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2.1.2 海岸域の流れ・水位変動等に係る観測手法の検討
 極浅海域での波動に伴う流体運動の計測は、従来から目的に応じた様々な方法で行われてきた。ここでは、「水位変動(波高)の計測」及び「流速の計測」に分けて述べる。
 
(1)水位変動の計測
 水位変動については、もっぱら定点における圧力変動から適当な応答関数を用いて水位変動を算出するか、水面位置の直接的な計測によって行われている。特に実験室内ではいわゆる波高計(容量式、抵抗式)により直接水位変動の計測が行われる事が多い。一方、現地海岸で直接水位変動を計測する際は、センサー部の耐久性の問題から、超音波式波高計が用いられることが多い。しかし、極浅海域の特に砕波帯内では、超音波波高計を定位置に設置することが容易ではなく、気泡による乱反射のために超音波式波高計が適用しにくいこともある。このような領域では、通常海底に設置した圧カセンサーにより水圧変動を計測し、水圧変動から水位変動を推定する方法で計測される。
 
(2)流速の計測
 流速の計測は、現地海岸、実験室内いずれの場合も流速計を用いた定点での流速測定(オイラー的方法)、あるいは画像に映し込んだトレーサー(例えばシーマーカー)の動きを画像解析することによって計測する(ラグランジェ的方法)ことによって行われている。
 海岸付近での波浪に伴う流れの観測では、水粒子の細かい動きも含めた流れが重要となる。この観測には流速変動に優れた応答性を示す流速計が求められ、計測原理から電磁流速計音響ドップラー流速計が用いられることが多い。前者は流れによってセンサー周辺に引き起こされる磁場の変化を流速に換算するもので、後者は流れの中の超音波ドップラーシフトを利用して流速を計測するものである。
 近年、デジタルビデオカメラやPCなどの高性能化や低廉化を背景としてRemote-Sensingシステムによる面的で長期的な海浜流観測が行われるようになってきている。このようなRemote-Sensing技術の海岸調査への適用は、数十年前から行われており、堀川・佐々木ら(1971)は湘南海岸の離岸流調査において気球カメラ(BAC)・システム、シンクロ・ヘリ(SIHEL)・システムを開発している。前者は気球にカメラを吊るして流速ベクトル、波向、波長、砕波帯の幅などの観測を行うものであり、後者は2機のヘリコプターを用いて同時シャッターを切りステレオ撮影を行い波形及び波高の測定を行うものである。また、橋本・宇多ら(1982〜1983)はリモートセンシング技術を用いて阿字ヶ浦より日立港に至る海域の海浜流循環の観測を行っている。いずれの研究においても記録媒体にフィルムを用いているために、1回の係留で撮影可能な枚数に制約があり、また得られた画像の処理に要する労力も大きく、さらに合理的な技術の開発が必要となった。そこで、Symondsら(1997)はビデオ画像処理を用いたモニタリングによる沿岸流の計測を行っている。これは岸に平行な1測線の画像を時系列で並べることで、砕波後の泡の移動速度を求めようとするものである。また、武若ら(1999〜2001)は、係留気球を用いたビデオ画像解析と既存の接触式の流速計等との比較により、ビデオ画像を用いた沿岸流計測が非常に有用であることを示している。その他、熱映像カメラにより、水塊の微妙な温度差から間接的に海浜流系の流動を把握する試みもある。
 更に、GPSを搭載したブイを流れの中に投入し、その軌跡、移動速度からラグランジェ的に流速を計測する方法も採用され、簡易にかつ機動的に観測できる方法として優れている。しかし、これらラグランジェ的計測の場合、基本的には、波による水粒子速度と海浜流成分との分離が困難である。
 最近、短波レーダーを用いて、広域の波浪や表層流況をリアルタイムで計測する方法も試みられ、目的によっては有効な計測手法となりつつある。
 
(1)一般的な測量方法
 海岸・海底地形測量の最も一般的な方法は、陸域及び調査船が航行できない極浅海域についてはスタッフ・水準儀を用いた直接水準測量、海域部については測量船に搭載した音響測深機による深浅測量である。最近では、音響測深機の代わりにナローマルチビーム測深機を用いた高精度の測深技術を採用されることも多くなった。この方法では指向性の鋭い音響ビームを約90度の幅で発射することにより、面的に精度の高い水深データが得られる。従来の音響測深機による測量成果に比べ、海底の複雑に入り組んだ地形や構造物の形状を把握するのに極めて有効である。
 これら地形測量では、標高又は水深データと同じレベルで位置データが重要となるが、従来の位置計測方法に加えて、最近は効率的で精度の高い、GPSを利用したディファレンシャル測位法も多く用いられるようになった。
 
(2)最近の新しい試み
 上記測量方法は精度的にも確立され、普及している測量技術であるが、いずれも費用と時間がかかる。また、離岸流が特に問題になる極浅海域での測量は、波浪の穏やかな時に限定され、実施にあたっては制約が多い。最近は、これら技術的・経済的制約を解決するため、レーザーを利用した新しい計測も試みられるようになった。陸域については、航空機に搭載して計測するレーザープロファイラー、固定点2地点に設置して計測する3Dレーザースキャナー(3次元レーザー測量器)等がある。いずれも短時間で、精度の高い微細地形データを取得し、処理加工して地形の3次元表示ができるのが特徴である。これに用いられるレーザー光は海面で反射するため、海面下の水深計測はできないが、3Dレーザースキャナーを用いて干潮時に極浅海域(潮間帯域)の海底地形を計測することは可能である。
 海域水中部については、海上保安庁海洋情報部を中心にレーザー測深の実用化に向けて調査研究が進められている。これは通常のレーザー光よりも波長の長いバンドを利用して海水を透過し、海底面からの反射波を受信して水深を計測するシステムである。
 
 文献調査で述べたとおり、最近の研究で、離岸流は海岸特性と波浪に起因する幾つかの発生機構に分類され、それによって特徴的な流況パターンがみられる場合もあることがわかってきた。
(1)流体運動場の不安定性に起因する離岸流(Type-A1、Type-A2)
(2)地形によって生ずる波浪場の不均一性に起因する離岸流(Type-B1、Type-B2、Type-B3)
(3)長周期流体運動による入射波波浪場の変調に起因する離岸流(Type-C)
 今回、離岸流観測の対象海岸の選定にあたっては、離岸流の発生機構に係る次の2つのモデルを設定し、各モデルについて比較のため2海岸を選定した。
 
(1)モデル海岸I
 モデル海岸Iでは、上記(2)、(3)に係る離岸流の構造把握と発生機構の解明を主なねらいとして、潮位変化の小さい日本海に面した海岸を対象に、海底地形(構造物の有無を含む)条件を勘案して、浦富海岸(鳥取県)、波子海岸(島根県)を選定した。これら海岸は過去に離岸流に係る海難事故が発生し、また、事前調査において離岸流の発生が確認されており、観測に適した海岸と考えられる。
 当該海岸での観測により、a)海底地形と波浪場と離岸流の相互関連の把握、b)離岸流の発生機構や内部構造の解明につながる情報取得、c)離岸流のモデル化につながる情報取得、等が期待される。
 
(2)モデル海岸II
 モデル海岸IIでは、上記(1)、(3)に係る離岸流の実態把握とその構造や発生機構の解明を主なねらいとして、潮位変化が大きく、波浪条件の厳しい太平洋に面した青島海岸(宮崎県)、東シナ海に面した吹上浜海岸(鹿児島県)を選定した。これら海岸は漂砂が大きく、砕波帯より浅い海域では規模の大きい澪筋(青島海岸)や多段の沿岸砂州(吹上浜海岸)が見られ複雑な地形となっている。また、周辺域を含めて、海水浴やサーフィンなど年間を通して多くの人に利用されているが、事前調査やヘリコプターによる観測では、大・小規模の離岸流(吹上浜海岸の場合主に沿岸流)の発生が確認され、場所によっては海難事故の危険性が高い海岸と言える。事実、両海岸ともに周辺域では過去に遊泳時の事故も発生している。
 当該海岸での観測により、a)海底地形と波浪場と離岸流の相互関連の把握、b)離岸流の発生機構や内部構造の解明、c)観測手法及び観測機器の有効性評価、d)海岸利用者のリスク回避や海岸管理者の安全管理手法につながる情報取得、等が期待される。
 
図2.1.6 対象海岸の位置
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