出来るだけ予測できることが望ましいと思われる。なお、観測時の波浪条件は好天にも恵まれたこともあり、測深作業を行うには最適の海象条件であるが、海浜流の駆動力としては小さな入射波条件にあり、顕著な離岸流の記録が得られなかったものと考えられる。また、前述したが、投入したフロートのうち3個は弱い流れに乗り沖合に流出し、3日後に沿岸流の向きとは反対の観測地点北側の小野川河口左岸で3個とも発見された。これは、沿岸域の流れが必ずしも簡単には予測できないことを示している。
 
図2.3.37 フロート投入状況
 
図2.3.38 HGPSフロートの移動状況(沿岸流)
 
図2.3.39 
HGPSフロートにより得られた沿岸流速および水中での歩行速度(その1)
 
図2.3.40 
HGPSフロートにより得られた沿岸流速および水中での歩行速度(その2)
 
4)波高および流速の固定点観測
 青島海岸と同様に、Wave HunterとDL-2を使用した固定点観測を行った。ただし、前述したように観測時は目視及び染料フロート観測ともに離岸流をとらえられなかったことからも分かるように、顕著な離岸流は確認できなかった。離岸流の駆動力は、多くの場合には入射する波浪であるので、図2.3.41に観測地点における平均水位(潮位)と波高の時系列変化を示す。干潮時で平均水位(潮位)が低いと、観測地点に入射する波の砕波条件(目安として約γ=H/h=0.78)により制限されて、波が砕波し、離岸流の駆動力になるが、現実的に入射波浪が0cmから50cmの範囲であり、離岸流の駆動力として小さすぎたと考えられる。
 なお、本観測では、海底勾配が緩やかであること、干満の差が2.5m程度あること、入射波浪が小さく予想される離岸流も小さかったこともあり、波高・流速計を干潮時汀線ぎりぎりの水深に設置した。これよりも設置水深が深いとほとんどの時間で離岸流が取れないと考えたためである。ただし、これはWave hunter、ADCPともに観測条件としては限界か保証できない条件である。今後の参考のために、図2.3.42にWave hunterから得られた平均流速記録も合わせて示す。一見したところ、図中で2〜3m/sの強い離岸流が生じているように見えるが、電磁流速計が水面近くに没しているか、波の通過により空中に出たり水中に没したりするような時間帯の記録であり、観測した生データを見ると、記録として誤差が多量に含まれていることが分かる。したがって、干満のある極浅海域の観測においては、現況の観測機器は必ずしも十分な性能を発揮できないこと、また得られた記録は、解析記録だけでなく生データも吟味する必要がある。蛇足ではあるが、これらの結果は計測機器の性能が悪いというわけではなく、ADCPを含めて従来の計測機器が、現況では離岸流が生じうる極浅海域での観測に対して、どのような海象条件下でも行えるように設計されているわけではないためである。したがって、今後とも観測者(グループ)が個々に何らかの工夫をしなければ、離岸流予報に必要な情報(データ)が十分には得られないことを暗に示している。
 
図2.3.41 吹上浜における観測時の入射波浪と平均水位(潮位)の時系列変化
 
図2.3.42 
20分間計測時間内の水位(水圧)、東西(E-N)流速、南北(N-S)流速成分の変動状況
 
図2.3.43 
吹上浜における観測時の入射波浪・平均水位・水温・平均流速の分布
(誤信号を含む)
 
5)音響測深結果
 第十管区海上保安本部所属の測量船いそしおにより、観測領域および沖側の海底地形の測深作業が行われた。入射波浪が小さく風も余りなかったこともあり、測深作業は順調に行われた。その結果を、図2.3.44〜2.3.46に示す。当海域においては、砂州が3段あり、沿岸方向にこの砂州形状の2次元性が確保されていないことが分かる。今後、この様な詳細な海底地形が数値計算に生かされる予定である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION