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2.3.2 吹上浜海岸(鹿児島県)
(1)観測の概要
1)吹上浜海岸の概要
 吹上浜海岸は、東シナ海に面する緩やかな海底勾配を持つ海岸で、複数の砂州(多段バー)地形で特徴付けられる海岸である。一般に夏季においては波浪が南側から入射しその結果沿岸流が北向きに発生し、冬季においては季節風の影響で波が北側から入射し、その結果沿岸流が南向きになる。このように、波浪と沿岸流が季節的に変動する海岸である。当海域は基本的に遊泳禁止であるが、海域利用者は多く、遊泳時の水難事故も発生している。今回、現地観測を実施した箇所においても、過去に水難事故が発生している。ただし、水難事故は発生しているが、沿岸砂州の3次元性が少ないこと、入射波浪が比較的小さいことから、離岸流探査という意味では難易度の高い海岸である。
 
図2.3.31 吹上浜海岸の位置
 
図2.3.32 観測場所と周辺の海底地形
 
2)観測期間
 現地観測は、平成15年9月25日から30日の期間に行った。調査スケジュールの概要は以下に示すとおりである。また、ヘリコプター離岸流探査は9月30日午前9時30分〜12時に実施した。
9月25日(木)吹上浜到着(機材調整・フロート実験・観測箇所の特定)
 26日(金)機材設置・観測開始(波高計設置・機材位置出し・波浪観測・データ処理)
 27日(土)観測(波浪観測・地形測量・流れのフロート観測・染料実験・データ処理)
 28日(日)観測(地形測量・流れのフロート観測・波浪観測・データ処理)
 29日(月)観測機材引上(波浪観測・機材位置出し)
 30日(火)フロート・染料観測・ヘリコプターによる上空からの調査・撤収作業
 
図2.3.33 現地観測時の推算潮位
 
3)観測内容
 観測は、青島海岸とほぼ同じ内容で実施した。
(1)ヘリコプターによる離岸流探査
 目視、可視画像、赤外画像
(2)流れの計測
 ADCP観測(離岸流の鉛直分布構造)、フロート実験(GPS付き、無し)、染料(シーマーカー)実験
(3)波の計測
 波高計(Wave Hunter94、Wave HunterΣ、 DL-2)
(4)地形計測
 トランシット、DGPS、深浅測量
(5)広報用資料収集
 観測風景の写真撮影、ビデオカメラによる染料拡散の動画記録等
 
(2)調査結果
 本海域は太平洋に面する青島海岸と異なり、現地観測時の波浪が比較的小さく、そのために浅海域の詳細な海底地形測量が実施できた。また、離岸流というよりは沿岸流成分がより多く観測された。離岸流に関しては、機器設置前にフロートを多数(100個程度)流した結果、そのうち3個が沖合いに流出し回収できなかった。沖合い流出時のフロートの移動は緩やかであり、顕著な離岸流といえるものではなかった。しかし、現地観測時に沖合に流出した未回収のフロートは、3日後、沿岸流とは反対方向の小野川河口周辺で3個とも回収できた。
 沿岸流が卓越する海岸であるために、観測機器の設置に当たっては沿岸砂州が多少切れているところ、および、沖側に蛇行している所を見つけて観測機器を設置した。なお、我が国の海岸では従前の離岸流理論とは異なり、海岸構造物により沿岸流の向きが沖合に変えられて流出し、離岸流と沿岸流の区別が意味を成さない事例も増えており、本研究のような沿岸流の測定も水難事故予防に関し非常に有益と考えた。
 
1)ヘリコプターによる離岸流探査
 ヘリコプターによる上空探査は、9月30日午前9時30分から12時にかけて、目視、可視画像、赤外画像を用いて行った。図2.3.34に示すように、明瞭な離岸流そのものをとらえることはできなかった。なお、ヘリコプターによる上空探査は、吹上浜海岸以外にも、薩摩半島南岸、志布志湾岸、鹿児島湾奥海岸を対象に行った。その内、薩摩半島南岸、および、志布志湾沿岸においては離岸流をとらえることが出来たが、ほとんど波の無い鹿児島湾奥においては離岸流を全くとらえることができなかった。
 
図2.3.34 観測領域での高波浪時の砕波状況
 
2)シーマーカー実験、漂流実験
 吹上浜海岸では、ライフジャケットを着用した観測者2名が砕波帯よりも少し沖側まで泳ぎ、そこから流されるという方法をとった。同時に染料の移流・拡散状況についてもビデオ撮影した。本実験では観測者2名は沿岸流および向岸流に流され、最終的に約20分程度で岸に漂着した。
 
図2.3.35 染料・漂流実験
 
 
図2.3.36 染料・漂流実験(拡大)







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